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混血系大公編:第三部
32
私を誘惑しようとする、あの甘ったるくて蕩けるような声で囁かれる。
…これは、気軽にオッケーしちゃダメなやつよね?
「…お揃いの指輪って、なんか意味あります?」
ビョルンたちと婚約した時、前世みたいに婚約指輪を贈るとかはなかった。結婚時に、お揃いの指輪を作るとかも特にない様子だ。
中にはお揃いのアクセサリーを作る人もいるらしいけど、ほとんどの人がする慣習…というほどではないらしかった。
でもこの世界では、平民と貴族・皇族ではけっこう慣習が違う。
それに気づいたから、警戒して聞いたわけなんだけど…。
ヴァレさんは笑みの形に目を細めたあと、私の左手をそっと取った。
「ビョルンたちにプロポーズされた時…ここに、キスされなかった?」
そう言って、薬指の腹を彼の指で撫でられる。
それだけなのに、撫で方がひどく官能的で。ぴくり、と私の手が反応してしまう。
「どう?」
「…されました」
顔を見れなくて、目線を下げながら答える。
ふっ、とヴァレさんが笑うのを、音だけで聞く。
「あれね。帝国紀初期にあった、左手の薬指には心臓に直接繋がる血管があるという考えから来ているんだよ」
その説は、前世でも聞いたことがある。だから結婚指輪は、左手の薬指につけるのだと。
「だから夫婦になるとね、ここにお揃いの指輪をつけるんだ。…お互いの心臓と、繋がれるように」
左手を持ち上げられ、薬指の背に、唇が押し付けられる。温かくて、柔らかい唇。
「お互いの心臓に、愛を誓うために」
顔に血が昇り、心臓が破裂しそうなくらいに高鳴る。
この手を、振り払うことができない。
この思いを、断ち切ることができない。
「この指につける指輪。…作ってくれる?」
目を逸らしたままだけど、わかる。神秘的なアースアイが、私をじっと見つめていること。
低く甘く、愛を乞うようなその声色に。
「……考えて、おきます」
逃げることしか、できない。
左手の薬指に、フッと温かい息がかかった。
「…期待しておくよ」
喜色の混じったその声に、私は目を逸らしたままうなずいた。
そのあと、ヴァレさんはさっと話題を変えてくれた。
でも時折目が合うと、その瞳は熱を帯びたままで。
気まずくて、それをごまかすようにお酒が進んでしまった。
「シャトラ、大丈夫?」
「んん~…」
いつの間にか、机に突っ伏していたみたい。
ヴァレさんが揺すって起こそうとしてくれるけど、瞼も体も重い。
意識はなんとか保っているけど、起きたくない。このままウトウトしていたい。気まずさもあるし。このまま寝たふりを決め込む。
「やれやれ。まったく…」
苦笑した声が聞こえる。
それから肩を支えられ、膝裏に手が入り、体が浮き上がる。その流れで、ヴァレさんの首元に顔を埋める。
ベルガモットの、香水の匂い。
ヴァレさんの匂い。
ああ、また、匂いの記憶ができる。この匂いがしたら、こうして抱き上げられたこと、きっと思い出してしまう。
心臓がトクトクと高鳴って、頬が熱くなる。お酒を飲んでいるから、バレないかな。
そのまま自分の部屋の寝室へ運んでくれ、ベッドに横たえられる。布団を掛けてくれ、頭を撫でられる。
優しい。
そのまま去るかと思ったけれど、私の体の横に手をついた気配がした。
ベッドが少し、沈む。
そして唇に、柔らかいものが押し付けられる。
少し離れて、温かい吐息。
それからもう一度、触れる。
触れるだけの…キス。
少し長めにキスをしたあと、ヴァレさんは寝室から出ていった。
ドアがパタンと閉まる音がしてから、そのまま少し待って。
ヴァレさんの気配が完全に消えたと確信できてから、私は大きく息を吐いた。
「はぁー……」
寝返りを打って、枕に顔を埋める。
どうしよう、どうしたらいいのかわからない。
ヴァレさんはどうして、こんなに私に迫って来るんだろう。
彼は皇帝だ。この国のトップに立つ人だ。複数の妻を持つことはあっても、複数の夫のひとりになれる立場じゃないはずだ。
なのにどうして?
どうして、こんなに私を惑わせるの?
どうして。
ビョルンも、ロルフも、イスも、許可するの?
彼らが拒否してくれれば。
違う。
どうして。
私は、拒否しないの?
