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第39話 二つの影響力
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ナンデモフーズの会議室。サイトウと小西くん、そしてイズミは、緊張しながら扉を開けた。しかし、室内の光景に、三人は思わず息を呑んだ。
上座には田島部長が座っているが、その向かい、まさにプレゼンターが立つべき位置に、すでに堂島 玲が立っていたのだ。彼は、一切の隙のない完璧なスーツ姿で、まるで舞台の主役のようにそこに存在していた。
「やあ、君たち、ご苦労様。ちょうど堂島くんのプレゼンが終わったところだよ。いやはや、素晴らしい内容だった。彼の提案は、まさに我々が求めていたものかもしれないね」
田島部長の言葉は、率直な賞賛に満ちていた。その表情には、深い納得と、期待の色がはっきりと見て取れる。サイトウは、自分たちが来る前に既にプレゼンが終わっていたことに驚きを隠せない。しかも、部長がここまで堂島を評価しているとは。小西くんも、堂島の完璧な佇まいと、田島部長の言葉に、思わずごくりと唾を飲んだ。
堂島は、サイトウたちに一瞥をくれるだけで、その口元にはわずかな、しかし明確な余裕の笑みが浮かんでいた。まるで、自分たちの勝利はすでに決まっている、とでも言いたげな態度だ。サイトウは、その冷ややかな自信に、言いようのない不穏さを感じた。
「では、君たちも準備ができ次第、始めてくれ」
田島部長の言葉に促され、サイトウたちは慌てて資料を広げた。完璧なプレゼンを終えたばかりのライバルが目の前にいる状況は、サイトウにとって尋常ではないプレッシャーだ。彼のコミュ障は最高潮に達し、声は上ずり、手元の資料を持つ手が震える。
「えっと……本日は、RPAツクールの内製化提案について、ご説明させていただきます……」
サイトウは、震える声で何とか冒頭の言葉を絞り出した。堂島が、サイトウのぎこちなさにわずかに口元を歪めるのが見えた。
「最初に、現状の課題についてですが……」
サイトウは、資料の画面を指し示すが、次の言葉が出てこない。田島部長は、優しくサイトウを見守っている。その時だった。
「はい、御社が懸念されている通り、現状の業務フローには多くのボトルネックが存在します。特に、〇〇部門での△△業務は、手作業によるミスや時間ロスが顕著です」
イズミが、サイトウの言葉を的確に補足した。彼の声は落ち着いていて、論理的だ。スライドには、イズミが作成したであろう、現状の課題を分かりやすく図解した資料が映し出されている。田島部長は、イズミの言葉に感心したように頷いた。
「そこで、私たちが提案させていただくのが、こちら、RPAツクールの導入による業務効率化です」
イズミが画面を切り替える。その瞬間、小西くんが勢いよく身を乗り出した。
「RPAツクールは、プログラミングの知識がなくても、直感的な操作で業務を自動化できる画期的なツールです! 例えば、日々のデータ入力作業や、定型的なメール送信など、多岐にわたる業務に対応可能です!」
小西くんは、熱のこもった声で、身振り手振りを交えながら説明する。その真っ直ぐな情熱は、堂島の洗練されたプレゼンとは対照的だが、なぜか聞き手の心に響くものがあった。サイトウは、小西くんの熱意に助けられ、少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
「えっと……その、導入することで、時間とコストを大幅に削減できますし、……えっと……社員の皆さんの、負担も……減らすことができます」
サイトウは、拙いながらも自分の言葉でメリットを伝えようとする。彼の言葉はぎこちないが、田島部長はなぜかその言葉に、深く頷いているように見えた。
堂島は、冷静にサイトウたちのプレゼンを観察していた。サイトウの不自然なほどのぎこちなさが、なぜか田島部長の警戒心を解き、共感を呼んでいることに気づき、堂島の完璧な表情にわずかな亀裂が入る。イズミの的確なフォローと、小西くんの熱意も、堂島の予想を上回るものだった。
やがて、サイトウたちのプレゼンが終わり、質疑応答に移る。田島部長はいくつか質問を投げかけ、サイトウとイズミ、小西くんが連携して答えていく。そのやり取りは、堂島のプレゼンとは異なる、どこか人間味のある空気を生み出していた。
