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第37話 不協和音と新たな影
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田島部長との和やかな挨拶が終わり、サイトウは改めて堂島玲に目を向けた。堂島はピシッとしたスーツ姿で、どこか非の打ち所がない完璧さを纏っている。
「あなたがサイトウさんですか。田島部長からあなたのお話は聞いていますよ。大変優秀な営業さんだとか」
堂島はそう言いながら、口元にわずかな笑みを浮かべた。その言葉は丁寧な響きを持つ一方で、どこか含みがあるようにサイトウには感じられた。しかし、サイトウはいつものように、深くは気にしないことにした。「優秀な営業さん」という言葉も、いつもの「なんでだ?」という困惑に繋がるだけだ。
だが、サイトウの隣にいた小西くんは、堂島の言葉に強く反応したらしい。目を輝かせ、興奮した様子で堂島に向き直った。
「そうなんですよ! 弊社のサイトウは本当にすごいんです! ナンデモフーズさんとの取引も、最初はトラブルからだったのに、最終的にはサイトウ先輩の人間力で……」
小西くんは、サイトウの「功績」を熱弁しようと、言葉を連ねていく。サイトウは、隣で必死に自分を褒めようとしている小西くんを見て、冷や汗をかいた。いつものことながら、こうやって熱く語られると、どう反応すればいいのか分からない。
小西くんが、まさに「人間力」という言葉を言い終えようとした、その瞬間だった。
堂島が、スッと顔色一つ変えずに、小西くんをキッと睨んだ。その視線は、まるで氷のように冷たく、鋭い。
「君の話は聞いてはいないよ」
堂島は、静かで、しかし明確な拒絶の言葉を放った。
その言葉が発せられた途端、小西くんの動きが、まるでスローモーションになったかのように止まった。言いかけた口をあいたまま、身体全体がフリーズしたかのように静止している。表情は、困惑と、そしてどこか怯えのようなものを浮かべていた。
サイトウは、突然固まったまま動かなくなった小西くんを訝しんだ。
「……小西くん? どうかした?」
サイトウが声をかけると、小西くんはハッと我に返ったかのように、大きく息を吸い込んだ。
「い、いえ……! な、なぜか、言葉を発してはイケナイ気になってしまって……」
小西くんは、なぜ自分の口があのまま止まってしまったのか、自分でも全く理解できない様子で動揺している。顔色は青ざめ、額には冷や汗が滲んでいた。サイトウは、そんな小西くんを横目に、言いようのない不穏な感覚に包まれた。
「では、今日は田島部長とのお話も終わりましたので、私はここらでお暇させていただきますね」
堂島は、まるで何もなかったかのように、涼しい顔でそう告げた。そして、出口へ向かいながら、サイトウの方に視線を向けた。
「サイトウさん、今度またお会いしましょう」
その言葉は、まるでサイトウを試すかのような、挑発的な響きを帯びているようにサイトウには感じられた。堂島は、すっと部屋を出ていく。その背中は、どこまでも完璧で、冷ややかな空気を残していった。
堂島が部屋を出ていくと、田島部長が優しい口調でサイトウに話しかけた。
「ところで、サイトウくんの所も内製化について何か提案をしてくれたりするのかな?」
サイトウは、まだ堂島の残した奇妙な空気と、小西くんの様子に戸惑っていたが、田島部長の言葉にはっきりと答えた。
「はい! 是非今度弊社の提案もお持ちさせていただきたいです!」
サイトウは、その日の挨拶を終え、未だ顔色の優れない小西くんを連れて、ナンデモフーズを後にした。
家に帰ってから、今日の話をイズミに話すサイトウ。イズミはサイトウの困惑した顔を見て、フッと笑った。
「内製化な。最近よくある話だよ。うちの会社でも、こないだ別の会社で同じような提案したばかりだから、今度それ持って、一緒に提案しに行こうぜ」
イズミがそう言うと、サイトウは少し顔色を明るくした。さすが頼れるSEだ。イズミと一緒なら、多少は心強い。
「でもさ、なんかそのイグニス・パートナーズの堂島って人はなんか引っかかるな。実はさ、最近その名前よく聞くんだよ。そいつがプレゼンしたら必ず成功するとかってさ」
イズミの言葉に、サイトウは今日の堂島の冷ややかな視線と、小西くんの奇妙なフリーズを思い出した。
「そうなの? 確かにスマートな感じで仕事できそうだったな」
サイトウはそう口にするが、まだ胸の中に引っかかるものがあった。
「でも、何ていうのかな、変なオーラみたいのがあったんだよね。小西くんもなんか変だったし、まるで彼の言葉で動けなくなったみたいに……」
サイトウの曖昧な表現に、イズミの顔が少しだけ引き締まる。
