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ぎゃあぎゃあ1
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叔父のフォローもあり、人事異動の手筈が整った私は……
自室のリビングに楓くんを呼び出した。
「さっそく本題に入るけど。
来週の7月1日から、あなたには製造・品質部に異動してもらうわ」
「はっ?
それも、社長になるのに必要なわけ?」
「そうよ。
権力を握ってるのは株主や幹部でも、会社を動かしてるのは従業員よ。
その支持を得られなければ、株主たちの評価も得られない。
だからあなたには、全ての部署を回ってそれぞれの支持を集めてもらうわ」
「どうやって……
だいたい先代の社長だって、従業員に慕われてたとは思えないけど」
「父は自分が持株率60%の実質的支配者だったから、問題なかったの。
それに専務の叔父が、代わりに支持を集めてたし。
でもあなたの場合、その従業員から慕われてきた専務もライバルになるのよ?」
叔父は持株率10%の主要株主でしかないけど。
今回の選任結果のように、ほとんどの株主が叔父を選んだ場合。
私と琉司は持株率30%だから、40%の票を集めた叔父が再任する事になるだろう。
「だったら逆に、付け焼き刃の支持じゃ勝てっこないだろ。
違う土俵で評価を集めた方が、効率いいと思うけど」
「別に支持率で勝てって言ってるわけじゃないわ。
ただ、あなたが社長に就任した時。
彼なら異論はない、そう思ってもらえればいいだけ。
そしてその手段は、専務とは違う土俵よ」
「……なるほどね。
で、俺はどうしたらいいわけ?」
そこで私は手段の説明に移った。
うちには4つの部署があり。
楓くんが入社以来籍を置いてる企画・開発部では、すでに多大な功績を残してるからいいとして。
まずは従業員の大半が属する製造部の、本社工場で肉体労働をしてもらう。
橋元家の婿になった男が、しかも製造しているものを開発した本人が、他の部署より下に見られがちな工場で、汗水流してコツコツと働く姿は、多くの作業員達の心を打つだろう。
その次は営業・販売部に配属して、今度は取引先の心を掴んでもらう。
その指標は売上成績として反映され、上位に入れば多くの営業マン達が、それに至った努力と実力を認めざるを得ないだろう。
最後は会社の中枢を担う私の部署で、経営管理をしっかり学んでもらう。
さらにはそれを基に、配属先での経験を活かし。
お世話になったお礼に、それぞれの部署がもっと働きやすくなるよう尽力すれば、多くの従業員達の信頼を得るだろう。
そしてそれらを4ヵ月スパンの、トータル1年で成し遂げてもらう。
「簡単に言うね。
製造と経営管理はともかく。
エンジニアの俺がそんな短期間で上位に入れるって、本気で思ってる?
だとしたら営業をバカにしてるよ」
「してないわ。
無理難題なのは百も承知よ。
ただ実際、営業未経験者が3ヵ月で売上トップになった実例はたくさんある。
そして私は、あなたならこの難題をクリア出来ると思ってるわ」
楓くんは「どんな根拠」と苦笑う。
「根拠は、あなたが天才だからよ」
「技術で結果を残せたからって、営業じゃ通用しないよ」
「どんな分野だろうと関係ないわ。
天才とは1%のひらめきと99%の努力、っていう名言通り。
あれほどの結果を残すには、血の滲むような努力をしてきたはずよ?」
ずっと楓くんを見てきたからこそ、そう思う。
「あなたは目的のためなら、どんな努力もいとわない人間だと思ってる。
だからよ」
自信たっぷりに告げると。
僅かな動揺を見せたあと、溜息混じりに観念したような笑みを浮かべる楓くん。
「わかった、やってみるよ。
自信はないけど」
「たとえ上位に入れなくても、弟に勝ってくれれば問題ないわ。
そしたらあなたの方が優秀だと、より社長に相応しいと印象付けられるから」
「あぁそっか、琉司くんも営業だっけ。
だったらそこは負けられないな」
そう、琉司は入社時に営業を希望したのだ。
私の下や製造では働きたくないだろうし、開発は出来るわけないし。
営業なら顔とコネで、手っ取り早く結果を出せると思ったんだろう。
確かにその顔は、男を惑わす美しい継母に似て、パッチリとした目で綺麗だけど……
楓くんの方が断然カッコいいし!
