水の中で恋をした

アキナヌカ

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水の中で恋をした(中編)

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「うっわっ、男も女も凄い数だな」
「全員、僕の貞操を狙う狼だよ」

「なかなかの美人もいるぞ、あの子なんかどうだ?」
「あの窓際の子? 嫌だ、雄輝の方が可愛い」

「俺はそんなに可愛いとは思わないけどな」
「何を言ってるの、雄輝は可愛いよ」

 そんなことを言いながら俺たちは大広間に集まっている男女を見ていた、男のΩが十人と女が十人で合わせて二十人だった。着ている物も着物や袴でキラキラと着飾っていた、智之はそんな自分の結婚相手の候補をうんざりとした目で見ていた。まぁ、よく知らない男女に貞操を狙われてたら、俺だってうんざりとするだろうなと思った。そうして智之は婚約者候補に挨拶するために下に降りていった、何故か俺も腕をつかまれて一緒に大広間の上座に立つことになった。智之はいつもと違って俺の腰に手をまわして、俺に頬ずりしながらお見合い会を始めた。

「僕の婚約者選びの為に集まってもらって礼を言う、一週間の間だけ君たちは離れで過ごして貰って構わないが、自分のことは全て自分でやってもらうからうちの使用人を使わないこと」

 そう言っている間も智之は俺に頬ずりしていた、俺は自分の役目が何となく分かった。要は智之には俺という仲が良いΩがいるから、今は結婚する気がないとこいつらに示しておきたいのだ。それに気がついたので智之に頬にキスされても、俺はまぁいつものことだと思ったが、一応は恋人がいると見せたいのならと俺から智之の頬にキスしてやった。そうしたら智之は真っ赤な顔になって、婚約者候補にさっさと離れに行くように言った。そうして誰もいなくなったら、俺に智之は真っ赤な顔のまま真剣な表情で聞いてきた。

「雄輝、どうしてキスしてくれたの!?」
「要するに智之は今は結婚を考えていないから、俺をダミーの恋人にしてみせるつもりかなと思った」

「そっ、そうだよ。さすがは雄輝、僕の気持ちをよく分かってくれてる」
「智之に頬にキスされるのは慣れてるし、別にそれくらいなら大丈夫だろ」

「雄輝、もしもそれ以上僕がしたいって言ったらどうする?」
「うーん、口にキスくらいは平気かな。ディープキスをしろって言われたら、ちょっと悩むな」

 智之は真っ赤な顔になって口にキスしてもいいのっと驚いていた、俺は頬も唇も同じようなものだと思っていた。でもさすがにディープキスをしろと言われたら悩ましいところだ、できなくはないが俺のファーストキスが全て智之が相手だと、なんだか本当に俺に恋人ができないようで悲しかった。そう素直に智之に言ってみると、雄輝はカッコ良いからすぐに恋人ができると言われた。お世辞ではなく本当にそう思っているようで、智之は真っ赤な顔のままで俺にそう真剣に言ってくれた。

「でも、俺。学校ではモテないぞ」
「雄輝を好きだと思っていても、言葉にする勇気がないんだろう。ゆっ、雄輝はどんな相手が好きだ?」

「うーん、俺は男のΩだからな。男も対象になるのか、うーん。そう智之みたいな奴が良い、もし男だったら智之みたいな奴が好きだ。でも女の子だったら可愛い子が、んん――――!?」
「んんっ、ふうっ、雄輝。僕たち付き合おう、すぐに結婚しよう、僕の番になってください」

「はぁ!? いきなりディープキスをしたと思ったら何だって!?」
「僕みたいな男が好きなんだろう、だったら僕と付き合おうよ。雄輝、僕は本気だ」

 俺はあんぐりと口を開けて驚いた、確かに男なら智之のような優しい奴が俺は好きだ。でも実際に智之と付き合えと言われると何か怖い気がした、智之は真っ赤な顔で真剣に僕と付き合おうと言っていた。俺はとりあえずその場から逃げ出そうとした、智之の隙を見てその脇をすり抜けて俺は逃げ出した。もちろん智之が追いかけてきた、俺はこの家のことをよく知っていた。実際に住んでいる智之以上にこの家に慣れていた、だから智之から逃げ出して今きっと智之が一番近づきたくない場所に向かった。それはこの家の離れだった、俺は離れの隠し部屋に身をひそめた。

「あんな子がいるなんて聞いてないわ」
「自分で自分のことをなんて、私は着物を脱ぐことだってできないわ」
「俺だって袴できたから、脱いだら着ることができない」
「でも智之様って素敵な方だったわ」
「ええ、とてもカッコよくて頭も良いんですって」
「あれだけ美形なら僕も男でもいいや」
「そろそろ食事の時間だ、何でも自分でするなら台所に食事をとりにいかないと」

