230 / 305
混血系大公編:第二部
30
それからふたりで色んな角度からスライムを眺め、どこから切るのがベストか検討する。
「ビョルンの大剣で一刀両断がいちばんいいと思うんだけど」
「そうだなぁ。だがこいつは骨が折れそうだ」
「結構くっついてるね。なんとか離れてくれないかな?」
「剣でつついてみるか?」
「突き刺してグリグリって?スライムとは言えエグいわー」
「コイツの体を切り売りさせてるお前に言われたくないぞ」
「でしたでした」
そんな雑談をしつつ作戦を練る。ロルフに頼んだ方が精密性は高いと思うんだけど、断面がきれいすぎるとスライムがすぐくっついちゃいそうだしな。ビョルンの振り下ろす勢いなら衝撃派みたいのが出るから、うまく分断してくれると思うんだ。
でも魔核まで潰しちゃったら水の泡だしなー。なんていろいろ考えながら、スライムの周囲を歩いていると。
「英雄さん!」
突然、後ろから声を掛けられて振り向いた。
そこにいたのは、なんだか見覚えのある顔の男の子。さっき広場で、スライム拾い中に鼻をこすろうとして注意した子だ。
スライム拾いの道具を貸し出した時に、危ないから本体には近づくなってことも注意喚起されたはずなんだけど、なんでここに?
とりあえずこの場から遠ざけるために、少年に声を掛けようとしたんだけど…。
彼はわざとらしいくらいに無邪気な笑顔を私に向けて、こう言った。
『爆ぜろ』
……日本語…?
「シャトラ、伏せろ!!」
「「シャーラ!」」
私を呼ぶ声が聞こえたと思ったら、私は衝撃を受けて地面に倒れ伏した。
バァァァン!!
爆発音、振動、そこかしこで上がる悲鳴…。
それらをすべて、のしかかる重みの下で聞いて、感じる。
「ぐ…ッ」
何かが当たる鈍い音、うめき声。私に覆い被さる重みが揺れる。鼻の中いっぱいに広がる香水の香り。
「ヴァレさん!どいて、ヴァレさん!」
「…大丈夫だ」
「やだ、バカ!私なんか庇って…!」
「はは、手厳しいな」
苦笑しながら、彼は私の上からゆっくりと退く。
違う、バカは私だ!
急いで起き上がり、座り込んでいるヴァレさんの傷を確認する。
ああ、クソ。私はヴァレさんの護衛なのに、なに庇ってもらってんの!
身につけている護身用装具は、常時発動させてる。でも範囲を広げると魔力の消費量が増えるから、普段は自分の周囲にしか展開させていない。
密着していたから、ヴァレさんを襲った衝撃も多少は緩和されたかもしれない。でも、無傷ってことはないはずだ。
「当たったの、どこですか?」
「左肩」
確かに、装備に汚れがついている。でも血は滲んでいない…とりあえず、出血はなさそうだ。今回ヴァレさんの装備はロルフに借りたもので、肩の動きが悪くなるからって肩当てとかのしっかりした装備はしていない。それも心配だ。
「肩は動きます?」
「ああ、大丈夫だよ」
顔をしかめながらも、腕を回してみせる様子にホッとする。折れてはなさそうだ。よかった…。
ヴァレさんの無事を確認して、それから周囲の状況を確認することにした。
彼の周囲には瓦礫や木片が落ちている。中でも人の頭くらいの大きさの瓦礫があって、恐らくこれがヴァレさんの肩に直撃したんだろう。
ああ、これはかなり痛そうだ。私を庇わなければ、そんな思いをしなくて済んだのに…。彼に申し訳なく、そして油断していた自分が悔しい。
「シャーラ、怪我はないか」
ビョルンが来て、心配そうに私の様子を見てくれる。
「無傷よ。ヴァレさんが庇ってくれたから…」
「ああ、よかった。ヴァレンティーノ、助かった」
「光栄だよ」
ビョルンてば、ヴァレさんが私を護るのが当たり前のように話している…そりゃさっき私のこと頼んでたけどさ。護衛するのは私の方だし、それなのに対象に怪我を負わせちゃったってんで、内心めちゃくちゃ動揺してるんだけどね。
でもここで止まっていてはいけない。まずは事態を収拾させることに努めなければ。焦る気持ちを無理やり押し込めて、まずは状況を把握しなければ。
「みんな、無事?」
周囲を見ながら問いかけると、口々に返事をしてくれる。
幸い、音のわりには爆発の規模はそこまで大きくなかったようだ。スライムのいたところを見ると、周囲にゲル状のものをまき散らして四散している。やはり、爆心地はスライムか。
ちょうど私とビョルンが観察するために、他の人たちはスライムから離れてくれていたから爆発に巻き込まれずに済んだみたいだ。
「ビョルンも怪我はない?」
「もちろんだ」
私と同じようにスライムの近くにいたビョルンには、護身用装具(夫仕様の強力なヤツ)を身につけてもらってるし、とっさに幅広の大剣を盾にして瓦礫からの被害も防いだようだ。すばらしい反射神経だね。
「よかった」
無事を確かめるようにビョルンに抱きつき、周囲に聞こえないよう小声で問う。
「ロルフとシュエンは?」
「追わせた」
抱き返してくれたビョルンが耳元でそう囁く。
私に声を掛けてきた、あの少年は姿を消していた。でもロルフとシュエンが追跡してくれているのなら、何かしら突き止めてきてくれるだろう。
それからイスが魔術師さんを二人連れて走ってきて、一番に私の無事を確かめてくれる。
「大丈夫、ヴァレさんが庇ってくれたから」
「そうか。よくやった」
「はは、どうも」
なんて、サークルの塔長サマが皇帝陛下サマにのたまっている。
だから私が護衛する側なんだってば…。
「イス」
「?なんだ」
イスの前で両手を広げてみせるけど、何故だか小首を傾げている。
「いや、ハグしてよ」
「いいのか?」
「何でダメなのよ」
「人前では嫌だとよく言うじゃないか」
「それはキスの話!これはハグ!」
「どちらも接触じゃないか…」
接触の度合が違うわい!
若干腑に落ちない感じのイスを、やや強引に抱きしめる。
そして、先ほどと同じように小声で囁いた。
「スライムに、レディと同じものが掛けられてたかも」
「…!そうか、調べてみる」
同じく小声で囁き返してくれた。よしよし。
「でも先に、ヴァレさんの怪我の具合を見てくれる?」
「ああ」
「あと、今回の件は『認可外の違法魔道具の暴発』ってことで治めようと思うけど…」
「それがいいだろう」
「ありがとう」
よし、塔長様の許可ももらったぞ。
それからギュッと力を込めて抱きしめ、イスから体を放した。
イスはヴァレさんのところに行き、連れてきた魔術師さんふたりにスライムを調べるよう指示を出していた。とりあえずは、これ以上爆発の危険性のあるものがないか調べるように。それから何か不審な点があれば、触らずすぐ報告するように伝えている。
さて。
じゃあ私は、まだざわついている会場の人々を落ち着かせましょうかね。
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~
花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。
だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。
エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。
そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。
「やっと、あなたに復讐できる」
歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。
彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。
過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。
※ムーンライトノベルにも掲載しております。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。