父が亡き今、コネもそこまで通用しないだろう……と願う。
「大丈夫よ。
今までたくさんの商品開発に携わってきたあなたなら、誰よりもその特性を理解してるはずだし。
その素晴らしさを伝えられるんじゃなくて?」
不安を拭い去るように、そう励ますと。
どこか嬉しそうに、顔をほころばした楓くん。
「頼もしい奥さんで、心強いよ」
奥さんんん!?
私の事を、奥さんっ?
いやそうなんだけどっ……
その不意打ちヤバいから!
意気込みを新たに気持ちを引き締めて、楓くんにも心を乱されないように気をつけてたのに。
ついまた動揺してしまう。
「とと、当然でしょう!?
私を誰だと思ってるのっ?」
いや誰なのよ~!とすかさず心で突っ込みながら、もう消えてしまいたくなる。
「とにかく話はそれだけだから、帰ってちょうだいっ」
「え、シャンパン飲まないの?
週末飲むって話じゃなかったっけ」
そういえば!
でもどうしようっ。
楓くんが私と飲もうとしてくれたのが嬉しかっただけで、実際一緒に飲むとなると……
何話せばいいの!?
仕事の事しか話す事がない……
「……いや、なにその沈黙。
まさか、明日も仕事?」
「そ、そうね」
ほんとはリラクゼーションサロンに行く予定だけど、沈黙の言い訳にして乗っかると。
「働き過ぎだろ」と苦笑う楓くん。
「じゃあ、来週末に飲もっか」
「今日でよくてよっ。
むしろ、今日飲みたいわ」
その方が仕事を理由に早く切り上げられるもの!
「いいけど……
その代わり。
これからはちゃんと、週1くらいは休める?」
「そうね、気をつけるわ」
身体を壊したら、夫の楓くんにも迷惑がかかるだろうし。
そうして……
「これも一緒にいただいたの」と、チーズを盛り合わせると。
シャンパンを注いで、グラスを合わせた。
「うま!
いくらでも飲めそう」
「わかる!
んん~この余韻たまんないっ」
あまりの美味しさに思わず素が出て。
ハッとした瞬間、フッと楓くんから優しい笑顔が向けられる。
あああっ、その笑顔犯っ罪!
ていうか見つめないで……
いやお願いだからもうやめて~。
すぐに顔を背けたものの、視線を感じる。
そこで。
「杏音ってさ、」
ふいに名前を呼ばれて、返事をすると。
あああっ、声が裏返ってしまった!
それをクックと笑う楓くんに、いっそう恥ずかしさが追い討ちされる。
「な、何かしらっ?
言いたい事があるなら早く言って」
「ごめんっ、可愛くて」
可愛い!?
楓くんが私を、可愛いって……
いや、何勘違いしてるのっ?
これは明らかに。
「馬鹿にしてるの?」
「まさか。
むしろ、すごく評判いいよなって言おうとしてたんだけど」
「評判?」
「うん。
見た目も中身も天使すぎるとか。
才女だとか、努力家だとか。
結婚する前から、いい噂をよく耳にしてたよ」
「それはっ……
後継者として相応しいと思われるための作戦よ。
上手く騙せててよかったわ」
そう不敵に笑うも。
聞きながら照れくさくて、さっきから恥ずかしい事続きで、しきりにシャンパンを口にしてしまう。
「正直だね」
「だってあなたには、脅迫したり利用したり、もう本性がバレてるもの」
「……そっちが本性?」
「そうよ。
父もそんな人だった。
親子って似るのね」
そう言ってグラスを開けると。
おかわりしようとしたところで。
「俺が注ぐよ」
ボトルに伸ばした手が、そっと掴まれた。
「ぎゃああ!
