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16.地仙、過労する
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仙人と錬金術師は、方向性がまったく違う筈なのだが。蛇乱の説明が何故か止まらない。
「宝貝でも無いのに、自然にまで影響を及ぼす程の陣を、しかも無人で運用しているんだが、驚くほど小さな力で動いているんだよ。これを術に置き換えて、再現してみたら…」
稀華からすれば、攻撃してきた相手が錬金術師な迷宮主らしいという事以外は、正直どうでも良い話しだ。
しかし、目の前でタコもどきの構造やら、部品の精度やら、制御装置の解析結果やら、熱弁を振るっている蛇乱は違うらしい。
それにしても、何か違和感があった。テンションが高すぎるし、どこか此方の話を聞いて居ない。
「そういえば…」
ふと、気になる。
「あんた、寝てる?」
「いや?」
見た覚えが無いので、聞いてみたらあっさり答えが返ってきた。非常識な方面で。
「俺は寝たり食べたりしなくても、問題ないぞ。」
仙人は霞を食べると、よく言われるが実際にはそんな事はしない。深く呼吸をして気を整える様を、よく知らない人間が見て誤解したと言われている。
仙人になりたい人間が無闇に俗世間の食物を絶ってしまい、餓死に至る事もある訳だが、実際には仙人になるのに、修行僧の様な食べ物に関する制限など無かった。
仙人も食事をするし、勿論寝るのである。まあ、例外はあるが。
高位の神仙は、あくまでも嗜好品として食べ物を食し、寝る。
ある意味で宇宙そのものに近いが故に、俗世の者とは様々に違っているのだ。
蛇乱の場合は、それとも事情が異なるのだが。
「俺は器物から仙人に成った口だからな。」
仙人と言っても、必ずしも人から昇仙する訳ではない。
最初から肉体を持った精に近い形で生まれてくる天仙は、それでもある意味、人に近いが、これが地仙となると、千差万別である。
仙人に弟子入りした人間。仙人の飼っていたペットなんかが仙人に至るのは真っ当な方だが、仙人が薬を練っていた薬研が変じたり、こぼした薬が掛かった石が変じる場合もある。
蛇乱が知る一番酷い話は、天仙が引き抜いてポイ捨てした鼻毛が変じた仙人だ。本人は産みの親とも言える天仙を慕っていたが、師匠によると当の天仙はまったく覚えておらず、興味すらないらしい。
こういった経緯で仙人となった一部の仙人は、仙人以前の特徴を持っている事が往々にしてある。
蛇乱の場合は飲食や睡眠が要らず、毒や病に侵されず、呪いに滅法強く、蛇と毒虫を制し、目付きが悪い。
「目付きは、関係ないでしょ。図々しい。」
「ひでぇ…」
さて、蛇乱の説明を聞いた稀華は檳榔と小鯨の二体と目で通じると、ニッコリ微笑んで立ち上がった。
「寝なくても良いのは、判ったわよ?」
「お、おう…」
何だろうか、とても逆らいがたい迫力である。と、蛇乱の身体があっさり持ち上げられた。
「おお? 何だ!?」
檳榔、小鯨に鯨牙が蛇乱の身体を持ち上げている。稀華は突然の事に慌てる蛇乱に再び微笑むと、厳かに命じた。
「寝なさい。」
「なるほど。良くやってくれたのう。」
髭を扱きながら、大仙は深く頷いた。
「前から注意はしとるんだが、どうにも変に頑固でな。」
「師弟揃ってへそ曲がりだからな。」
「然リ、良く似ていル。」
「部外者どもー、うるさいぞー」
蛇乱が寝室に放り込まれ、寝始めてから五日。蛇乱の師匠である『百万畳の』大仙が、『燭蜂の』『八天の』の二人と共に訪れた。
精達は、悩みながらも蛇乱を起こそうとしたが『百万畳の』がそれを止めたのである。
なので、代わりに稀華が説明をする羽目になった。そうしたら、誉められ感謝されたのである。
「器物由来だから大丈夫と言っていましたけれど、違うんですの?」
「あやつは、まだ若いからの。」
「内包している力の総量は、大した事は無いな。」
「普通に天仙ノ稀華の方ガ、多イ。」
「まさか。」
稀華にしてみれば、まさか以外の何物でも無い。
「蛇乱はこの洞天を、宝貝も使わずに創ってるんですよ?あり得ませんわ。」
蛇乱が籠って力の流れを整えている間、稀華は精達と洞天を散策しているが、驚く事ばかりである。この洞天に人は居ないが、いずれ仙に成るかも知れない程の命が、至るところに産まれている位だ。
洞天は別天地を仙人の力で構築、維持している。普通、構築はそこそこ大変で、造るだけで熟達の仙人が数年。場合によっては数十年掛かるし、現実と離れれば離れる程、維持にも力が必要だ。
「この洞天は、一つの世界と言ってもおかしくないと思います。それを、しかもこの短期間で創りあげているんですわよ?」
「そうじゃな。じゃがの、あやつは限られた力の使い方が上手過ぎるだけじゃよ。そして、何より仙人に成ってから若すぎる。人の形に馴れとらんのよ。」
蛇乱が羽化昇仙してから、三百年。
仙人としては、よちよち歩きもいいところだと、大仙は笑った。