その時だった。
「よろしいでしょうか」
静かに口を開いたのは、堂島だった。彼の声は、会議室の空気を一瞬で引き締め、全員の視線を自分に集める。イズミの顔色が、わずかに優れない。
(なんだ? あいつの言葉を聞くと、すごく嫌な気分になるぜ……)
イズミは、堂島の声が響くたびに、胸の奥底から湧き上がってくるような不快感を覚えていた。それは、頭痛や吐き気にも似た、生理的な嫌悪感だった。
「貴社の提案は、非常に興味深く、熱意を感じました。しかし、申し上げにくいですが、技術的な合理性や費用対効果の観点から見ると、私共イグニス・パートナーズの提案に比べ、いくつかの点で劣ると言わざるを得ません」
堂島は、まるでサイトウたちのプレゼンを細部まで分析し尽くしていたかのように、的確に、しかし冷徹に弱点を突いてくる。彼の言葉には、圧倒的な説得力と、相手の思考を支配しようとする明確な意図が込められていた。彼の声が響くたび、会議室の空気は張り詰め、田島部長の表情にも、サイトウたちの提案への疑問が浮かび始めるのがサイトウにも見て取れた。
「例えば、初期導入コストの面では貴社の方が安価に見えますが、長期的な視点で見ると、当社の提案は、より汎用性の高いAIを活用することで、将来的な拡張性において貴社を大きく上回ります。結果として、トータルコストでは当社の優位性は揺るぎません」
堂島の言葉は、理路整然とし、一切の反論を許さないかのような説得力があった。彼の声は、会議室の全員の耳に直接語りかけるように響き渡り、田島部長だけでなく、サイトウたちの心にも、『なるほど、彼が言う通りだ』という思考を強制的に植え付けていくかのようだ。小西くんは、またしても顔色を失い、堂島の言葉に引き込まれるように、じっと彼を見つめている。彼の目は、再び虚ろになりかけていた。イズミは、吐き気をこらえながら、必死に意識を保とうとしていた。
このままでは、田島部長の判断が、堂島の思惑通りに傾いてしまう。
サイトウは、どうにかこの状況を打開しようと、必死に言葉を探した。彼の心の中には、部長の顔に浮かんだ「疑問」を、どうにかして「納得」に変えたいという、純粋な思いだけがあった。
上座には田島部長が座っているが、その向かい、まさにプレゼンターが立つべき位置に、すでに堂島 玲が立っていたのだ。彼は、一切の隙のない完璧なスーツ姿で、まるで舞台の主役のようにそこに存在していた。
「やあ、君たち、ご苦労様。ちょうど堂島くんのプレゼンが終わったところだよ。いやはや、素晴らしい内容だった。彼の提案は、まさに我々が求めていたものかもしれないね」
田島部長の言葉は、率直な賞賛に満ちていた。その表情には、深い納得と、期待の色がはっきりと見て取れる。サイトウは、自分たちが来る前に既にプレゼンが終わっていたことに驚きを隠せない。しかも、部長がここまで堂島を評価しているとは。小西くんも、堂島の完璧な佇まいと、田島部長の言葉に、思わずごくりと唾を飲んだ。
堂島は、サイトウたちに一瞥をくれるだけで、その口元にはわずかな、しかし明確な余裕の笑みが浮かんでいた。まるで、自分たちの勝利はすでに決まっている、とでも言いたげな態度だ。サイトウは、その冷ややかな自信に、言いようのない不穏さを感じた。
「では、君たちも準備ができ次第、始めてくれ」
田島部長の言葉に促され、サイトウたちは慌てて資料を広げた。完璧なプレゼンを終えたばかりのライバルが目の前にいる状況は、サイトウにとって尋常ではないプレッシャーだ。彼のコミュ障は最高潮に達し、声は上ずり、手元の資料を持つ手が震える。
「えっと……本日は、RPAツクールの内製化提案について、ご説明させていただきます……」
サイトウは、震える声で何とか冒頭の言葉を絞り出した。堂島が、サイトウのぎこちなさにわずかに口元を歪めるのが見えた。
「最初に、現状の課題についてですが……」
サイトウは、資料の画面を指し示すが、次の言葉が出てこない。田島部長は、優しくサイトウを見守っている。その時だった。
「はい、御社が懸念されている通り、現状の業務フローには多くのボトルネックが存在します。特に、〇〇部門での△△業務は、手作業によるミスや時間ロスが顕著です」
