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混血系大公編:第二部
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「…とりあえずは、相手の目的もわからない状況だ。手近にある問題から、紐解いていくしかないだろうね」
「ええ、そうですね」
なんにせよ、まずはレディ・アマニータの件だ。東諸島の魔術を研究している魔術師さんの到着を待って、彼女の呪術を解いてもらうのが先決かな。
「イス、東諸島に詳しい魔術師さんは、いつ到着予定なの?」
「もうそろそろ到着するはずだ。フラフラしている男だから、途中に興味を惹かれるものがなければの話だが」
「ああ…」
研究をメインにしている魔術師さんって、総じてそういうところがあるよね。研究対象があると夢中になってのめり込んでしまうというか。ウチにもそういう魔術師がいるのでよくわかりますよ。
「ダービー伯嬢の件がわかったら、私にも教えてくれるかい?こちらも『東諸島』をキーとして、情報を集めておく」
「わかった」
「あれ、ヴァレさんも協力してくれるんですか?」
私がそう聞き返すと、ヴァレさんはスッと目を細めて見せた。
「そりゃあ、我が帝国内であんなふざけたことをされたらね。落とし前をつけてもらわないと」
うわぁ、なんて酷薄そうな微笑み。貴族とか上流階級の人って、何種類もの笑顔を使い分けるよね。怖い。
「ああ、それと。情報の伝達は、シャトラを通じてもらえるかい?」
「えっ、私?」
「…何故だ?」
「彼女には、しばらく皇城に滞在してもらう予定だからね」
……はい?
「…何を言っている」
私が言葉を発する前に、イスがめちゃめちゃ低い声で聞き返した。だから怖いって!
「例のローブの件で、私の側近であるジョバンニがそれはもう警戒していてね。あれを使われてしまったら、皇帝である私ですら容易に暗殺されかねないだろう?『君たちが作った』認識阻害ローブは、それだけ優秀だからね」
「うぅ…ッ!」
『君たちが作った』をめちゃくちゃ協調されたぞ…!
「だから附術師としての君に、私のプライベートスペースの防犯システムを構築してもらいたいと思っている。あのローブについてよく知っている君に頼むのが一番だからね」
めちゃくちゃ理に適っている…!ローブについてよく知っているのはイスもなんだけど、彼は魔術師だから恒常的な防犯システムの構築は難しい。魔術は紡いでいる間と、編み上げたあとは魔力が続く範囲でしか維持できない。だから防犯システムに関しては、魔石の魔力で維持できる附術の方に軍配が上がるのだ。
うわー、断りにくい状況作り上げて来てんな―。
「一朝一夕でやれとは言わないけど、事が事なだけにね、できるだけ早く構築して欲しい。そのためにも、皇城に泊まり込みでやってもらうつもりだ。だから、シャトラを通して私に教えてくれればいい」
そうだよね泊まり込みじゃないと無理だよね。
ああ、どうしよう。
ヴァレさんの命がかかってるとなれば、私で助けになることならなんとかしたい。でもさっき、ヴァレさんに怪我をさせてしまったことが心に引っかかる。もしまた私の考えが至らないせいで、ヴァレさんが危険な目に遭ったら?万が一にも、命を落としてしまったら?その後のことを想像すると、胸の奥が冷たく重くなっていく。
「…すみませんヴァレさん。皇城にも優秀なお抱えの附術師さんがいますよね?アドバイスならいくらでもしますから、その人にお願いできませんか?」
「彼は優秀だが、君ほどでは…」
「いえ、私は附術師専任じゃないので、日々邁進している人とは違います。それに傭兵団の仕事も、あまり不在にするわけにもいけませんし…」
言い訳を並べ立てて、断りの言葉を口にする。申し訳ないけれど、今の私には自信が持てないのだ。
だけどヴァレさんは、私の逃げ道を塞ぐように不敵な笑みを浮かべた。
「もちろん、君が忙しいのは知っているよ。だが、ビョルンが副団長に就いて問題なく稼働しているようだし、他にも事務決裁のやり方をいろいろ変えたんだろう?シウから聞いているよ」
「え」
シウ、あいついつの間に…!
シウはボナ・ノクテム後からウチの秘書として働いているんだけど、元はヴァレさんからの紹介でウチに来た経緯がある。なんかいろいろ訳アリらしく、匿う意図もあったらしいけど…その辺は詳しく聞いていない。ヴァレさんと今でも繋がっているのは知ってたけど、いちおうウチの秘書なんだから、内情をベラベラ喋るのはけしからん!
あとで覚えとけよ…と心の中でシウを呪っている間に、話はどんどん進められていく。
「それなら多少、君が不在にしても問題ないはずだ。どうにも困ったら城まで通信を入れてもらえばいいし、早馬を出せば君たちの傭兵団本部までさほど時間はかからないしね」
「いや、でも…」
なんとか反論の余地を探そうとする私に、ヴァレさんはヤレヤレと肩をすくめてみせる。
「悪いがシャトラ、君はもう断ることはできないんだよ」
「…それってどういう…?」
「ビョルン、さっきシャトラがジョバンニと交わした契約書。仕舞ってある場所はわかるかい?」
「ああ…持ってくるか?」
「頼む」
迷うこともなく居間を出ていき、書類を取りに行くビョルン。その姿を見送り、続いて私の顔を見、なんでお前の契約書の保管場所をビョルンが把握しているんだ?という目を向けてくるイス。言葉には出していないけど、イスの言いたいことはわかっている。
「…仕事上じゃ絶対しないわよ?しないんだけど、なんでか家で保管する個人的な書類とかは、テキトーに置いちゃってどこにあるかわからなくなっちゃうのよね。捨ててはないからどこかからは見つかるのよ。でもちゃんと保管してないから、必要な時に毎度探す羽目になって、それでビョルンに怒られちゃって…」
「……」
「んで、ビョルンが『もう俺が保管する』って言って、ビョルンが保管場所決めて管理してくれてる…んです」
「……」
私の言い訳を聞いても、イスの表情は変わらない。でも、呆れかえっているのが手に取るようにわかる…!
そんな私たちの様子を見て、ヴァレさんは口元を手で押さえたまま俯いて、プルプル震えている。めっちゃ笑いを堪えてる…!
イスはものすごーく深いため息をついたあと、ポツリと呟いた。
「お前はビョルンに依存し過ぎだ……いや、そう仕向けているのか」
ん、最後なんて言った?小声過ぎてよく聞こえなかった。
「まぁいい、この件はまたビョルンと話しておく。お前はもう少し、家でもしっかりしろ」
「えー」
「えーじゃない」
えー。怒られたので心の中で呟く。
でもさー、私って元々そんなしっかりした人間じゃないのよ。だけど団長職になんてついちゃったから、仕事では頑張って気を張ってるのよ。だから家では、できるだけ気を抜きたいんだけどなー。でもビョルンに甘えすぎって言われたら、反論はできない。ビョルンはオカン属性強いし、最後は全部「仕方ないな」って許してくれるから、際限なく甘えちゃってる自覚はある。
「気を付けまーす」
「その場しのぎの返事をしていないか?」
「してないです」
「……」
「……多分」
「……」
あんまり気乗りしないまま返事をしたら、イスの目が超絶冷ややかだ!怖いのでそっと目を逸らす。
プルプルと震えながら時おり「グフッ!」と笑い声を漏らしているヴァレさんを視界に入れながら、ビョルンが帰って来るのを黙って待った。
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