 俺も腹が減ってきたからこっそりと台所に向かった。そして知り合いの使用人さんから食事を貰ってその場でさっさと食べた、何故なら智之の足音が近づいて来ていたからだ。ごちそうさまでしたと言うと俺はその場から逃げ出した、そしてまた離れの隠し部屋に俺は戻った。すると随分と婚約者候補の数が減っていた、彼らに使用人の人が食事の準備もご自分たちでどうぞと言っていた。この離れには台所もお風呂もトイレも全てそろっていた、だから暮らそうと思えばこの離れで暮らすことはできなくはなかった。そして、俺は智之の発言をよく考えてみた。

「いつまでも隠れていても仕方がない、智之と話しあってみよう」

 俺はさっきあった出来事をよく考えていた、俺と智之が果たして恋人同士になれるだろうか、そう思って智之と話し合うことにした。だから俺は離れの隠し部屋を出て、智之の部屋に向かっていった、智之はいなかったからこの広い家で俺を探しているようだった。俺は待っていれば帰ってくるだろうと思って、適当なソファに横になって本を読んでいた。そうしたら何だろう、何もしてないのに体が熱くなってきた。俺はこれはヒートだと思って、持って来た荷物の中から抑制剤を探して飲んだ。生まれて初めてのヒートは辛かった、体が熱くなって欲情が収まらなかった。

「見つけた、雄輝!! ってどうした? 風邪か? 腹痛か? 大丈夫か?」
「違うよ智之、多分だけど初めてのヒートだと思う、お願いだから今の俺には触らないで」

「ああ、それでさっきから堪らない甘くて良い匂いがするのか。雄輝、今すぐ楽にしてやるぞ」
「ちょっ、ちょっと待って触らないでったら、智之!!」

「雄輝、大丈夫だよ。雄輝の体を楽にしてあげるだけだ、決して俺の欲望はぶつけない」
「やっ、やだって智之。今、僕のものに触れないで!! やぁ!? 口に入れたりしないで!!」

 智之はうっとりした顔で俺のことを見ていた、そして俺のズボンを脱がせて俺のものを口の中に咥え込んだ。そうして俺のものを口の中で吸ったり、口から出して舐めたりした。智之はとても嬉しそうでやがて俺がいってしまうと、その精液を飲み込んでしまった。そうして俺は智之に何度も何度もいかされた、やがて出るものがなくなってしまった。すると抑制剤も効いてきたのか体の熱さが落ちついた、智之はうっとりと俺を見つめて抱き着いて離れなくなった、冷静になってみると俺は凄く恥ずかしかった。だから一人になりたいのに、智之が俺を離してくれなかった。

「ヒートは落ち着いたようだな、雄輝」
「抑制剤を飲んだし、智之がぬいてくれたから」

「それじゃ、考えてくれた? 僕と付き合ってくれる話」
「考えてみたけどよく分からない、智之のことは好きだけど、さっきみたいなことをするのは恥ずかしい」

「僕が気持ち悪かったり、嫌な気持ちにはならなかった?」
「そんな気持ちにはならなかった、だけど俺が智之と付き合えるかな?」

 智之は俺と初めて会った時に溺れた時の話や、そこで俺に助けて貰って惚れたことなどを話した。俺は人として当然のことをしただけだった、あんな幼い頃から智之が俺を好きだなんて知らなかった。そして智之はこういう提案をしてきた、恋人として自分を試して欲しいと言ってきたのだ。智之の話ではあくまでもお試しで、智之はキスまでしか手を出さないということだった。俺はそれならいいかと思ったが、さっきされたフェラはどうなるのか聞いた。すると智之は俺のものにキスしただけだと言い張った、それでいうとキスの範囲が凄く広いが、泣きそうなくらい真剣な智之を見て俺はお試しをしてみることにした。

「分かった、智之をお試しの恋人にしてみる」
「本物の恋人にしたくなったら、いつでもすぐに言ってくれ」

「そうなるかな、そうならなかったら智之とはお別れか」
「いや、僕はまた親友に戻って、雄輝の気が変わるのを待つから大丈夫だ」

「そうなのか? それじゃ、俺に他に恋人ができるまでは親友だな」
「まぁ、でも僕としてはお試しの恋人から本物になる自信がある」

 智之はお試しの恋人にしてみると俺が言ったら、ガッツポーズをとっていた。そしていつものように笑顔でお試しの恋人が失敗しても親友は続けると言う、俺に他に好きな人ができない限り、そうすると言うのだから智之は愛情深いんだなと俺は思った。そうして始まったお試しの恋人だったが、いつもとあまり変わらなかった。ただ智之がやたらキスしてくるようになった、頬や口へのキスは挨拶みたいなもので、それにディープキスもしてくるようになった。さすがにディープキスには慣れてなかったので、そうされる度に俺はびっくりして固まった、智之はとてもキスが上手かった。

