雨の夜、家出少女は僕を支配する

枢名ゆい

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雨の中の出会い_1

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雨の降りしきる金曜の夜、優斗は残業を終え、疲れた足取りで駅へと向かっていた。30歳、独身。システム開発会社の中間管理職として、日々の激務に追われる毎日だった。

「はぁ……今日も終わらなかったな」

肩を落とし、雨に濡れた道を歩く。
傘を差しながらも、冷たい雨粒が頬を打つ。
六月の梅雨時期特有の湿気と冷たさが、彼の疲労感をさらに増幅させていた。

どこか居酒屋か少しリッチにバーにでも入って、美味い酒でも飲みたい気分だった。
きょろきょろと店を探しながら繁華街の路地を抜けようとしたとき、優斗の目に小さな人影が飛び込んできた。路地裏のベンチに、少女が一人肩を震わせて座っていた。

普段なら厄介ごとは避けたいと思い踵を返すところだが、こんな夜に一人で雨に打たれている少女と目が合ってしまってはそうもいかない。優斗はゆっくりとその少女に歩み寄った。

「大丈夫か?」

思わず声をかけた優斗に、少女はゆっくりと顔を上げた。

「……」

木陰に居たおかげかずぶぬれというわけでもないが、それでも雨に濡れた黒髪から水滴が伝い落ち、少女の頬を流れていく。
まだあどけなさの残る顔立ちだった。しかし、その瞳には年齢不相応の鋭さがあり、引き込まれそうなほど美しかった。少女は優斗の顔を見上げると、数秒間黙って見つめた後、静かに言った。

「すみません……」

か細い声で少女が口を開く。

「今日、泊まるところがなくて……」

優斗は一瞬、言葉に詰まった。家出少女だろうか。本来なら警察に連絡するべきだ。しかし、少女の目には何か訴えるものがあった。

「何かあったのか?家出……とか?」
「ちょっと……家に帰れないんです」

少女は言葉を濁す。優斗は困惑しながらも、雨の中で震える少女を放っておけない気持ちに駆られた。

「とりあえず、この雨じゃ風邪をひくぞ。近くのカフェででも、そこで話を聞こうか」

少女は小さく頷き、ゆっくりと立ち上がった。優斗の傘に入るよう促すと、少女は遠慮がちに傘の下に入ってきた。わずかな距離で感じる体温に、優斗は妙な緊張感を覚えた。
コンビニでタオルを何枚か購入しカフェに入り、温かい飲み物を注文する。少女は両手でカップを包み込むように持ち、その温もりに安堵の表情を浮かべた。

「わたし、芽依っていいます」

突然、少女が名乗った。

「優斗だ」

彼は自己紹介を返しながら、状況を整理しようとした。しかし、次の芽依の言葉に、優斗は思考が止まった。

「優斗さん……」

4人掛けのファミリー席なのにわざわざ隣の席に座ってきて、芽依は一度深呼吸をし、決意を固めたように言葉を続けた。

「ホテル代と食事をおごってもらえませんか?その代わり……私が……」

そう言いながら身を寄せてきた彼女に、優斗は思わずごくりと喉を鳴らした。芽依は優斗の手を掴み、そのまま自分の方へと引き寄せる。
言葉を濁す芽依に、優斗は状況を察した。こんなことどこで覚えたのか。頭では即座に断るべきだと理解していた。しかし、雨に濡れた少女の儚げな表情に、優斗の理性は揺らいでいた。

「そんなことしなくていい。とりあえず警察に————」
「お願いします!一晩だけでいいですから」

芽依の声には切実さがあった。優斗は彼女の目をじっと見つめた。そこには恐怖や強制された様子はなく、ただ必死さだけがあるように見えた。

「……わかった」

優斗は自分の言葉に驚いた。何を言っているんだ、俺は。しかし、口から出た言葉を取り消すことはできなかった。

「でも、そんなことしなくていい。まずは温かいシャワーをあびて、それから食事にしよう」

芽依の表情が明るくなる。その無邪気な笑顔に、優斗は胸の内で複雑な感情が渦巻くのを感じた。
カフェを出た二人は、近くのビジネスホテルへと向かった。
気になっていたフロントでも特に疑問を呈されることもなく、部屋のカードキーを渡してくれた。

エレベーターの中、狭い空間に二人きりとなり、優斗は再び緊張感を覚えた。芽依は黙ったまま床を見つめている。
視線が合うとコロコロと表情をかえる彼女だが、こうして黙っていると整った容姿と相まってかわいさ際立つように思えた。
部屋はシンプルながらも清潔なよくあるツインルームだった。

「まずはシャワーを浴びるといい。その間に、コンビニで何か食べるものを買ってくるよ」

優斗は芽依にそう声をかけ部屋を出た。廊下に出た瞬間、彼は壁に寄りかかり、深く息を吐いた。

「何やってるんだ、俺は……」

コンビニでおにぎりとサンドイッチ、飲み物を買い、部屋に戻る。ドアを開けると、シャワーの音が聞こえた。優斗はベッドの端に腰掛け、買ってきた食べ物を並べながら、自分の行動を正当化しようとしていた。

「ただ助けているだけだ。それ以上でも以下でもない」

しかし、バスルームのドアが開き、湯気と共に現れた芽依の姿に、優斗の思考は一瞬で霧散した。

ホテルのバスローブ姿の芽依は、シャワーで火照った頬を赤く染め、濡れた髪を肩に垂らしていた。体よりも何周りも大きなバスローブの隙間から覗く鎖骨のラインに、優斗は思わず目を奪われた。
そして、それよりも彼が気づいたのは、芽依の表情が、カフェで見せていた儚げな少女の顔とは微妙に異なっていることだった。
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