「……ッ」
自分が情けなくて、涙が滲んだ。
…これは、気軽にオッケーしちゃダメなやつよね?
「…お揃いの指輪って、なんか意味あります?」
ビョルンたちと婚約した時、前世みたいに婚約指輪を贈るとかはなかった。結婚時に、お揃いの指輪を作るとかも特にない様子だ。
中にはお揃いのアクセサリーを作る人もいるらしいけど、ほとんどの人がする慣習…というほどではないらしかった。
でもこの世界では、平民と貴族・皇族ではけっこう慣習が違う。
それに気づいたから、警戒して聞いたわけなんだけど…。
ヴァレさんは笑みの形に目を細めたあと、私の左手をそっと取った。
「ビョルンたちにプロポーズされた時…ここに、キスされなかった?」
そう言って、薬指の腹を彼の指で撫でられる。
それだけなのに、撫で方がひどく官能的で。ぴくり、と私の手が反応してしまう。
「どう?」
「…されました」
顔を見れなくて、目線を下げながら答える。
ふっ、とヴァレさんが笑うのを、音だけで聞く。
「あれね。帝国紀初期にあった、左手の薬指には心臓に直接繋がる血管があるという考えから来ているんだよ」
その説は、前世でも聞いたことがある。だから結婚指輪は、左手の薬指につけるのだと。
「だから夫婦になるとね、ここにお揃いの指輪をつけるんだ。…お互いの心臓と、繋がれるように」
左手を持ち上げられ、薬指の背に、唇が押し付けられる。温かくて、柔らかい唇。
「お互いの心臓に、愛を誓うために」
顔に血が昇り、心臓が破裂しそうなくらいに高鳴る。
この手を、振り払うことができない。
この思いを、断ち切ることができない。
「この指につける指輪。…作ってくれる?」
目を逸らしたままだけど、わかる。神秘的なアースアイが、私をじっと見つめていること。
低く甘く、愛を乞うようなその声色に。
「……考えて、おきます」
逃げることしか、できない。
左手の薬指に、フッと温かい息がかかった。
「…期待しておくよ」
喜色の混じったその声に、私は目を逸らしたままうなずいた。
そのあと、ヴァレさんはさっと話題を変えてくれた。
でも時折目が合うと、その瞳は熱を帯びたままで。
気まずくて、それをごまかすようにお酒が進んでしまった。
「シャトラ、大丈夫?」
「んん~…」
いつの間にか、机に突っ伏していたみたい。
ヴァレさんが揺すって起こそうとしてくれるけど、瞼も体も重い。
意識はなんとか保っているけど、起きたくない。このままウトウトしていたい。気まずさもあるし。このまま寝たふりを決め込む。
「やれやれ。まったく…」
苦笑した声が聞こえる。
それから肩を支えられ、膝裏に手が入り、体が浮き上がる。その流れで、ヴァレさんの首元に顔を埋める。
ベルガモットの、香水の匂い。
ヴァレさんの匂い。
ああ、また、匂いの記憶ができる。この匂いがしたら、こうして抱き上げられたこと、きっと思い出してしまう。
心臓がトクトクと高鳴って、頬が熱くなる。お酒を飲んでいるから、バレないかな。
そのまま自分の部屋の寝室へ運んでくれ、ベッドに横たえられる。布団を掛けてくれ、頭を撫でられる。
優しい。
そのまま去るかと思ったけれど、私の体の横に手をついた気配がした。
ベッドが少し、沈む。
そして唇に、柔らかいものが押し付けられる。
少し離れて、温かい吐息。
それからもう一度、触れる。
触れるだけの…キス。
少し長めにキスをしたあと、ヴァレさんは寝室から出ていった。
ドアがパタンと閉まる音がしてから、そのまま少し待って。
ヴァレさんの気配が完全に消えたと確信できてから、私は大きく息を吐いた。
「はぁー……」
寝返りを打って、枕に顔を埋める。
どうしよう、どうしたらいいのかわからない。
ヴァレさんはどうして、こんなに私に迫って来るんだろう。
彼は皇帝だ。この国のトップに立つ人だ。複数の妻を持つことはあっても、複数の夫のひとりになれる立場じゃないはずだ。
なのにどうして?
どうして、こんなに私を惑わせるの?
どうして。
ビョルンも、ロルフも、イスも、許可するの?
彼らが拒否してくれれば。
違う。
どうして。
私は、拒否しないの?
「……ッ」
自分が情けなくて、涙が滲んだ。
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