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北欧系戦士兄弟編
02
「えッ!結婚?!」
驚いて聞き返すと、初期から事務員として活躍している青年がはにかみながら頷いた。
彼は元々傭兵として所属していたけれど、戦いの最中に足を負傷し引退せざるを得なかった。傭兵は危険も多いが大きく稼げる職業だ。だが彼のように若いうちに負傷してしまうと、引退後の未来は明るくない。商家などで雇ってもらおうにも体が不自由なため採用が難しく、自分で店を持とうにも資金がない。どうしようもなくて悪事に手を染めたり、物乞いをするしかない者もいる。
だがちょうど事務員が欲しいと考えていた私は、そうした負傷者の雇用にも繋がると説き伏せて、団長に認めさせたのだ。
私は彼をダシにして必要な人材を確保したようなものだけど、彼自身は大袈裟なくらい感謝してくれた。元々食い詰めた農家出身の彼は、将来を誓い合った幼馴染の恋人と共に都会へ出て来た。彼が傭兵、恋人は飲食店でウェイトレスをしながら資金を稼ぎ、店を持つつもりだったようだ。
だが彼が怪我をしたことでその目標は頓挫した。恋人の稼ぎだけで二人が生活するのは難しく、彼女を置いて家を出ることも考えたそうだ。
「あのとき事務員に取り立てていただいたおかげで生活も維持できたし、彼女との結婚も決められたんですよ」
さすがに店を持つことは難しいが、安定した収入のおかげで結婚してもやっていけそうだと二人で決断できたらしい。
「この1年でまとまったお金も作れましたしね…」
と彼が言った瞬間全員の顔がスン…ッとなったが、すぐに気を取りなおすと口々に祝福の言葉を贈った。
「そうか、結婚か…おめでとう」
嬉しそうな顔で礼を言う青年は、たしか自分とそう歳が変わらなかったはずだ。
この5年怒涛のように過ぎていって、結婚どころか恋愛に発展した相手すらいない。そもそも元の世界で40年独身だったから、恋愛の始め方すら忘れてしまった。
だが。
「結婚…いいなぁ…」
漠然とした憧れをポツリと呟く。
そのあと疲れ切って家帰ったら配偶者がご飯作ってお風呂焚いて待っててくれたらサイコー、とか妄想を繰り広げていた私は、秘書の目がギラリと光ったことに気づかなかった。
そんな部下の結婚話から数日。
今日も今日とて事務仕事に励んでいると、執務室の外が急に騒がしくなり壊れそうな勢いでドアがバーン!!と開いた。もちろんノックなどない。
現れたのは、ヴァイキングを題材にしたドラマに出てきそうな、男くさい感じの北欧系イケメンだ。年は30ちょい過ぎくらいだったかな。くすんだ金髪は肩まで伸びていて、左右のサイドを三つ編みにして後頭部辺りでお団子にまとめてある。マンバンヘアってやつ?後ろの髪は下ろしてあるからハーフアップっていうのかな。瞳は吸い込まれそうな深い青。短くきれいに整えられた髭。そしてH(高さ)W(横幅)D(奥行)ともにデカい。腕とか胸板とか太ももとか筋肉ってこんなに太くなるの?ってぐらいのマッチョボディだ。
そんな彼は部屋に一歩踏み入れるなり、
「レーデル、帰ったぞ!!」
と重低音の大声を放った。慣れた者はドアが開いた瞬間に耳を塞いでいたので無事だったが、少し前に採用したばかりの新人さんは目を白黒させていた。ゴメン伝え忘れてた。コイツ戦場で指示出すには声が通って聞きやすいし、咆哮すると敵さんビビるから便利なんだけど、日常で聞くには危険な声量よね。鼓膜の無事を祈る。南無。
心の中で合掌してから、私はそのデカブツに目を向けた。
「ビョルン、ここは戦場じゃないんだから声抑えてくれる?」
私が声を掛けると、ビョルンはどかどかと荒い足音を立てながら近寄ってきた。
こっちが日本女性の平均ジャストな身長なもんだから、2メートル近い大男に迫られると身長差がエグい。毎度「森のくまさん」のフレーズが頭の中で流れるんだけど私は悪くないと思う。彼の名前もビョルン(熊)だしね。
「おぅ、なんか言ったか?」
ニカッと歯を見せながら返事する声もデカい。そして距離近いからなんか熱気もすごい。筋肉ムキムキだから体温も高いのかしらね。
「もー、近くで大きい声出さないで!アンタまた補聴器壊したでしょ!」
グイッと彼の耳を引っ張って顔を近づけると、私が『聴力補助』の附術を施したピアスにヒビが入っている。
「予備のは?ロルフに渡してあったでしょ?」
「コレがソレだよ。スマン」
悪びれずニッと笑う彼に呆れたため息をつきつつ、常に準備してある『聴力補助』ピアスが入ったケースを執務机から取り出した。
最前線で戦う傭兵や戦士にはままあることなんだけど。爆発系の魔術や魔獣の咆哮などを間近で聴いて、聴覚に障害を負ってしまったのだ。
この世界での治癒術は、禁術扱いである『生命を編む術(テクスヴィタ)』の一部とみなされているため、使用がかなり制限されている。彼のような難聴に対して治癒術が施されることはないし、そもそも細かい治療ができるほど発達してもいない。
そこで私のチート能力である附術の出番だ。附術は生体には無理だけど、物体には施せる。なのでピアスに聞こえた音を増幅する術を施せば、異世界版補聴器の完成だ。ちなみに一定以上の騒音は小さくする機能付き。術を施す物体が小さいほど、そして機能が多いほど難易度が上がるので、ここまでできるのは附術師の中でも私くらいなものだと自負している。
「はい、新しいの」
「つけてくれよ」
「やだよ。自分でやってよ」
「前にそれで壊しただろう。細かいことは向いてないんだ」
うぐ。そうだった。前に自分でやらせたらピアス捻り潰しちゃったのよね。どんな指の力してるんだか。
しょうがないからつけてあげるか、と立ち上がったところでハッと気づく。
周囲の事務員諸君の生ぬるい笑顔に。
「えっ、なに…なんかある?」
「いいえぇ~なんでもぉ~」
「私たちのことはお気になさらずぅ~続きをどぉぞぉ~」
ニヨニヨしながら言うのは、恋バナ大好き20代女子の事務員二人組。
「いやいやいやいや、ただピアスつけようとしてるだけだって」
「んふふ~そうですよね~」
「なるほど~ピアスつけてあげるのが当たり前のキョリ感ですかぁ~」
ニヨニヨ。ニヨニヨ。
みんなに同じような視線を向けられて、なんだか急に恥ずかしくなる。
「~~~ッ、ビョルン、こっち来て!」
「ん?あぁ」
急いでビョルンを執務室の外に連れ出す。
「いってらっしゃいませ~!」
「私たち、このままお昼に入りますから~!」
『お二人でごゆっくり』と言われている気がする。私とこの男の間には、そんな関係は横たわってないのに。
後で誤解をちゃんと解かなきゃなぁ、と思いつつ取り敢えず、同じ建物内にある私室にビョルンを連れ込んだ。
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