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混血系大公編:第二部
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殺気に気づいて来てくれたみたいだ。と同時にロルフが私に視線を合わせ、自身の耳を塞いだ。考える間もなく、反射的に私も耳を塞ぐ。
刹那。
「何をしている!!!」
ビョルンの大音声が飛んだ。彼の声量は戦場でも響き渡るほどのもので、室内ではそれがさらに響く。耳を塞ぐのが間に合わなかったイスとヴァレさんがたまらず怯んで…その隙に間合いを詰めたロルフが私をひょいと持ち上げ、自分の背後に隠した。連携プレーが素晴らしい!
安全圏に逃れたので、ロルフの陰から恐る恐る様子を伺ってみる。すると私に背を向けた状態で、ビョルンがふたりの前で仁王立ちしていた。顔は見えないけれど、逞しい背中からものすごい怒気が立ち昇っているのがわかる。
「イスハーク!自分の妻の前で何をしている!怯えているじゃないか!」
「…すまない」
怒声を放ったビョルンに、イスは耳を押さえ、眉をしかめながら謝罪する。イスさん普段は冷静沈着な人だけど、婚約者である私が絡むとどうも感情のコントロールが難しくなるみたいだ。
「陛下も!加減をしてください!以前の彼女とは違うんですよ?!」
「ああ…お前たちの前だと、つい加減を忘れてしまう。悪かった」
ヴァレさんも耳を押さえ、苦笑しながら謝罪する。先ほど彼が纏っていた威圧的な雰囲気は、皇族が主神から与えられた力なのだと聞いたことがある。魔力とは違うオーラのようなもので、戦闘時や他者に命令をする際に使用すると、相手を圧倒して有利になることが多いらしい。さっきみたいに、怒りで意図せず漏れ出てしまうこともあるみたいだけど…。ビョルンやロルフ、イスハークみたいな強者には効きにくいし、戦時中は私も附術でいろいろ強化してたから効きにくかった。でも今は最低限の護衛用くらいしか附術は使ってないし、かなり怖かったわ…。 イスもヴァレさんも落ち着いてくれたので、私はホッと胸を撫でおろし、ロルフの背中からそっと出た。
「すまない、シャハラ」
「悪かったね、シャトラ」
それぞれに改めて謝罪され、私はブンブンと首を振った。
「私に向けられたものじゃないのはわかってるので、大丈夫です。私が勝手にびっくりしちゃっただけなんで」
以前より附術には制限を掛けてるし、弱体化してるのはわかってたつもりなんだけど…ヴァレさんの威圧を身近に感じて、こんなにも違うものなんだなって実感したわ。ヴァレさんと会うとき用に、精神強化系の附術を施した装具を作ってもいいかもしれないね。
ビョルンとロルフにお礼を言って、改めてソファに座る。ふたりは訓練の途中だったので汗だくで、汗を流して着替えてからまた来てくれるそうだ。
「イス、ヴァレさんに突っかかるのはもうやめてね?」
「む…」
イスは不満げに口を結んだけれど、膝に手を置いて「ね?」と念押しをすると「気をつける」と同意してくれた。できれば強めの嫉妬心も抑えて欲しいけれど…いやそれは私も悪いのか。ついつい美男美女を見かけると目で追っちゃうもんね。
「ヴァレさんも。さっきのは絶対にやめてくださいね?」
「さっきのとは?」
とぼけて見せるヴァレさんの目をじっと見つめながら、私は続ける。
「イスとの結婚の話です。調整に時間がかかるのは仕方ないけれど、意地悪しないでちゃんと進めてくださいね?もちろん、ビョルンとロルフの分も。私たち、4人で家族になれる日を心待ちにしてるんですから」
気持ちの上では、もう家族のつもりだけれどね。でもやっぱり、ちゃんと正式に家族になりたいと思うから。
そんな想いを込めて見つめると、ヴァレさんはわずかに目を細めたあと、小さく息を吐いた。
「……わかったよ」
たっぷりの間を置いた後に、彼は同意してくれた。無言の間、彼の胸を過った想いはどんなものだったんだろう。だけどそれはきっと、私が推し量るべきものじゃない。ヴァレさんから視線を外しながら、僅かに過った予感を振払った。
「それで、なんの話してたっけ?」