な、何するのっ?」
慌ててその手を引っ込める。
「なにって、触っちゃダメだった?」
「そそそうねっ、驚くじゃないっ」
もう不意打ちヤバいから!
「いやこっちが驚くし。
だってもう、キスはしてるワケだし」
「キっ……!
あの時は、どうかしてたのっ」
気を張ってて普通じゃなかったの、的な事を言うつもりが、焦って適切な言葉が出てこない。
ていうか今思い出させないで~~。
「なんだよその、出来心でしたみたいな言い方っ……
ヤバいツボる」
と笑い出す楓くん。
ああもう何言ってるの私!
本気で消えてしまいたいっ。
でも……
楓くんがこんなに笑ってくれるなら、すごく嬉しい。
いくら恥をかいてもいいよ。
そんな気持ちで見つめてると、バチッと目が合って。
慌ててツンと顔を背けた。
「笑いすぎじゃなくてっ?
注ぐなら早く注いでくれる?」
「ごめんごめん。
でも明日も仕事なら、もう少しペース落とした方がいいと思うよ?
可愛い奥さん」
「可っ……」
あまりの衝撃ワードに心臓を撃ち抜かれて、目を大きくして言葉を失う。
「あ、それとも。
今度はお酒の力でどうかして、またキスでもする?」
「またキっ……」
同じくな反応を繰り返すと。
楓くんはいつも以上に、クックと笑いをこらえる素振りを見せた。
これは、もしかして……
いやもしかしなくても、私からかわれてる!?
絶対そうだ、ひどい楓くんっ。
いや笑ってくれるのは嬉しいけどっ……
あれ、ならいいのか。
いやよくない、こんなキャラじゃ復讐に支障が!
なんて、脳内で1人劇場をやってると。
「何度もごめん、怒った?」
あやすように尋ねる楓くん。
「いいえ。
あなたごときの態度なんて、いちいち気にしなくてよ」
「ならよかった。
じゃあ飲み直そっか」
その結果、それ以降も何度かからかわれる羽目になる。
だけど、ずっと見ているだけの存在だった楓くんとの……
嫌われるだけの、復讐絡みの話をするだけの関係だった楓くんとの……
その他愛もないひと時は、すごくすごく幸せだった。
自室のリビングに楓くんを呼び出した。
「さっそく本題に入るけど。
来週の7月1日から、あなたには製造・品質部に異動してもらうわ」
「はっ?
それも、社長になるのに必要なわけ?」
「そうよ。
権力を握ってるのは株主や幹部でも、会社を動かしてるのは従業員よ。
その支持を得られなければ、株主たちの評価も得られない。
だからあなたには、全ての部署を回ってそれぞれの支持を集めてもらうわ」
「どうやって……
だいたい先代の社長だって、従業員に慕われてたとは思えないけど」
「父は自分が持株率60%の実質的支配者だったから、問題なかったの。
それに専務の叔父が、代わりに支持を集めてたし。
でもあなたの場合、その従業員から慕われてきた専務もライバルになるのよ?」
叔父は持株率10%の主要株主でしかないけど。
今回の選任結果のように、ほとんどの株主が叔父を選んだ場合。
私と琉司は持株率30%だから、40%の票を集めた叔父が再任する事になるだろう。
「だったら逆に、付け焼き刃の支持じゃ勝てっこないだろ。
違う土俵で評価を集めた方が、効率いいと思うけど」
「別に支持率で勝てって言ってるわけじゃないわ。
ただ、あなたが社長に就任した時。
彼なら異論はない、そう思ってもらえればいいだけ。
そしてその手段は、専務とは違う土俵よ」
「……なるほどね。
で、俺はどうしたらいいわけ?」
そこで私は手段の説明に移った。
うちには4つの部署があり。
楓くんが入社以来籍を置いてる企画・開発部では、すでに多大な功績を残してるからいいとして。
まずは従業員の大半が属する製造部の、本社工場で肉体労働をしてもらう。
橋元家の婿になった男が、しかも製造しているものを開発した本人が、他の部署より下に見られがちな工場で、汗水流してコツコツと働く姿は、多くの作業員達の心を打つだろう。
その次は営業・販売部に配属して、今度は取引先の心を掴んでもらう。
その指標は売上成績として反映され、上位に入れば多くの営業マン達が、それに至った努力と実力を認めざるを得ないだろう。
最後は会社の中枢を担う私の部署で、経営管理をしっかり学んでもらう。
さらにはそれを基に、配属先での経験を活かし。
お世話になったお礼に、それぞれの部署がもっと働きやすくなるよう尽力すれば、多くの従業員達の信頼を得るだろう。
そしてそれらを4ヵ月スパンの、トータル1年で成し遂げてもらう。
「簡単に言うね。
製造と経営管理はともかく。
エンジニアの俺がそんな短期間で上位に入れるって、本気で思ってる?
