コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

西東キリム

文字の大きさ
37 / 95

第37話 不協和音と新たな影

しおりを挟む
 田島部長との和やかな挨拶が終わり、サイトウは改めて堂島玲に目を向けた。堂島はピシッとしたスーツ姿で、どこか非の打ち所がない完璧さを纏っている。

「あなたがサイトウさんですか。田島部長からあなたのお話は聞いていますよ。大変優秀な営業さんだとか」

 堂島はそう言いながら、口元にわずかな笑みを浮かべた。その言葉は丁寧な響きを持つ一方で、どこか含みがあるようにサイトウには感じられた。しかし、サイトウはいつものように、深くは気にしないことにした。「優秀な営業さん」という言葉も、いつもの「なんでだ?」という困惑に繋がるだけだ。
 だが、サイトウの隣にいた小西くんは、堂島の言葉に強く反応したらしい。目を輝かせ、興奮した様子で堂島に向き直った。

「そうなんですよ! 弊社のサイトウは本当にすごいんです! ナンデモフーズさんとの取引も、最初はトラブルからだったのに、最終的にはサイトウ先輩の人間力で……」

 小西くんは、サイトウの「功績」を熱弁しようと、言葉を連ねていく。サイトウは、隣で必死に自分を褒めようとしている小西くんを見て、冷や汗をかいた。いつものことながら、こうやって熱く語られると、どう反応すればいいのか分からない。
 小西くんが、まさに「人間力」という言葉を言い終えようとした、その瞬間だった。
 堂島が、スッと顔色一つ変えずに、小西くんをキッと睨んだ。その視線は、まるで氷のように冷たく、鋭い。

「君の話は聞いてはいないよ」

 堂島は、静かで、しかし明確な拒絶の言葉を放った。
 その言葉が発せられた途端、小西くんの動きが、まるでスローモーションになったかのように止まった。言いかけた口をあいたまま、身体全体がフリーズしたかのように静止している。表情は、困惑と、そしてどこか怯えのようなものを浮かべていた。
 サイトウは、突然固まったまま動かなくなった小西くんを訝しんだ。

「……小西くん? どうかした?」

 サイトウが声をかけると、小西くんはハッと我に返ったかのように、大きく息を吸い込んだ。

「い、いえ……! な、なぜか、言葉を発してはイケナイ気になってしまって……」

 小西くんは、なぜ自分の口があのまま止まってしまったのか、自分でも全く理解できない様子で動揺している。顔色は青ざめ、額には冷や汗が滲んでいた。サイトウは、そんな小西くんを横目に、言いようのない不穏な感覚に包まれた。

「では、今日は田島部長とのお話も終わりましたので、私はここらでお暇させていただきますね」

 堂島は、まるで何もなかったかのように、涼しい顔でそう告げた。そして、出口へ向かいながら、サイトウの方に視線を向けた。

「サイトウさん、今度またお会いしましょう」

 その言葉は、まるでサイトウを試すかのような、挑発的な響きを帯びているようにサイトウには感じられた。堂島は、すっと部屋を出ていく。その背中は、どこまでも完璧で、冷ややかな空気を残していった。
 堂島が部屋を出ていくと、田島部長が優しい口調でサイトウに話しかけた。

「ところで、サイトウくんの所も内製化について何か提案をしてくれたりするのかな?」

 サイトウは、まだ堂島の残した奇妙な空気と、小西くんの様子に戸惑っていたが、田島部長の言葉にはっきりと答えた。

「はい! 是非今度弊社の提案もお持ちさせていただきたいです!」

 サイトウは、その日の挨拶を終え、未だ顔色の優れない小西くんを連れて、ナンデモフーズを後にした。

 家に帰ってから、今日の話をイズミに話すサイトウ。イズミはサイトウの困惑した顔を見て、フッと笑った。

「内製化な。最近よくある話だよ。うちの会社でも、こないだ別の会社で同じような提案したばかりだから、今度それ持って、一緒に提案しに行こうぜ」

 イズミがそう言うと、サイトウは少し顔色を明るくした。さすが頼れるSEだ。イズミと一緒なら、多少は心強い。

「でもさ、なんかそのイグニス・パートナーズの堂島って人はなんか引っかかるな。実はさ、最近その名前よく聞くんだよ。そいつがプレゼンしたら必ず成功するとかってさ」

 イズミの言葉に、サイトウは今日の堂島の冷ややかな視線と、小西くんの奇妙なフリーズを思い出した。

「そうなの? 確かにスマートな感じで仕事できそうだったな」

 サイトウはそう口にするが、まだ胸の中に引っかかるものがあった。

「でも、何ていうのかな、変なオーラみたいのがあったんだよね。小西くんもなんか変だったし、まるで彼の言葉で動けなくなったみたいに……」

 サイトウの曖昧な表現に、イズミの顔が少しだけ引き締まる。

「そいつはちょっと気になるな。今度小西にも話聞いてみようぜ」

 イズミはそう言って、サイトウの顔をじっと見つめた後、「そろそろ飯の準備するわ」と、言葉を濁すように台所に消えていくのだった。その背中には、どこかサイトウには分からない、警戒のような雰囲気が漂っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...