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混血系大公編:第二部
01
「ヴァレさん、何でここに?!」
「お宅の塔長から連絡を受けてね」
我が家は一般家庭だ。貴族でもなんでもない。稼ぎはいいからそれなりに大きい家に住んでいるけれど、貴族の格式高い邸宅とは比べ物にならない。
そんな平民の家の中に現れた、この国で一番高貴な身分のお方。
……皇帝陛下だ。
変装の為かな、茶色のウィッグを被っていたけれど…この魅力的なイケメンを見間違えるはずがない。
ソファから立ち上がって、ポカンと口を空けて呆けている私にはお構いなしに、彼はグイっと近づいてきて言った。
「以前から出資していた、バイオトイレがついにテスト稼働するんだろう?プレゼンには是非こちらの関係者を送りたいと考えたんだが、ちょうど私のスケジュールが調整できてね。用事もあったし、久々に旧交を温めるために来たんだよ」
明るく笑顔で話すヴァレさんを、少し仰け反りながら見上げる。首が痛い。それから後ろに控える、苦虫を噛み潰した顔の人たちに目線を移す。
ヴァレさんと眼鏡の知的な雰囲気の男性は皇城勤務の役人っぽい恰好をして、あと二人のガタイのいい男性は騎士の恰好をしている。最近ちょこちょこ婚約関連で貴族戸籍を扱う役所の人が来てたから、ウチに訪ねて来るのに違和感のないように装ったんだろう。でも後ろに控える人たち…特に眼鏡の男性…の顔つきを見るに、部下の人たちに相当無理させたんじゃない?
「とりあえず、こちらにどうぞ。えっと、他の方は…」
ウチのリビングはまぁまぁ広いけど、さすがに全員入ると窮屈そうだ。眼鏡の男性はそうでもないけど、騎士さんふたりともでかいし。なんかでっかい荷物抱えてるし。そもそもヴァレさんもデカいし。我が家にはただでさえでっかい男たちがいるんだから…なんか部屋の気温が上がりそうだわ。
「ああ、彼らは帰すよ。英雄が4人もいるんだ、護衛は充分だろう?」
「えぇー?それちゃんと皆さん納得済みです?」
「もちろんだとも。ねぇジョバンニ?」
ヴァレさんがウィッグをするりと脱ぎ、美しい金髪が露わになる。眼鏡を掛けた男性に、それを手渡しながら問いかけると。
「…………ええ」
それを騎士さんが抱えてきた荷物にしまって、かつすんごい間を置いてから、彼がやっと返事をした。
控えの人たちの中では一番身分が高そうで、多分この人がヴァレさんの側近なんだろう。いかにもできる男な顔立ちだけど、めっちゃ眉間に皺が寄っている。得意げに「ほらね!」と胸を張るヴァレさんに、いやいや絶対無理やり説き伏せたじゃん!と心の中でツッコむ。なんだか不憫になってしまって、とりあえず全員居間に案内した。
ヴァレさんはこの家には初めて来たと思うんですけど、ソファに案内するとすぐに座って寛ぎ、イスにいろいろ話しかけていた…。まぁ、プレゼンに興味深々っぽいもんね。それに関する話をしているみたいだ。
騎士さんたちもビョルンと顔見知りみたいで、荷物を運び込むと声を掛けて親し気に話し始める。
じゃあ皆さんにお茶でも…とミニキッチンに向かおうとすると、ジョバンニさんに呼び止められた。
「英雄殿、折り入ってご相談が」
「あ、はい…。ロルフ、ごめんお湯沸かしといてくれる?」
「ん」
急に人がたくさん入ってきてちょっと機嫌が悪くなったロルフだったけど、用事を頼むと素直にミニキッチンに向かってくれた。
ダイニングテーブルの方にジョバンニさんを案内して、私も向かい側に着席する。
