Melty Kiss Online

荒谷創

文字の大きさ
12 / 12

昔の話

しおりを挟む
階下からは、楽しげな水音が聞こえてきた。
多分、まーちゃんが飛び込んだんだろう。
おじ様は、小さく笑うと馴れた手付きでシェーカーを振るって、カクテルを作ってくれる。
「……」
「あの墓参りに来た人物はジェームズくん。元は大戦後に駐留していた部隊の軍人だ」
Melty kiss storyの初期
まだおじ様が誰とも組まずにソロで動いていた時に、その『物語』は起きたのだと。
「フレンドでも何でもない、野良で組んだ即席のパーティーだったよ……」
「狼男型ホラー妖精の二人組。今でも覚えている」
「当時はまだMelty kiss storyの仕組みを理解仕切れていないプレイヤーも多かった。あの二人だけじゃなく、ルールもマナーも弁えていないプレイヤーも居たんだ……あれは失敗だった」
「私も、普段なら手伝ったりしなかっただろうね。だが、あの日はリアルで良くない事があって、何となく人とのコミュニケーションに飢えていたんだ」
「舞台は大戦後。駐留軍の軍人と、地元の食堂に勤める女性を男の国へと送り出す物語」
「ところが、女性……花房 光枝はなぶさ みつえさんが肺結核に罹患していたんだ」
「当時は肺結核は死病に近く、発症した罹患者は隔離された。当然、渡航など許されない」
「二人の結婚も法的に認められなかった。彼女の父親は故人だったが、B級戦犯とされていたんだ。その法的な手続きを上手く工作する事、彼女が、発症する前に治療を行う事。それを同時進行する必要があった」
「実際の歴史では、投薬治療のノウハウが確立するのはもう少し後だったんだが、物語では必要な薬品は指定されていたし、その入手は然程難しく設定されていなかった」
SHOPで買えた位だからね。
「もしかして、空色ソーダ?」
「そう。万能薬空色ソーダだよ」
それはシャムおばちゃんの所で買える薬。物語中の色んな病気を治す効果がある便利な薬なんだけど。
結構、お高い……
わたしなんかは、買わずに材料集めて作る方が遥かに安上がりなので、実は買った事が無い。
「法的な手続きの方は、ちょっと難しいミニゲームをクリアしなきゃならなかったし、二人組には無理そうだったから、二手に分かれたんだ」
それが間違いだった
「二人は、空色ソーダを買えるだけの持ち合わせが無いと言った。だから、その分を渡したんだ」
「まさか……」
「そう。彼等は帰って来なかったんだ。持ち逃げしたんだよ」
「法的な手続きは終わったが、光枝さんは結核を発症。ジェームズくんは帰国を余儀なくされ、彼女は渡航出来なかった……物語はENDとだけ表示されて終わり、TMポイントも入らなかった」
「墓碑銘と彼の顔を見た時、判った。これはだと」
ほんの少しだけ、胸のつかえが取れた思いだよ。
そう言っているおじ様は、まだ寂しそうだった。

「その二人組って……」
「蒼月ブラザーズさ。知ってるかい?」
「あの悪質プレイヤーですか!?」
Melty kiss storyで、結構な被害者を生んだ悪質プレイヤーの二人組だ。
わたしは会った事は無かったけど、結構長い事寸借詐欺やクレクレ、偽情報の拡散とかでMelty kissを荒らしていた、善良な一般プレイヤーの天敵みたいな奴等だ。
クーくんやまーちゃん辺りならきっと相当毟り取られるだろう。
「まさか、復帰してないでしょうね」
「……注意喚起はしておいた方が良いかな」
「そですね」
わたしとおじ様は、顔を見合わせた。
他にも何人か、厄介なプレイヤーがいるかも知れない。それ等からクーくんやまーちゃんの様な子供を守らなくては。
わたしの癒し
大好きなMelty kissを汚すものは、何人たりとも許さないんだからね!

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...