「誰かとディープキスの練習してたの? 智之?」
「まさかっ、ネットを駆使して気持ち良いキスの仕方、それを勉強していただけだ」

「それにしては気持ち良すぎるんだけど」
「それなら勉強したかいがあった、雄輝もっといっぱいキスしような」

「むぅ、ただでさえヒートがきてるんだから、あんまりディープキスはしたくない」
「そうだな、本当に甘くて凄く良い匂いがするよ」

 そうして智之は抑制剤をしっかりと飲むように言った、そうしないとヒートが起きた俺の傍にいたら、ラットが起きかねないとも言った。智之まで発情状態のラットになったら大変だ、俺は病院に電話してどのくらい薬を飲めばいいか聞いた。すると朝夕の一日に二度飲みなさい、それでもヒートが起こるようなら病院に来なさいと言われた。僕は朝夕きっちりと抑制剤を飲んだ、それで今のところは大丈夫だった。智之の傍にいて婚約者候補の前でいちゃいちゃしてみせても大丈夫だった、智之の婚約者候補はどんどん減っていった。まず自分のことは自分でしろ、という簡単なことができない者が多かった。

「残ったのは男が二人に女が三人か」
「ふん、しつこい奴らだ。僕にはもう雄輝がいるのに」

「残ってる人は智之が好きなのかな?」
「いやそれぞれの家から言われて、太刀川家の時期当主の伴侶になりたいだけさ」

「そういうものなの?」
「その証拠に僕が何を言っても肯定する、僕自身の話を真剣に聞く奴がいない」

 ふーん、勿体ないなぁと僕は思った。智之自身の話も聞いてみたら面白いのだ、会社でやりたいことが山ほどあって、太刀川家のグループ内での福祉の徹底や、新しい技術の導入など聞いてて面白いのだ。だけど、そこで俺は大事なことに気がついた。俺のこれからの進路の話だ、俺は東京の大学に行くつもりだったが、お試しでも智之の恋人になったのならこっちに残った方が良かった。俺は智之にお願いしていた、こっちの大学の資料を見せて貰った、そうしたら智之は嬉しそうな顔をしていた。

「確かにこっちに残っても、俺のやりたいことはできるな」
「雄輝は薬剤師になりたいんだよな、薬学部はこの辺りにも沢山ある」

「智之はもう行く大学を、とっくに決めているんだよな」
「ああ、そこにも薬学部があるんだ。雄輝さえ良ければ、そこの大学にして欲しい」

「この大学か、考えておく」
「良い答えを待ってるよ、僕のお試しの恋人さん」

 そう言われて俺はまた智之にディープキスをされた、俺はそのキスがとても気持ちが良くて動けなくなった。智之は何度も何度も俺にディープキスをしてきた、そうしたらまたヒートが起こった。慌てて智之を押しのけて抑制剤を飲んだ、智之はそんな俺をみてうっとりしていた。そしてまた俺のものにキスするだけだと言って、フェラをして何度も何度も俺をいかせた。俺は気持ちが良くて訳が分からなくなりそうだった、思わず智之にもっとして欲しいとねだるところだった。やがてヒートが収まったが俺は病院に行くことにした、そして今の状態にあった薬を貰うつもりだった。

「ヒートが始まったと言ってましたね、それでは薬を変えましょう」
「あっ、あのαがいるとやっぱりヒートになりやすいですか?」

「それぞれ相性などもありますから、それは難しいですが分かりません、近くにαの方がいらっしゃるのですね」
「そうです、今も一緒に病院に来てくれています」

「…………分かりました、それでは新しい薬を朝夕二回、必ず飲んでください」
「はい、ありがとうございました」

 俺ははいと返事をして新しい薬を受け取った、帰る前に智之は俺の医者を見て面白そうな顔をしていた、何がそんなに面白いのかは俺には分からなかった。そうして俺は夕食後に新しい薬を飲んで智之の部屋で一緒に眠っていた、そうしたら俺に急にヒートが来た。前の薬より酷い症状がきてしまった、俺は智之の部屋をどうにかそっと抜け出そうとした。でも隣に寝ていた智之は起きていた、そして部屋を出て行こうとしている俺を止めた。俺はちょっと触れられるだけで敏感になっていて、触ってもいないのにいってしまった。明らかにあの薬はおかしかった、前の薬より効き目が無かった。

「くううううぅぅぅぅ!! 俺から離れて!! 智之!!」
「こんな苦しそうな雄輝を置いていけるか」

「だって、だって、あの薬おかしい!! ヒートが止まらない!?」
「ああ、雄輝から物凄く良い匂いがする」

「だから離れて、智之。ぬいてくれなくていいから、とにかく離れて!!」
「ふふっ、雄輝のフェロモンは凄いな。でも、絶対に一人にはさせない」

 俺がいくら言っても智之は俺から離れてくれなかった、俺のヒートは酷過ぎて呼吸が止まるかと思ったくらいだった。智之は俺に触れたりせずただ傍にいた、俺が何度も離れてと言ったのに聞いてくれなかった。そうして俺のヒートはどんどん酷くなっていった、欲情してちょっと触れるだけでも体がおかしくなりそうだった。智之は俺に触れたりはしなかった、ただ何かを待っているようだった。そんなことを考えられたのも少しの間で、俺はヒートが酷くて何も考えられないようになった。そうして、俺が恐れている事態が起きてしまった。

「雄輝、ラットが来た。くうぅ、これは凄いな、抑えているのが凄く辛い」
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