「私がプレゼンでどうするか、という話だよ」
「ああ、そうだったそうだった。イスは、ヴァレさんが話すのはどっちでもいいのよね」
「そうだな。どちらでも進行に支障はない」
今度は嫌味を放ったりせず、普通に答えてくれる。最初から愛想よくそう答えてくれればいいのに!…いやこの人愛想は実装してなかったわ。
「じゃあ、もう私が決める!ヴァレさんも話すことにしましょう!んで、私も話す。でもメインはプレゼンなので、挨拶はお互い短めに!これでどうです?」
「いいね。文言を考えずに済むのはありがたいよ。塔長殿も、それでいいかい?」
「構わない」
両者同意してくれて、話がようやく進むことになった。やれやれ。ちなみにイスは何か喋らないの?と聞いたら、塔の人たちに場が盛り下がるから、挨拶のみでいいと言われたそうだ。あぁ…申し訳ないけどわかる気がする。イスって理論立てて説明するのは上手だけれど、声が淡々としてるからテンション上げにくいっていうか…相手の参加しよう、協力しよう!ってやる気を引き出すには、それに相応しい話し方ってのもあるものね。
「ヴァレさん!ここは私たちがひと肌脱いで、しっかり盛り上げましょうね!」
「もちろんだとも」
手を差し出すと、ヴァレさんはニッコリ笑って私の手を握り返してくれた。
それからビョルンとロルフが戻って来て、入れ替わりでイスが準備のため家を出ていく。
「お昼は帰って来ないんだっけ?」
「ああ、準備のために人員がかなりいるからな。宅配を頼んである」
それは素晴らしい!イスも含め魔術師さん達、夢中になると寝食忘れる人多いからね。宅配で現場に届けてくれるなら、みんな強制的に摂ってくれるだろう。
「わかった。準備に夢中になって、昼食摂るの忘れないようにね」
「気を付ける」
チュッといってらっしゃいのキスをして、イスを見送る。彼の姿が見えなくなって振り返ると、いつの間にか近くにいたロルフがグッと腰を引き寄せてきて、チュッとキスをしてきた。
「んッ、ふふ、なに?」
「別に。何でもいいだろ」
ニヤッと笑ったロルフがさっと離れて、今度はビョルンからキス。
「公平でなきゃ、な?」
「はいはい。ふふ」
笑いながら受け止めて、先ほどまで座っていたソファに戻る。すると何とも言えない表情でこちらを見ていたヴァレさんと目が合ったので、照れ隠しにゴホンと咳払いをした。
刹那。
「何をしている!!!」
ビョルンの大音声が飛んだ。彼の声量は戦場でも響き渡るほどのもので、室内ではそれがさらに響く。耳を塞ぐのが間に合わなかったイスとヴァレさんがたまらず怯んで…その隙に間合いを詰めたロルフが私をひょいと持ち上げ、自分の背後に隠した。連携プレーが素晴らしい!
安全圏に逃れたので、ロルフの陰から恐る恐る様子を伺ってみる。すると私に背を向けた状態で、ビョルンがふたりの前で仁王立ちしていた。顔は見えないけれど、逞しい背中からものすごい怒気が立ち昇っているのがわかる。
「イスハーク!自分の妻の前で何をしている!怯えているじゃないか!」
「…すまない」
怒声を放ったビョルンに、イスは耳を押さえ、眉をしかめながら謝罪する。イスさん普段は冷静沈着な人だけど、婚約者である私が絡むとどうも感情のコントロールが難しくなるみたいだ。
「陛下も!加減をしてください!以前の彼女とは違うんですよ?!」
「ああ…お前たちの前だと、つい加減を忘れてしまう。悪かった」
ヴァレさんも耳を押さえ、苦笑しながら謝罪する。先ほど彼が纏っていた威圧的な雰囲気は、皇族が主神から与えられた力なのだと聞いたことがある。魔力とは違うオーラのようなもので、戦闘時や他者に命令をする際に使用すると、相手を圧倒して有利になることが多いらしい。さっきみたいに、怒りで意図せず漏れ出てしまうこともあるみたいだけど…。ビョルンやロルフ、イスハークみたいな強者には効きにくいし、戦時中は私も附術でいろいろ強化してたから効きにくかった。でも今は最低限の護衛用くらいしか附術は使ってないし、かなり怖かったわ…。 イスもヴァレさんも落ち着いてくれたので、私はホッと胸を撫でおろし、ロルフの背中からそっと出た。
「すまない、シャハラ」
「悪かったね、シャトラ」