「そいつはちょっと気になるな。今度小西にも話聞いてみようぜ」
イズミはそう言って、サイトウの顔をじっと見つめた後、「そろそろ飯の準備するわ」と、言葉を濁すように台所に消えていくのだった。その背中には、どこかサイトウには分からない、警戒のような雰囲気が漂っていた。
「あなたがサイトウさんですか。田島部長からあなたのお話は聞いていますよ。大変優秀な営業さんだとか」
堂島はそう言いながら、口元にわずかな笑みを浮かべた。その言葉は丁寧な響きを持つ一方で、どこか含みがあるようにサイトウには感じられた。しかし、サイトウはいつものように、深くは気にしないことにした。「優秀な営業さん」という言葉も、いつもの「なんでだ?」という困惑に繋がるだけだ。
だが、サイトウの隣にいた小西くんは、堂島の言葉に強く反応したらしい。目を輝かせ、興奮した様子で堂島に向き直った。
「そうなんですよ! 弊社のサイトウは本当にすごいんです! ナンデモフーズさんとの取引も、最初はトラブルからだったのに、最終的にはサイトウ先輩の人間力で……」
小西くんは、サイトウの「功績」を熱弁しようと、言葉を連ねていく。サイトウは、隣で必死に自分を褒めようとしている小西くんを見て、冷や汗をかいた。いつものことながら、こうやって熱く語られると、どう反応すればいいのか分からない。
小西くんが、まさに「人間力」という言葉を言い終えようとした、その瞬間だった。
堂島が、スッと顔色一つ変えずに、小西くんをキッと睨んだ。その視線は、まるで氷のように冷たく、鋭い。
「君の話は聞いてはいないよ」
堂島は、静かで、しかし明確な拒絶の言葉を放った。
その言葉が発せられた途端、小西くんの動きが、まるでスローモーションになったかのように止まった。言いかけた口をあいたまま、身体全体がフリーズしたかのように静止している。表情は、困惑と、そしてどこか怯えのようなものを浮かべていた。
サイトウは、突然固まったまま動かなくなった小西くんを訝しんだ。
「……小西くん? どうかした?」
サイトウが声をかけると、小西くんはハッと我に返ったかのように、大きく息を吸い込んだ。
「い、いえ……! な、なぜか、言葉を発してはイケナイ気になってしまって……」
小西くんは、なぜ自分の口があのまま止まってしまったのか、自分でも全く理解できない様子で動揺している。顔色は青ざめ、額には冷や汗が滲んでいた。サイトウは、そんな小西くんを横目に、言いようのない不穏な感覚に包まれた。
「では、今日は田島部長とのお話も終わりましたので、私はここらでお暇させていただきますね」
堂島は、まるで何もなかったかのように、涼しい顔でそう告げた。そして、出口へ向かいながら、サイトウの方に視線を向けた。
「サイトウさん、今度またお会いしましょう」
その言葉は、まるでサイトウを試すかのような、挑発的な響きを帯びているようにサイトウには感じられた。堂島は、すっと部屋を出ていく。その背中は、どこまでも完璧で、冷ややかな空気を残していった。
堂島が部屋を出ていくと、田島部長が優しい口調でサイトウに話しかけた。
「ところで、サイトウくんの所も内製化について何か提案をしてくれたりするのかな?」
サイトウは、まだ堂島の残した奇妙な空気と、小西くんの様子に戸惑っていたが、田島部長の言葉にはっきりと答えた。
「はい! 是非今度弊社の提案もお持ちさせていただきたいです!」
サイトウは、その日の挨拶を終え、未だ顔色の優れない小西くんを連れて、ナンデモフーズを後にした。
家に帰ってから、今日の話をイズミに話すサイトウ。イズミはサイトウの困惑した顔を見て、フッと笑った。
「内製化な。最近よくある話だよ。うちの会社でも、こないだ別の会社で同じような提案したばかりだから、今度それ持って、一緒に提案しに行こうぜ」
イズミがそう言うと、サイトウは少し顔色を明るくした。さすが頼れるSEだ。イズミと一緒なら、多少は心強い。
「でもさ、なんかそのイグニス・パートナーズの堂島って人はなんか引っかかるな。実はさ、最近その名前よく聞くんだよ。そいつがプレゼンしたら必ず成功するとかってさ」
イズミの言葉に、サイトウは今日の堂島の冷ややかな視線と、小西くんの奇妙なフリーズを思い出した。
「そうなの? 確かにスマートな感じで仕事できそうだったな」
サイトウはそう口にするが、まだ胸の中に引っかかるものがあった。
「でも、何ていうのかな、変なオーラみたいのがあったんだよね。小西くんもなんか変だったし、まるで彼の言葉で動けなくなったみたいに……」
サイトウの曖昧な表現に、イズミの顔が少しだけ引き締まる。
「そいつはちょっと気になるな。今度小西にも話聞いてみようぜ」
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