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償い2
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ところが。
それからも毎日、フラワベルの嫌がらせは続いた。
そう、今までは……
サイフォスのためといった大義名分でしか、ヴィオラを攻撃出来なかったものの。
王妃の後ろ盾を得たとなれば、しかも王妃も望んでいるとなれば……
存分に嫌がらせ出来るからだ。
それにより、2日目は……
片付けの最中、部屋から出たところでフラワベルにぶつかられ。
身体中が筋肉痛だったヴィオラは、バランスを崩して転倒し。
今度は自分で廊下中に汚水をぶち撒けてしまい、そこまで掃除する羽目になり。
3日目からは……
今までのお詫びにと、水拭き用の水桶を用意してくれていたが。
その水は魔法で終始凍るように冷たくて、ヴィオラは手に凍瘡を起こしてしまったり。
それ以降も……
埃を集めたところで窓を開けられ、また一からやり直しになったり。
扉の前に、陛下へのプレゼントだという大きなガラス細工を置かれ。
開けた拍子に壊してしまい、手に沢山の傷を負いながら片付ける羽目になったり。
それを弁償する代わりに、フラワベルが滞在している部屋まで掃除するよう陛下に命じられたりと。
ヴィオラは身も心もボロボロになっていた。
そんな中。
ヴィオラが待ち望んでいた、モエの提案を実行する日がやってきた。
「それでは妃殿下、さっそく打ち合わせを致しましょう」
それは、ヴィオラが手伝っているとした内容で……
忙しいサイフォスに手間を取らせないよう、モエの説明に合わせてスムーズに書類を提示するサポートだった。
「はい、でもその前に……
代価で、この手を治療してもらってもいいですか?」
おずおずと差し出された手は、凍瘡やあか切れだらけで……
王太子妃はおろか、下女の手としてもあり得ない有り様だった。
「っ、どうされたのですかっ?」
「いえその、王妃陛下のお部屋の掃除を、やらせていただいてて……」
「だとしてもこれは酷すぎます!
そもそも、なぜそのような事をっ?」
「今までの償いです。
それと陛下の回復に、少しでも繋がればと思って……」
「……なぜそこまで?」
「陛下がお元気になった分、サイフォス様も元気になるんじゃないかと思って……」
するとモエは、ヴィオラを慈しむように見つめて、恭しく微笑んだ。
「となると。
この手は殿下に心配をかけないように、治療なさるのですね?」
「はい。
なので、掃除の事も言わないでください」
「……わかりました。
ですがそれなら、代価での治療もおやめください。
殿下の意を尊重なさるお気持ちは、敬服いたしますが……
殿下はそれを、望まれないと思われます」
「……なんでもお見通しなんですね」
ヴィオラは恥ずかしそうに呟いた。
「魔法を悪用されぬよう、魔術士には見極める能力も不可欠なのです。
それと私も、妃殿下にはご自愛していただきたいのです」
「……わかりました。
では、対価でお願いします」
そうして、治療を済ませた2人は……
規定の公務時間が終わるのを待って、サイフォスの元へ向かった。
そしてその部屋を目前にしたところで、手筈通りに身を潜めようとしたヴィオラは……
部屋から出て来た者と出くわして、驚きで目を見張った。
ーーどうしてフラワベル嬢がここにっ!?