それぞれに改めて謝罪され、私はブンブンと首を振った。
「私に向けられたものじゃないのはわかってるので、大丈夫です。私が勝手にびっくりしちゃっただけなんで」
以前より附術には制限を掛けてるし、弱体化してるのはわかってたつもりなんだけど…ヴァレさんの威圧を身近に感じて、こんなにも違うものなんだなって実感したわ。ヴァレさんと会うとき用に、精神強化系の附術を施した装具を作ってもいいかもしれないね。
ビョルンとロルフにお礼を言って、改めてソファに座る。ふたりは訓練の途中だったので汗だくで、汗を流して着替えてからまた来てくれるそうだ。
「イス、ヴァレさんに突っかかるのはもうやめてね?」
「む…」
イスは不満げに口を結んだけれど、膝に手を置いて「ね?」と念押しをすると「気をつける」と同意してくれた。できれば強めの嫉妬心も抑えて欲しいけれど…いやそれは私も悪いのか。ついつい美男美女を見かけると目で追っちゃうもんね。
「ヴァレさんも。さっきのは絶対にやめてくださいね?」
「さっきのとは?」
とぼけて見せるヴァレさんの目をじっと見つめながら、私は続ける。
「イスとの結婚の話です。調整に時間がかかるのは仕方ないけれど、意地悪しないでちゃんと進めてくださいね?もちろん、ビョルンとロルフの分も。私たち、4人で家族になれる日を心待ちにしてるんですから」
気持ちの上では、もう家族のつもりだけれどね。でもやっぱり、ちゃんと正式に家族になりたいと思うから。
そんな想いを込めて見つめると、ヴァレさんはわずかに目を細めたあと、小さく息を吐いた。
「……わかったよ」
たっぷりの間を置いた後に、彼は同意してくれた。無言の間、彼の胸を過った想いはどんなものだったんだろう。だけどそれはきっと、私が推し量るべきものじゃない。ヴァレさんから視線を外しながら、僅かに過った予感を振払った。
「それで、なんの話してたっけ?」
「私がプレゼンでどうするか、という話だよ」
「ああ、そうだったそうだった。イスは、ヴァレさんが話すのはどっちでもいいのよね」
「そうだな。どちらでも進行に支障はない」
今度は嫌味を放ったりせず、普通に答えてくれる。最初から愛想よくそう答えてくれればいいのに!…いやこの人愛想は実装してなかったわ。
「じゃあ、もう私が決める!ヴァレさんも話すことにしましょう!んで、私も話す。でもメインはプレゼンなので、挨拶はお互い短めに!これでどうです?」
「いいね。文言を考えずに済むのはありがたいよ。塔長殿も、それでいいかい?」
「構わない」
両者同意してくれて、話がようやく進むことになった。やれやれ。ちなみにイスは何か喋らないの?と聞いたら、塔の人たちに場が盛り下がるから、挨拶のみでいいと言われたそうだ。あぁ…申し訳ないけどわかる気がする。イスって理論立てて説明するのは上手だけれど、声が淡々としてるからテンション上げにくいっていうか…相手の参加しよう、協力しよう!ってやる気を引き出すには、それに相応しい話し方ってのもあるものね。
「ヴァレさん!ここは私たちがひと肌脱いで、しっかり盛り上げましょうね!」
「もちろんだとも」
手を差し出すと、ヴァレさんはニッコリ笑って私の手を握り返してくれた。
それからビョルンとロルフが戻って来て、入れ替わりでイスが準備のため家を出ていく。
「お昼は帰って来ないんだっけ?」
「ああ、準備のために人員がかなりいるからな。宅配を頼んである」
それは素晴らしい!イスも含め魔術師さん達、夢中になると寝食忘れる人多いからね。宅配で現場に届けてくれるなら、みんな強制的に摂ってくれるだろう。
「わかった。準備に夢中になって、昼食摂るの忘れないようにね」
「気を付ける」
チュッといってらっしゃいのキスをして、イスを見送る。彼の姿が見えなくなって振り返ると、いつの間にか近くにいたロルフがグッと腰を引き寄せてきて、チュッとキスをしてきた。
「んッ、ふふ、なに?」
「別に。何でもいいだろ」
ニヤッと笑ったロルフがさっと離れて、今度はビョルンからキス。
「公平でなきゃ、な?」
「はいはい。ふふ」
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