コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

第92話 クリスマスの大誤解

　今日は12月24日。クリスマスイブだからといって平日だから仕事が休みなわけではなく、サイトウは会社で忙しく働いていた。定時を過ぎ、時計の針は18時を指している。

　仕事も片付き、帰宅の準備を始めたサイトウに、同じ営業フロアの小西くんが声をかけてきた。

「サイトウ先輩、今から時間ありますか？　仕事の件で相談したいことがありまして……」

　サイトウは少し驚いた。定時後に、しかもクリスマスイブに仕事の相談とは珍しい。しかし、困っている後輩を放っておけないのがサイトウの性分だ。

「うん、大丈夫だよ。どうしたんだ？」

　サイトウがそう言うと、小西くんはホッとした表情を浮かべ、会社の近くのカフェへとサイトウを誘った。

　カフェに着くと、小西くんは仕事の相談を始めた。しかし、その内容はどれも些細なことで、サイトウはすぐに解決策を答えることができた。それなのに、小西くんは次から次へとどうでもいいような質問を繰り返してきた。

（もしかして、小西くんも何か理由があって帰れないのかな……？）

　サイトウは優しさから、小西くんの話を最後まで聞くしかなかった。しかし、頭の中はイズミのことでいっぱいだった。

（イズミは今頃、彼女とクリスマスを過ごしてるのかな……）

　サイトウは、イズミに彼女ができたと勝手に思い込んでから、なんとなく落ち着かない日々を送っていた。今日も「用事があるから先に仕事あがる」とメッセージが来ていたから、きっとそうに違いない。そう考えると、イズミを祝福してあげたいような、しかし少し寂しいような、複雑な気持ちになった。

　サイトウは、いてもたってもいられなくなり、小西くんの話を遮るように質問した。

「小西くん、今日はクリスマスイブだけど、結菜ちゃんとはいいのかい？」

　サイトウの唐突な質問に、小西くんはハッとした顔をして、明らかに慌てていた。

「え、あ、それは……はい！　明日がありますから！」

　小西くんはそう言って、なんとか話をはぐらかした。


　その頃、サイトウの家では、イズミと結菜がサプライズパーティーの準備をしていた。

「兄さん、本当に小西さん、サイトウさんのこと足止めできてるかな……？」

　結菜が心配そうに尋ねると、イズミは自信満々に答えた。

「大丈夫だ。あいつに任せておけば、絶対にサイトウは何も疑わない」

　イズミの言葉に、結菜は少し不安そうにしながらも、料理の準備を続けた。イズミは、サイトウに用意したクリスマスプレゼントを手に取り、不器用ながらも一生懸命にサイトウを喜ばせようと準備を進めていた。


　​サイトウと小西くんはカフェを出て、駅へと向かった。

​「サイトウ先輩、今日はこのあと特に予定ないですよね？　相談の続きはサイトウ先輩の家でお願いしてもいいですか？」

　​小西くんからの思いがけない申し出に、サイトウは少し戸惑った。しかし、小西くんが困っているのなら、と断る理由も見つからなかった。

​「うん、いいよ。まだ相談したいこと残ってるんだ？」
​「はい！　どうしても今日中に、サイトウ先輩の意見が聞きたくて……」

　​小西くんはそう言って、サイトウの隣を歩いた。サイトウは、自分の知らないところで、イズミが新しい世界を作っているような寂しさを感じながら、小西くんと共に自分の家へと向かった。

　​サイトウと小西くんが家に着き、ドアを開けてリビングに入ると、クラッカーの音が鳴り響いた。ビックリして目を閉じたサイトウが、再び目を開けると、そこにはクリスマスツリーが輝き、食卓には豪華な料理が並んでいた。そして、その中心で、満面の笑みを浮かべるイズミと結菜がいた。

「サイトウ、メリークリスマス！」

　​イズミがそう言うと、サイトウは、頭の中が真っ白になった。

​（え、なんで、イズミと結菜ちゃんがここにいるんだ……？）

　​サイトウは、状況が理解できずに、ただただ困惑していた。