コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

第44話 予期せぬ宿泊客

　勝利の祝杯は、予想以上に盛り上がった。イズミは相変わらず酒に強く、どこか余裕綽々だったが、サイトウと小西くんは、お互いの健闘を称え合い、気がつけば日付が変わる頃まで飲み明かしていた。最後は、イズミに介抱される形で店を出たような、うろ覚えの記憶がある。

　翌朝、サイトウは激しい頭痛で目を覚ました。ズキンズキンと脈打つこめかみに、思わず顔をしかめる。

「うぅ……」

　昨日、あれほど嬉しかったビールの味が、今となっては恨めしい。喉の奥もカラカラだ。サイトウは、重い体を何とか起こし、ふらつく足取りで寝室を出た。

（水……水が飲みたい……）

　リビングに向かう途中で、昨夜の楽しかった会話や、イズミと小西くんの笑顔がぼんやりと頭をよぎる。あの緊張感から解放されたせいか、いつもよりもたくさん飲んでしまった気がする。
　キッチンへ向かおうと、リビングのソファの脇を通り過ぎようとした、その時だった。
　サイトウの足が、ピタリと止まった。
　視線の先に、明らかに自分の家にはあるはずのない「何か」が横たわっている。

（え……？　なんだ……？　布団……？　いや、違う。人……？）

　二日酔いでぼんやりとした頭で、サイトウは目を凝らした。そこに横たわっていたのは、見慣れた服装……昨日のスーツ姿のままの小西くんだった。
　小西くんは、ソファの上で器用に体を丸め、小さく寝息を立てている。顔にはうっすらと赤い頬が残り、幸せそうな寝顔だ。足元には、脱ぎ散らかされたジャケットが転がっている。
　サイトウは、一瞬にして頭痛も忘れるほどの衝撃を受けた。

「……なんで、小西くんがうちにいるんだ！？」

　サイトウの脳内は、クエスチョンマークで埋め尽くされた。昨夜の記憶を必死に辿るが、イズミに介抱された後のことは、ほとんど覚えていない。

（まさか……俺、泥酔して、小西くんを連れて帰ってきたのか！？　でも、どうやって！？　ヤバい、何も思い出せないぞ！？）

　サイトウの頭の中で、様々な疑問が渦巻く。しかし、どれもこれも、二日酔いの頭では結論が出ない。
　サイトウは、リビングの真ん中で立ち尽くしたまま、ソファでぐっすり眠る小西くんを、ただ呆然と見つめていた。頭痛は相変わらずひどいままだったが、それ以上に、この状況に対する戸惑いと、ほんの少しの引きつった笑いが込み上げてくるのだった。
　とりあえず、まずは水を飲もう。サイトウは、まだ信じられないといった顔で小西くんをちらちらと見つつ、キッチンへと向かった。

　冷たい水をコップに注ぎ、一気に喉に流し込む。乾ききった喉が潤い、少しだけ頭痛が和らいだ。

（よし、落ち着いて思い出せ……昨日、店を出た後、どうしたんだっけ……）

　サイトウは、キッチンのカウンターに寄りかかり、目を閉じて記憶を辿る。居酒屋を出て、タクシーに乗ったような……いや、電車だったか？　駅まで歩いたような……。イズミが何か言っていたような気もするが、酒のせいで全く頭に入ってこない。小西くんが、何か叫んでいたような……。

（ダメだ……全然思い出せない……）

　サイトウは、諦めて大きく息を吐いた。こんな時に頼りになるのは、やはり冷静なイズミしかいない。昨夜のことも、きっとイズミが一番覚えているはずだ。
　サイトウは、コップをシンクに置き、リビングで眠る小西くんを一瞥してから、イズミの部屋へと向かった。

（頼む、イズミ……起きてくれ……！）

　サイトウは、ドアをそっと開けた。部屋の中はまだ薄暗く、静かな寝息が聞こえる。イズミは、ベッドの上で掛け布団を肩まで引き上げ、まるで死んだように眠っていた。サイトウは、イズミのベッドサイドに近づき、そっと肩を揺すった。

「おい、イズミ……イズミ、起きろ……」

　サイトウの声は、二日酔いのせいで少し掠れていた。