もうこれ以上、許さない

よつば猫

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付き合うのは許さない5

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 それより今は、好きって何!?
なんでそうなるのっ?
あたしがちゃんと一線引けなかったから?
だったらここではっきり断らなきゃ!

 しばしラーメンを進めながら、諦めざるを得ない理由を考える。

「それで、返事なんだけど……」

「え、今するっ?
俺まだぜんぜん勝ち目ないのに……
もうちょっと時間ちょうだいっ?」

「今する!
そっちが今言うからじゃん。
それに、今でも後でも変わんない。
はっきり言って、重い。
彼女さんを捨てる話聞かされて、そのあと付き合えると思う?
そもそも鞍替えとか許せないし……
あたしにそういうの背負わせる気っ?」

「だから!背負わせたくなかったからっ……
あと、ほんとは別れてから告るつもりだったから。
彼女の事、言う必要ないって思ってたんだ」

ー「隠してたワケじゃなくて……
言う必要ないかなって」ー
なるほど……
ここでようやく、その真意が明かされた。

「どっちにしろ、菊川さんの気持ちには答えられない」

「……ん。
けど俺、月奈ちゃんに彼氏が出来るまで諦めないから」

「はあっ!?
なんでそんなしつこいのっ?
そこまであたしにこだわる意味がわかんないっ」
そう非難しながらも、嬉しくてたまらない自分がいる。

「だって俺、月奈ちゃんに運命感じてるもん」

「なに、それ……
運命なわけないじゃんっ」
運命だったら、あたしたちはこんなふうにはならなかった。

 そう、運命の相手なら……
あたしは風人の重荷にはならなかったはずだし。
あたしも、もう無理なんて切り捨てられなかったはず。

 なにより、運命だったら……
あたしの存在、記憶から消したりしないよねぇ?
その瞬間、ぼろりと涙がこぼれ落ちる。

「えっ……」
当然風人は驚いて。

「違っ、なんでもないっ……」
慌てて拭うも。
涙は次から次へと、不可抗力にあふれ出す。

 そこで風人が、あたしの頭に手を伸ばそうとして……
過去の失敗を思い出したのか、戸惑いがちに引き下げて。

 今度はゴソゴソ動いて、何かを取り出したかと思えば。
「汚いか」と呟いて、それを仕舞う様子が視界に映る。

 そしてティッシュ箱をあたしの前に置いて、それを2、3枚取り出すと。

「拭いてい?」

「……自分で拭く」

「じゃあ、抱きしめてい?」

「いやなんでっ!?
ダメに決まってんじゃんっ」
よしよしはためらっといて、それ聞くっ?

「じゃあ……
なんで泣いてるのか、聞いてもい?」

「菊川さんには、関係ない事だから」

「でも聞きたい。
教えて欲しい」

「もおしつこいな!」
風人があたしの事忘れるからじゃん!

「っ、誉の事だよっ。
あたしは誉に運命感じて欲しいのに、菊川さんが邪魔するからじゃん!」

 記憶喪失になったのはあたしのせいだし、忘れたいくらい苦しめたのもあたしなのは解ってる。
解ってるけど、あたしだって苦しいよ!

 楽しかった思い出だって、いっぱいあったはずなのに……
何もかもなかった事にするなんてあんまりだよっ。
存在ごと消す事ないじゃん!

「……そっか」
悲しげに呟く風人。

 傷付けたくはないのに、結局あたしは風人を苦しめる事しか出来なくて……
胸が潰れそうになる。

「けど、ほんとに邪魔ならさ?
なんであいつの前で、俺の居場所作ってくれた?」

「……何の事?」

「タグのケース、あれわざと落としてくれたじゃん。
あいつもショック受けた顔してたから、たぶん気付いてたと思う」

 うわ、バレバレだったか……
でもなんで誉がショック受けるの?
まぁそれは見間違いだとして。

「わざとじゃないよ。
都合よく取らないで」

「いーや、わざとだね。
だって月奈ちゃんの方から、俺に頼んだりしないじゃん」

 うっ、確かに……

「あ~もうるさい!
じゃあ邪魔じゃないし、運命だよっ」

「うわ適当っ。
じゃあ俺、運命って思っとくよ?」

「勝手にすればっ?」

 だけど、もし運命なんてものがあるとしたら……

「……あたしも、運命だと思うから」

「っ、マジでっ!?」

「うん、運命だよ。
絶対結ばれない運命」

 そう、どんなに想っても想われても……
それは過去を忘れてるという、脆い状況下でしか成り立たない。

 記憶が戻れば、その気持ちは玉城さんにあって。
あたしは風人の重荷でしかなくて。
苦しめた存在でしかなくて。
それを忘れてるのをいいことに、フラれた分際で一緒にいたら……
また苦しめるだけ。

 だいたい、さんざん苦しめたあたしにはもう……
愛される資格はもちろん、愛する資格だってないと思う。

「そんな運命なら、変えてやる」
そう言って、バクバク餃子を放り込む風人。

あたしもラーメンのスープを、高鳴る気持ちと一緒に飲み込んだ。



 数日後。
その日は閉店間際の行列が少なくて。
早く帰れそうだと思いながら、最後のお客様を迎えると。

「誉っ!
もう仕事終わったのっ?」
繁忙期のはずなのに……

「うん、この3日間で詰め込んだ。
そうでもしなきゃ、ぜんぜん月奈との時間が取れないから」

 あたしのためにっ?
このあとの時間を作ったって事?

「っ、勝手にそんな事しないでよっ。
あたし、約束してないよねえっ?」

「だからだよ。
電話しても出ないし。
じゃあ電話出来る時間をLINEしてって言っても、それすらしてくれないし。
こうやって強行突破するしかないだろ?」

 そーいえば!
ヤバい、風人の事ですっかり忘れてた……

「ごめん……
でもあたしに予定があったらどうするつもりだったの?」

「てことは、今日は予定がないんだ?
よかった」

 うっ、墓穴……
しかも新人さんのお世話係って口実も、そろそろ時効だろうし。
なによりLINEを忘れてたのは申し訳ない。
それに……

「……わかった、いいよ。
じゃあ先に預かり品の受付するね」

 風人の事を紛らわすには、ちょうどよかった。

 あの告白から、風人と普段通りには接していたものの。
その心中は……
いちいち胸が騒いだり、その都度切なくなったり。
ものすごく穏やかじゃなかったのだ。

 だからって、セフレ関係を終わらせようとしといて調子いいけど。
誉はあたしを好きなわけじゃないから、気持ち利用する事にはならないし。
向こうは欲求の処理、こっちは感情の処理が出来てウィンウィンだと思った。

 そうして次は、仕上り品のお渡しに取り掛かると。

「あと、これもい?」
と、妹さんのお預り票も出される。

「あ、誉が受け取るんだっ?」
よかった~!
ぶっちゃけ気が重かったもん。

「うん、ごめん……
あいつ俺の跡つけて、ここ調べたみたいで。
なんか失礼な事しなかった?」

 それで突然やって来たんだっ?
まぁ圧がすごかったけど……

「ううんっ、混んでたから状況察してくれたみたいで。
あたしも紹介されたわけじゃないから、知ってるのも変だと思って声かけなかったんだけど……
大丈夫だった?」

「むしろ声かけないでくれて良かったよ。
相変わらずブラコンっぷりがすごかったからさ……
それであいつの分も、無理やり俺が受け取る事にしたんだ」

 それ絶対文句言ってたやつだよねえ!?
何かやらかしたっけ……
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