「それで、なんでしょう?」
「こちらを」
ジョバンニさんは懐から2枚の紙を差し出して、テーブルの上に置いた。
「英雄殿、こちらにサインをいただけますか」
「いやいや、内容読ませてくださいよ」
必ずサインをしろ!と目でものすごい訴えて来るけれど、内容把握せずにサインなんかできるかい。圧が強いけどそちらを視界に入れないように、書類を目の前に持ち上げて、目を通す。
どれどれ。頭の中で一生懸命日本語変換しながら、文章を読む。えーっと、皇帝ヴァレンタインの護衛契約書…?ボヌ・ディエヌの英雄シャトラは、皇帝ヴァレンタインを守護し、その命を守る事。契約は両者が合意に至ったその瞬間から開始とすること。1日分の契約金についての記載。契約に違反した場合は、英雄シャトラがその責を負うこと。賠償については、内容により両者の話し合いのもと決定すること…。小難しい言葉が並べられているけれど、だいたいこんな感じのことが書かれている。内容は2枚とも同じもので、一方は私の控えってことよね。
「えぇっと…傭兵団への依頼ではない?」
この書き方だと、私個人に対する契約書だよね。
「今日は休息日で傭兵団も稼働していないでしょう。契約書もこちらで準備したものですし、後から傭兵団が稼働していない日の契約書だから無効、だとでも言われたら困りますから」
「はぁ…」
融通の利かんタイプの人なのかな。たしかにあの手この手で、契約書を逆手に取って悪用しようとする輩は散々見てきた。だからこそ、きっちり交わすのは大事だと思いますけれど。
「ちなみに、契約を交わさなかった場合は?」
「当然、護衛を置いて行きますし増やします。ここに」
「増えるんかーい…」
どっか別の所に待機しててはくれんの?くれんのか…。
ハァーっとため息をつく。この人、交渉に慣れた人だな。絶対に譲らんぞとの気概が伺える。まぁ、ぶっちゃけヴァレさん自身も強いし、ビョルンもロルフもなんならイスもいるし、よっぽど大丈夫だとは思うんだけど。小難しい文章を読んでちょっと頭が痛くなってきたし、ヴァレさんのことだから、よっぽど変な契約は交わさせないだろうし。
「お宅の塔長から連絡を受けてね」
我が家は一般家庭だ。貴族でもなんでもない。稼ぎはいいからそれなりに大きい家に住んでいるけれど、貴族の格式高い邸宅とは比べ物にならない。
そんな平民の家の中に現れた、この国で一番高貴な身分のお方。
……皇帝陛下だ。
変装の為かな、茶色のウィッグを被っていたけれど…この魅力的なイケメンを見間違えるはずがない。
ソファから立ち上がって、ポカンと口を空けて呆けている私にはお構いなしに、彼はグイっと近づいてきて言った。
「以前から出資していた、バイオトイレがついにテスト稼働するんだろう?プレゼンには是非こちらの関係者を送りたいと考えたんだが、ちょうど私のスケジュールが調整できてね。用事もあったし、久々に旧交を温めるために来たんだよ」
明るく笑顔で話すヴァレさんを、少し仰け反りながら見上げる。首が痛い。それから後ろに控える、苦虫を噛み潰した顔の人たちに目線を移す。
ヴァレさんと眼鏡の知的な雰囲気の男性は皇城勤務の役人っぽい恰好をして、あと二人のガタイのいい男性は騎士の恰好をしている。最近ちょこちょこ婚約関連で貴族戸籍を扱う役所の人が来てたから、ウチに訪ねて来るのに違和感のないように装ったんだろう。でも後ろに控える人たち…特に眼鏡の男性…の顔つきを見るに、部下の人たちに相当無理させたんじゃない?