そんなヴィオラを目にして、フラワベルはふふっと愉しそうに笑った。
「あら妃殿下、どうしてこちらに?」
「それはこちらの台詞です。
サイフォス様は今、誰とも面会しないはずですが」
「そのようですね。
でも私だけはお許しくださってるの。
それで妃殿下は……
お会いしてもらえないのに、ここで何をなさってるのかしら?」
そうクスクス笑うフラワベルに、ヴィオラは胸を幾重にも切り裂かれる。
「慈悲深い妃殿下は、私にお力添えくださっているのです」
「あら、魔術士のお手伝いまでしてるなんて。
やっぱり下女の方が、性分に合ってるんじゃなくて?」
「僭越ながら、王太子妃殿下に無礼千万かと存じます」
見かねたモエが、そう異議を唱えるも。
「魔術士の分際で、誰にものを言ってるの?」
そう一蹴されてしまう。
それからも毎日、フラワベルの嫌がらせは続いた。
そう、今までは……
サイフォスのためといった大義名分でしか、ヴィオラを攻撃出来なかったものの。
王妃の後ろ盾を得たとなれば、しかも王妃も望んでいるとなれば……
存分に嫌がらせ出来るからだ。
それにより、2日目は……
片付けの最中、部屋から出たところでフラワベルにぶつかられ。
身体中が筋肉痛だったヴィオラは、バランスを崩して転倒し。
今度は自分で廊下中に汚水をぶち撒けてしまい、そこまで掃除する羽目になり。
3日目からは……
今までのお詫びにと、水拭き用の水桶を用意してくれていたが。
その水は魔法で終始凍るように冷たくて、ヴィオラは手に凍瘡を起こしてしまったり。
それ以降も……
埃を集めたところで窓を開けられ、また一からやり直しになったり。
扉の前に、陛下へのプレゼントだという大きなガラス細工を置かれ。
開けた拍子に壊してしまい、手に沢山の傷を負いながら片付ける羽目になったり。
それを弁償する代わりに、フラワベルが滞在している部屋まで掃除するよう陛下に命じられたりと。
ヴィオラは身も心もボロボロになっていた。
そんな中。
ヴィオラが待ち望んでいた、モエの提案を実行する日がやってきた。
「それでは妃殿下、さっそく打ち合わせを致しましょう」
それは、ヴィオラが手伝っているとした内容で……
忙しいサイフォスに手間を取らせないよう、モエの説明に合わせてスムーズに書類を提示するサポートだった。
「はい、でもその前に……
代価で、この手を治療してもらってもいいですか?」
おずおずと差し出された手は、凍瘡やあか切れだらけで……
王太子妃はおろか、下女の手としてもあり得ない有り様だった。
「っ、どうされたのですかっ?」
「いえその、王妃陛下のお部屋の掃除を、やらせていただいてて……」
「だとしてもこれは酷すぎます!
そもそも、なぜそのような事をっ?」
「今までの償いです。
それと陛下の回復に、少しでも繋がればと思って……」
「……なぜそこまで?」
「陛下がお元気になった分、サイフォス様も元気になるんじゃないかと思って……」
するとモエは、ヴィオラを慈しむように見つめて、恭しく微笑んだ。
「となると。
この手は殿下に心配をかけないように、治療なさるのですね?」
「はい。
なので、掃除の事も言わないでください」
「……わかりました。
ですがそれなら、代価での治療もおやめください。
殿下の意を尊重なさるお気持ちは、敬服いたしますが……
殿下はそれを、望まれないと思われます」
「……なんでもお見通しなんですね」
ヴィオラは恥ずかしそうに呟いた。
「魔法を悪用されぬよう、魔術士には見極める能力も不可欠なのです。
それと私も、妃殿下にはご自愛していただきたいのです」
「……わかりました。
では、対価でお願いします」
そうして、治療を済ませた2人は……
規定の公務時間が終わるのを待って、サイフォスの元へ向かった。
そしてその部屋を目前にしたところで、手筈通りに身を潜めようとしたヴィオラは……
部屋から出て来た者と出くわして、驚きで目を見張った。
ーーどうしてフラワベル嬢がここにっ!?
そんなヴィオラを目にして、フラワベルはふふっと愉しそうに笑った。
「あら妃殿下、どうしてこちらに?」
「それはこちらの台詞です。
サイフォス様は今、誰とも面会しないはずですが」
「そのようですね。
でも私だけはお許しくださってるの。
それで妃殿下は……
お会いしてもらえないのに、ここで何をなさってるのかしら?」
そうクスクス笑うフラワベルに、ヴィオラは胸を幾重にも切り裂かれる。
「慈悲深い妃殿下は、私にお力添えくださっているのです」
「あら、魔術士のお手伝いまでしてるなんて。
やっぱり下女の方が、性分に合ってるんじゃなくて?」
「僭越ながら、王太子妃殿下に無礼千万かと存じます」
見かねたモエが、そう異議を唱えるも。
「魔術士の分際で、誰にものを言ってるの?」
そう一蹴されてしまう。
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