だとしたら営業をバカにしてるよ」
「してないわ。
無理難題なのは百も承知よ。
ただ実際、営業未経験者が3ヵ月で売上トップになった実例はたくさんある。
そして私は、あなたならこの難題をクリア出来ると思ってるわ」
楓くんは「どんな根拠」と苦笑う。
「根拠は、あなたが天才だからよ」
「技術で結果を残せたからって、営業じゃ通用しないよ」
「どんな分野だろうと関係ないわ。
天才とは1%のひらめきと99%の努力、っていう名言通り。
あれほどの結果を残すには、血の滲むような努力をしてきたはずよ?」
ずっと楓くんを見てきたからこそ、そう思う。
「あなたは目的のためなら、どんな努力もいとわない人間だと思ってる。
だからよ」
自信たっぷりに告げると。
僅かな動揺を見せたあと、溜息混じりに観念したような笑みを浮かべる楓くん。
「わかった、やってみるよ。
自信はないけど」
「たとえ上位に入れなくても、弟に勝ってくれれば問題ないわ。
そしたらあなたの方が優秀だと、より社長に相応しいと印象付けられるから」
「あぁそっか、琉司くんも営業だっけ。
だったらそこは負けられないな」
そう、琉司は入社時に営業を希望したのだ。
私の下や製造では働きたくないだろうし、開発は出来るわけないし。
営業なら顔とコネで、手っ取り早く結果を出せると思ったんだろう。
確かにその顔は、男を惑わす美しい継母に似て、パッチリとした目で綺麗だけど……
楓くんの方が断然カッコいいし!
父が亡き今、コネもそこまで通用しないだろう……と願う。
「大丈夫よ。
今までたくさんの商品開発に携わってきたあなたなら、誰よりもその特性を理解してるはずだし。
その素晴らしさを伝えられるんじゃなくて?」
不安を拭い去るように、そう励ますと。
どこか嬉しそうに、顔をほころばした楓くん。
「頼もしい奥さんで、心強いよ」
奥さんんん!?
私の事を、奥さんっ?
いやそうなんだけどっ……
その不意打ちヤバいから!
意気込みを新たに気持ちを引き締めて、楓くんにも心を乱されないように気をつけてたのに。
ついまた動揺してしまう。
「とと、当然でしょう!?
私を誰だと思ってるのっ?」
いや誰なのよ~!とすかさず心で突っ込みながら、もう消えてしまいたくなる。
「とにかく話はそれだけだから、帰ってちょうだいっ」
「え、シャンパン飲まないの?
週末飲むって話じゃなかったっけ」
そういえば!
でもどうしようっ。
楓くんが私と飲もうとしてくれたのが嬉しかっただけで、実際一緒に飲むとなると……
何話せばいいの!?
仕事の事しか話す事がない……
「……いや、なにその沈黙。
まさか、明日も仕事?」
「そ、そうね」
ほんとはリラクゼーションサロンに行く予定だけど、沈黙の言い訳にして乗っかると。
「働き過ぎだろ」と苦笑う楓くん。
「じゃあ、来週末に飲もっか」
「今日でよくてよっ。
むしろ、今日飲みたいわ」
その方が仕事を理由に早く切り上げられるもの!