「とりあえず、こちらにどうぞ。えっと、他の方は…」
ウチのリビングはまぁまぁ広いけど、さすがに全員入ると窮屈そうだ。眼鏡の男性はそうでもないけど、騎士さんふたりともでかいし。なんかでっかい荷物抱えてるし。そもそもヴァレさんもデカいし。我が家にはただでさえでっかい男たちがいるんだから…なんか部屋の気温が上がりそうだわ。
「ああ、彼らは帰すよ。英雄が4人もいるんだ、護衛は充分だろう?」
「えぇー?それちゃんと皆さん納得済みです?」
「もちろんだとも。ねぇジョバンニ?」
ヴァレさんがウィッグをするりと脱ぎ、美しい金髪が露わになる。眼鏡を掛けた男性に、それを手渡しながら問いかけると。
「…………ええ」
それを騎士さんが抱えてきた荷物にしまって、かつすんごい間を置いてから、彼がやっと返事をした。
控えの人たちの中では一番身分が高そうで、多分この人がヴァレさんの側近なんだろう。いかにもできる男な顔立ちだけど、めっちゃ眉間に皺が寄っている。得意げに「ほらね!」と胸を張るヴァレさんに、いやいや絶対無理やり説き伏せたじゃん!と心の中でツッコむ。なんだか不憫になってしまって、とりあえず全員居間に案内した。
ヴァレさんはこの家には初めて来たと思うんですけど、ソファに案内するとすぐに座って寛ぎ、イスにいろいろ話しかけていた…。まぁ、プレゼンに興味深々っぽいもんね。それに関する話をしているみたいだ。
騎士さんたちもビョルンと顔見知りみたいで、荷物を運び込むと声を掛けて親し気に話し始める。
じゃあ皆さんにお茶でも…とミニキッチンに向かおうとすると、ジョバンニさんに呼び止められた。
「英雄殿、折り入ってご相談が」
「あ、はい…。ロルフ、ごめんお湯沸かしといてくれる?」
「ん」
急に人がたくさん入ってきてちょっと機嫌が悪くなったロルフだったけど、用事を頼むと素直にミニキッチンに向かってくれた。
ダイニングテーブルの方にジョバンニさんを案内して、私も向かい側に着席する。
「それで、なんでしょう?」
「こちらを」
ジョバンニさんは懐から2枚の紙を差し出して、テーブルの上に置いた。
「英雄殿、こちらにサインをいただけますか」
「いやいや、内容読ませてくださいよ」
必ずサインをしろ!と目でものすごい訴えて来るけれど、内容把握せずにサインなんかできるかい。圧が強いけどそちらを視界に入れないように、書類を目の前に持ち上げて、目を通す。
どれどれ。頭の中で一生懸命日本語変換しながら、文章を読む。えーっと、皇帝ヴァレンタインの護衛契約書…?ボヌ・ディエヌの英雄シャトラは、皇帝ヴァレンタインを守護し、その命を守る事。契約は両者が合意に至ったその瞬間から開始とすること。1日分の契約金についての記載。契約に違反した場合は、英雄シャトラがその責を負うこと。賠償については、内容により両者の話し合いのもと決定すること…。小難しい言葉が並べられているけれど、だいたいこんな感じのことが書かれている。内容は2枚とも同じもので、一方は私の控えってことよね。
「えぇっと…傭兵団への依頼ではない?」
この書き方だと、私個人に対する契約書だよね。
「今日は休息日で傭兵団も稼働していないでしょう。契約書もこちらで準備したものですし、後から傭兵団が稼働していない日の契約書だから無効、だとでも言われたら困りますから」
「はぁ…」
融通の利かんタイプの人なのかな。たしかにあの手この手で、契約書を逆手に取って悪用しようとする輩は散々見てきた。だからこそ、きっちり交わすのは大事だと思いますけれど。
「ちなみに、契約を交わさなかった場合は?」
「当然、護衛を置いて行きますし増やします。ここに」
「増えるんかーい…」
どっか別の所に待機しててはくれんの?くれんのか…。
ハァーっとため息をつく。この人、交渉に慣れた人だな。絶対に譲らんぞとの気概が伺える。まぁ、ぶっちゃけヴァレさん自身も強いし、ビョルンもロルフもなんならイスもいるし、よっぽど大丈夫だとは思うんだけど。小難しい文章を読んでちょっと頭が痛くなってきたし、ヴァレさんのことだから、よっぽど変な契約は交わさせないだろうし。
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