イズミが、サイトウの言葉を的確に補足した。彼の声は落ち着いていて、論理的だ。スライドには、イズミが作成したであろう、現状の課題を分かりやすく図解した資料が映し出されている。田島部長は、イズミの言葉に感心したように頷いた。
「そこで、私たちが提案させていただくのが、こちら、RPAツクールの導入による業務効率化です」
イズミが画面を切り替える。その瞬間、小西くんが勢いよく身を乗り出した。
「RPAツクールは、プログラミングの知識がなくても、直感的な操作で業務を自動化できる画期的なツールです! 例えば、日々のデータ入力作業や、定型的なメール送信など、多岐にわたる業務に対応可能です!」
小西くんは、熱のこもった声で、身振り手振りを交えながら説明する。その真っ直ぐな情熱は、堂島の洗練されたプレゼンとは対照的だが、なぜか聞き手の心に響くものがあった。サイトウは、小西くんの熱意に助けられ、少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
「えっと……その、導入することで、時間とコストを大幅に削減できますし、……えっと……社員の皆さんの、負担も……減らすことができます」
サイトウは、拙いながらも自分の言葉でメリットを伝えようとする。彼の言葉はぎこちないが、田島部長はなぜかその言葉に、深く頷いているように見えた。
堂島は、冷静にサイトウたちのプレゼンを観察していた。サイトウの不自然なほどのぎこちなさが、なぜか田島部長の警戒心を解き、共感を呼んでいることに気づき、堂島の完璧な表情にわずかな亀裂が入る。イズミの的確なフォローと、小西くんの熱意も、堂島の予想を上回るものだった。
やがて、サイトウたちのプレゼンが終わり、質疑応答に移る。田島部長はいくつか質問を投げかけ、サイトウとイズミ、小西くんが連携して答えていく。そのやり取りは、堂島のプレゼンとは異なる、どこか人間味のある空気を生み出していた。
その時だった。
「よろしいでしょうか」
静かに口を開いたのは、堂島だった。彼の声は、会議室の空気を一瞬で引き締め、全員の視線を自分に集める。イズミの顔色が、わずかに優れない。
(なんだ? あいつの言葉を聞くと、すごく嫌な気分になるぜ……)
イズミは、堂島の声が響くたびに、胸の奥底から湧き上がってくるような不快感を覚えていた。それは、頭痛や吐き気にも似た、生理的な嫌悪感だった。
「貴社の提案は、非常に興味深く、熱意を感じました。しかし、申し上げにくいですが、技術的な合理性や費用対効果の観点から見ると、私共イグニス・パートナーズの提案に比べ、いくつかの点で劣ると言わざるを得ません」
堂島は、まるでサイトウたちのプレゼンを細部まで分析し尽くしていたかのように、的確に、しかし冷徹に弱点を突いてくる。彼の言葉には、圧倒的な説得力と、相手の思考を支配しようとする明確な意図が込められていた。彼の声が響くたび、会議室の空気は張り詰め、田島部長の表情にも、サイトウたちの提案への疑問が浮かび始めるのがサイトウにも見て取れた。
「例えば、初期導入コストの面では貴社の方が安価に見えますが、長期的な視点で見ると、当社の提案は、より汎用性の高いAIを活用することで、将来的な拡張性において貴社を大きく上回ります。結果として、トータルコストでは当社の優位性は揺るぎません」
堂島の言葉は、理路整然とし、一切の反論を許さないかのような説得力があった。彼の声は、会議室の全員の耳に直接語りかけるように響き渡り、田島部長だけでなく、サイトウたちの心にも、『なるほど、彼が言う通りだ』という思考を強制的に植え付けていくかのようだ。小西くんは、またしても顔色を失い、堂島の言葉に引き込まれるように、じっと彼を見つめている。彼の目は、再び虚ろになりかけていた。イズミは、吐き気をこらえながら、必死に意識を保とうとしていた。
このままでは、田島部長の判断が、堂島の思惑通りに傾いてしまう。
サイトウは、どうにかこの状況を打開しようと、必死に言葉を探した。彼の心の中には、部長の顔に浮かんだ「疑問」を、どうにかして「納得」に変えたいという、純粋な思いだけがあった。
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