「いいけど……
その代わり。
これからはちゃんと、週1くらいは休める?」
「そうね、気をつけるわ」
身体を壊したら、夫の楓くんにも迷惑がかかるだろうし。
そうして……
「これも一緒にいただいたの」と、チーズを盛り合わせると。
シャンパンを注いで、グラスを合わせた。
「うま!
いくらでも飲めそう」
「わかる!
んん~この余韻たまんないっ」
あまりの美味しさに思わず素が出て。
ハッとした瞬間、フッと楓くんから優しい笑顔が向けられる。
あああっ、その笑顔犯っ罪!
ていうか見つめないで……
いやお願いだからもうやめて~。
すぐに顔を背けたものの、視線を感じる。
そこで。
「杏音ってさ、」
ふいに名前を呼ばれて、返事をすると。
あああっ、声が裏返ってしまった!
それをクックと笑う楓くんに、いっそう恥ずかしさが追い討ちされる。
「な、何かしらっ?
言いたい事があるなら早く言って」
「ごめんっ、可愛くて」
可愛い!?
楓くんが私を、可愛いって……
いや、何勘違いしてるのっ?
これは明らかに。
「馬鹿にしてるの?」
「まさか。
むしろ、すごく評判いいよなって言おうとしてたんだけど」
「評判?」
「うん。
見た目も中身も天使すぎるとか。
才女だとか、努力家だとか。
結婚する前から、いい噂をよく耳にしてたよ」
「それはっ……
後継者として相応しいと思われるための作戦よ。
上手く騙せててよかったわ」
そう不敵に笑うも。
聞きながら照れくさくて、さっきから恥ずかしい事続きで、しきりにシャンパンを口にしてしまう。
「正直だね」
「だってあなたには、脅迫したり利用したり、もう本性がバレてるもの」
「……そっちが本性?」
「そうよ。
父もそんな人だった。
親子って似るのね」
そう言ってグラスを開けると。
おかわりしようとしたところで。
「俺が注ぐよ」
ボトルに伸ばした手が、そっと掴まれた。
「ぎゃああ!
な、何するのっ?」
慌ててその手を引っ込める。
「なにって、触っちゃダメだった?」
「そそそうねっ、驚くじゃないっ」
もう不意打ちヤバいから!
「いやこっちが驚くし。
だってもう、キスはしてるワケだし」
「キっ……!
あの時は、どうかしてたのっ」
気を張ってて普通じゃなかったの、的な事を言うつもりが、焦って適切な言葉が出てこない。
ていうか今思い出させないで~~。
「なんだよその、出来心でしたみたいな言い方っ……
ヤバいツボる」
と笑い出す楓くん。
ああもう何言ってるの私!
本気で消えてしまいたいっ。
でも……
楓くんがこんなに笑ってくれるなら、すごく嬉しい。
いくら恥をかいてもいいよ。
そんな気持ちで見つめてると、バチッと目が合って。
慌ててツンと顔を背けた。
「笑いすぎじゃなくてっ?
注ぐなら早く注いでくれる?」
「ごめんごめん。
でも明日も仕事なら、もう少しペース落とした方がいいと思うよ?
可愛い奥さん」
「可っ……」
あまりの衝撃ワードに心臓を撃ち抜かれて、目を大きくして言葉を失う。
「あ、それとも。
今度はお酒の力でどうかして、またキスでもする?」
「またキっ……」
同じくな反応を繰り返すと。
楓くんはいつも以上に、クックと笑いをこらえる素振りを見せた。
これは、もしかして……
いやもしかしなくても、私からかわれてる!?
絶対そうだ、ひどい楓くんっ。
いや笑ってくれるのは嬉しいけどっ……
あれ、ならいいのか。
いやよくない、こんなキャラじゃ復讐に支障が!
なんて、脳内で1人劇場をやってると。
「何度もごめん、怒った?」
あやすように尋ねる楓くん。
「いいえ。
あなたごときの態度なんて、いちいち気にしなくてよ」
「ならよかった。
じゃあ飲み直そっか」
その結果、それ以降も何度かからかわれる羽目になる。
だけど、ずっと見ているだけの存在だった楓くんとの……
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