コミュ障なのにコミュ力MAXで困ってます

第70話 コミュ障の災難、美人からの誘い

　宮内さんとの打ち合わせから数日後。サイトウは、相変わらず社内での「コミュ力MAXの伝説」に困惑しつつも、なんとか日常を送っていた。しかし、彼の周りには新たな騒動の火種がくすぶっていた。

「サイトウ先輩、宮内さんって、本当に美人さんでしたよね！　僕も、いつかお会いしてみたいです！」

　昼休み、小西くんが目をキラキラさせながらサイトウに話しかけてきた。その隣では、イズミがニヤニヤと笑っている。

「おい小西、お前、ユナのことはどうしたんだよ」
「イ、イズミ先輩！　それはそれ、これはこれです！　イトーヌの活動を応援してくださる方には、感謝の気持ちを伝えたいんです！」

　小西くんは、必死に言い訳をしていたが、イズミはそんな小西くんをからかうのが面白くて仕方がない。

「フーン。まあ、サイトウも美人さんと仲良くなれて、よかったじゃねぇか。社長も、お前のために美人さんをプロジェクトの窓口にしてくれたんだろ？」

　イズミの言葉に、サイトウは顔をしかめた。

「違う！　全然違う！　俺はただ、打ち合わせをしただけだ！」
「打ち合わせで、名刺交換して、個人的に連絡してくれって言われたんだろ？　それ、もう仲良しだろ」

　イズミは、サイトウの困った顔を見て、さらに面白そうに笑った。サイトウは、どう説明してもイズミには通じないことを悟り、ため息をついた。

「それ絶対に、サイトウ先輩の『人を惹きつける仕事術』が発揮されたんですよ！　謙虚で誠実な態度に、宮内さんもイチコロだったに違いありません！」

　小西くんも、イズミのからかいに便乗し、サイトウを褒め称え始めた。サイトウは、二人の誤解に満ちた言葉に、ただただ頭を抱えるばかりだった。

「やめろ……俺はコミュ障だ……」

　サイトウの悲痛な叫びは、二人の楽しそうな笑い声にかき消されてしまった。

　その日の夕方、サイトウがデスクで仕事を終えようとしていると、スマホが震えた。画面を見ると、宮内さんからメッセージが届いている。サイトウが恐る恐るメッセージを開くと、そこには簡潔な文章が書かれていた。

『サイトウさん、宮内です。今度、お時間のある時に、二人で今後のプロジェクトについてミーティングをしませんか？』

　サイトウは、そのメッセージを見て、心臓が止まるかと思った。

（ふ、二人でミーティング！？）

　サイトウは、スマホを握りしめたまま固まってしまった。彼のコミュ障にとって、一対一でのミーティングは、集団での会議よりもはるかにハードルが高い。しかも相手は、自分を優秀だと誤解している美人な宮内さんだ。

「どうしたサイトウ？　顔色悪いぞ？」

　サイトウの様子に気づいたイズミが、心配そうに声をかけてきた。サイトウは、震える手でスマホの画面をイズミに見せた。
　イズミは、画面に表示されたメッセージを見て、ニヤリと笑った。

「ははは！　見ろよ小西！　サイトウ、ついに美人さんと、二人きりで会うことになったぞ！」

　イズミの言葉に、小西くんが駆け寄ってきた。

「え！？　本当ですか！？　さすがサイトウ先輩！　営業のプロとして、宮内さんの心を掴んだんですね！」

　サイトウは、二人の言葉に耳を塞ぎたくなった。彼のコミュ力が、またしても新たな災難を呼び寄せてしまったのだ。

「……俺、どうすればいいんだ……」

　サイトウは、ただただ疲れ切った顔で、目の前の二人に助けを求めるのだった。