「自分の中にある力を活用するばかりで、貯めて増やすのはすこぶる苦手なんじゃ。呼吸や食事、寝る事で己に力を取り込むという発想が備わっておらん。お前さんにゃ面倒掛けるが、これからも不肖の弟子をよろしく頼む。」
「宝貝でも無いのに、自然にまで影響を及ぼす程の陣を、しかも無人で運用しているんだが、驚くほど小さな力で動いているんだよ。これを術に置き換えて、再現してみたら…」
稀華からすれば、攻撃してきた相手が錬金術師な迷宮主らしいという事以外は、正直どうでも良い話しだ。
しかし、目の前でタコもどきの構造やら、部品の精度やら、制御装置の解析結果やら、熱弁を振るっている蛇乱は違うらしい。
それにしても、何か違和感があった。テンションが高すぎるし、どこか此方の話を聞いて居ない。
「そういえば…」
ふと、気になる。
「あんた、寝てる?」
「いや?」
見た覚えが無いので、聞いてみたらあっさり答えが返ってきた。非常識な方面で。
「俺は寝たり食べたりしなくても、問題ないぞ。」
仙人は霞を食べると、よく言われるが実際にはそんな事はしない。深く呼吸をして気を整える様を、よく知らない人間が見て誤解したと言われている。
仙人になりたい人間が無闇に俗世間の食物を絶ってしまい、餓死に至る事もある訳だが、実際には仙人になるのに、修行僧の様な食べ物に関する制限など無かった。
仙人も食事をするし、勿論寝るのである。まあ、例外はあるが。
高位の神仙は、あくまでも嗜好品として食べ物を食し、寝る。
ある意味で宇宙そのものに近いが故に、俗世の者とは様々に違っているのだ。
蛇乱の場合は、それとも事情が異なるのだが。
「俺は器物から仙人に成った口だからな。」
仙人と言っても、必ずしも人から昇仙する訳ではない。
最初から肉体を持った精に近い形で生まれてくる天仙は、それでもある意味、人に近いが、これが地仙となると、千差万別である。
仙人に弟子入りした人間。仙人の飼っていたペットなんかが仙人に至るのは真っ当な方だが、仙人が薬を練っていた薬研が変じたり、こぼした薬が掛かった石が変じる場合もある。
蛇乱が知る一番酷い話は、天仙が引き抜いてポイ捨てした鼻毛が変じた仙人だ。本人は産みの親とも言える天仙を慕っていたが、師匠によると当の天仙はまったく覚えておらず、興味すらないらしい。
こういった経緯で仙人となった一部の仙人は、仙人以前の特徴を持っている事が往々にしてある。
蛇乱の場合は飲食や睡眠が要らず、毒や病に侵されず、呪いに滅法強く、蛇と毒虫を制し、目付きが悪い。
「目付きは、関係ないでしょ。図々しい。」
「ひでぇ…」
さて、蛇乱の説明を聞いた稀華は檳榔と小鯨の二体と目で通じると、ニッコリ微笑んで立ち上がった。
「寝なくても良いのは、判ったわよ?」
「お、おう…」
何だろうか、とても逆らいがたい迫力である。と、蛇乱の身体があっさり持ち上げられた。
「おお? 何だ!?」
檳榔、小鯨に鯨牙が蛇乱の身体を持ち上げている。稀華は突然の事に慌てる蛇乱に再び微笑むと、厳かに命じた。
「寝なさい。」
「なるほど。良くやってくれたのう。」
髭を扱きながら、大仙は深く頷いた。
「前から注意はしとるんだが、どうにも変に頑固でな。」
「師弟揃ってへそ曲がりだからな。」
「然リ、良く似ていル。」
「部外者どもー、うるさいぞー」
蛇乱が寝室に放り込まれ、寝始めてから五日。蛇乱の師匠である『百万畳の』大仙が、『燭蜂の』『八天の』の二人と共に訪れた。
精達は、悩みながらも蛇乱を起こそうとしたが『百万畳の』がそれを止めたのである。
なので、代わりに稀華が説明をする羽目になった。そうしたら、誉められ感謝されたのである。
「器物由来だから大丈夫と言っていましたけれど、違うんですの?」
「あやつは、まだ若いからの。」
「内包している力の総量は、大した事は無いな。」
「普通に天仙ノ稀華の方ガ、多イ。」
「まさか。」
稀華にしてみれば、まさか以外の何物でも無い。
「蛇乱はこの洞天を、宝貝も使わずに創ってるんですよ?あり得ませんわ。」
蛇乱が籠って力の流れを整えている間、稀華は精達と洞天を散策しているが、驚く事ばかりである。この洞天に人は居ないが、いずれ仙に成るかも知れない程の命が、至るところに産まれている位だ。
洞天は別天地を仙人の力で構築、維持している。普通、構築はそこそこ大変で、造るだけで熟達の仙人が数年。場合によっては数十年掛かるし、現実と離れれば離れる程、維持にも力が必要だ。
「この洞天は、一つの世界と言ってもおかしくないと思います。それを、しかもこの短期間で創りあげているんですわよ?」
「そうじゃな。じゃがの、あやつは限られた力の使い方が上手過ぎるだけじゃよ。そして、何より仙人に成ってから若すぎる。人の形に馴れとらんのよ。」
蛇乱が羽化昇仙してから、三百年。
仙人としては、よちよち歩きもいいところだと、大仙は笑った。
「自分の中にある力を活用するばかりで、貯めて増やすのはすこぶる苦手なんじゃ。呼吸や食事、寝る事で己に力を取り込むという発想が備わっておらん。お前さんにゃ面倒掛けるが、これからも不肖の弟子をよろしく頼む。」
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