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何でもないことのように君が笑うから(前編)

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「龍二、僕は怖いよ。知らない親戚の人が沢山」
「おちつけよ、清春。喪主は親父なんだから、俺たちは来る奴に軽く頭を下げとけばいいんだ」

「龍二、今夜は僕の部屋で一緒に寝て」
「そんなことしたらお義母さんに叱られ……」

「母さんならもういないんだよ、だから龍二が僕の部屋に来ても怒られない」
「そうだったな、お義母さんはもういないんだな」

 俺は御影池龍二みのいけりゅうじ、そこそこの金持ちの家の次男だ。ただし俺は愛人の子で今回亡くなった、義理の母親の御影池美咲みのいけみさきから嫌われていた。だからこの馬鹿広い家でも俺は離れに住んでいた、母屋に行くことは普段なら許されないことだった。義母がその度に怒り狂うからだ、でも俺は義母が産んだ御影池清春みのいけきよはるとは仲が良かった。俺が引き取られた五歳の頃から清春は俺に好意的だった、兄なのは清春なのに俺に甘えてよく一緒にこっそりと遊んだ。俺たちの父親の御影池龍彦みのいけたつひこは義母と仲が悪くて、政略結婚だったせいかほとんど家に帰らず愛人のところを渡り歩いていた。

「お義母さんも、階段から落ちて死ぬとは気の毒に」
「僕は母さんが苦手だったなぁ、龍二と遊ぶのを邪魔するし、御影池の跡取りらしくしっかりしろって煩かった」

「確かに御影池の跡取りはお前だ、清春。お前はΩなんだから、弔問にくるαに気をつけろよ」
「龍二が僕を守って、龍二もαでしょう」

「逆なら良かったのにな、お義母さんもそんなに俺に怒らなかったかもしれない」
「僕は龍二がαで良かったと思うよ、本当に良かったよ、龍二が弟で嬉しい」

 確かに清春と俺を見たら、普通の人は俺の方が兄だと思うだろう。俺はαで背が高く自分で言うのは変だが綺麗な顔をしていた、清春はΩだったからか成長が遅くて俺より十センチも背が低く、顔は穏やかで大人しい可愛い顔立ちだった。俺は優しい清春が兄として好きだったが、清春はとにかく俺のことが大好きだった。だからお義母さんから怒られても、怒鳴られても俺の住んでいる離れに遊びに来た。愛人の子が私の子までたぶらかすつもりと俺はお義母さんに何度も怒られた、そんなわけで正直なところお義母さんが亡くなっても俺は悲しくなかった。

「清春はお母さんが亡くなって悲しいか?」
「本当なら悲しまなくちゃいけないんだけど、母さん僕には冷たかったし僕はよく怒られたから」

「そうか、まぁそれはお義母さんが悪い。だから、悲しくなくても気にするな」
「ふふっ、龍二は優しいね。だから龍二が大好き、今日は一緒に寝ようね」

「母屋でか、お義母さんに悪い気がするな」
「もう気にしないでよ、龍二は僕の弟だ。もうこの家のどこにいても良いんだよ、母屋でも離れでも龍二の好きなところに行けるんだ」

 俺は故人に悪いような気がしながら葬儀が行われる母屋にいた、こうして清春と話しているだけで今もお義母さんに怒られるような気がした。棺の中にいる義母は安らかな顔をしていた、夫から浮気をされ続けて死んでその重荷から解放されたのだろうか、清春は怒られると怖いからと言って義母の死に顔を決して見なかった。実の息子から死に顔も見て貰えないとは、俺はお母さんを可哀そうに思って棺の前から去った。今日が通夜で明日が葬儀と告別式だった。普通は遺体の傍に誰かがつくものだが、俺は生前嫌われていたし、兄である清春は怖がって近づかなかった。夫である御影池龍彦も義母の棺には用は無いと、今夜も通夜が終わると家から愛人のところに出ていった。

「やったぁ、龍二と一緒に寝れる。僕、嬉しい」
「そんなことを言ってたら、お義母さんの幽霊に怒られるぞ」

「龍二ったら幽霊なんていないよ、死んだ人は土に還るだけだ」
「そうか、お前が怖いと言うから幽霊が怖いのかと思った」

「もうあんな死んだ人は怖くない、龍二。僕のこと抱きしめて、ぎゅっと抱きしめて」
「俺の兄さんは相変わらず甘えん坊だな、ほらっ今夜は抱きしめて眠ってやる」

 そうして俺たち兄弟は母屋にある兄の部屋のベッドで眠りについた、兄は俺にべったりと甘えて抱き着いてきた。俺ももうお義母さんがいないから、何も気にすることがなく兄を抱きしめて眠りについた。清春の部屋には香が炊かれていた、俺が好きな白檀の香りだった。俺はそれでリラックスして深い眠りに落ちた、夢の中にも義母は出てこなかった。ただ白檀の香りがする誰かが、俺の唇に触れたような気がした。そして、翌日は葬儀と告別式で忙しかった。俺はΩの清春を心配してボディガードのように清春の傍にいた、清春は俺がいることを喜んで葬儀なのに笑いそうになっていた。そうして、葬儀も告別式も終わって弔問客もほとんど帰っていった。

「お父さんに呼び出されたからちょっと行ってくる。龍二、部屋の前で待っててくれる?」
「ああ、いいぞ。お前の結婚の話かな」

「それなら丁度いいや、お父さんに言っておきたいことがあったんだ」
「おっ、珍しく親父が怖くないんだな。偉いぞ、俺は部屋の前で待ってるからな」

「うん、龍二。大好き、僕を待っててね。お願いだから、絶対に僕の味方をしてね」
「分かった、何があっても俺は清春の味方だ」

 そうして清春は実家にあるほとんど使われない父の部屋に入っていった、そうしてしばらくすると怒鳴り合う声が聞こえたから俺は清春が心配になった。あの大人しい清春が珍しく父親に言い返しているようだった、俺は清春が父親の機嫌を損ねないかと心配でならなかった。やがて俺は厳しい顔をした父親から部屋の中に呼ばれた、清春は俺の顔を見て笑顔になった。そうして俺にぴったりとくっついて俺の後ろに隠れた、俺も清春を庇うように父親の前に立った。それを見て父親はため息をついた、そうして俺が知らなかったとんでもないことを言いだした。

「清春、龍二を番にしたいという気持ちは変わらないか?」
「うん、誰に何て言われても僕は弟の龍二以外の番は要らない」
「はぁ!? 俺と清春は兄弟だろう、いくらαとΩだといっても番にはなれない」

「それがだな、龍二。お前は私の子ではなかった、この御影池家の血をお前は一滴も引いていないんだ」
「そうだよ、僕と龍二は兄弟じゃないんだ。だから、結婚して番になれるんだ」
「なっ、何を言っているんだ!? 俺が御影池の血を引いていない、それじゃ俺の父親は誰なんだ!?」

「それは分からんが、清春が調べさせたDNA鑑定では、お前は私の息子ではなかった」
「でも龍二は僕と結婚して御影池家を継ぐんだよ、えへへっ、僕のお婿さんは龍二だけだ」
「きっ、清春。なっ、何を!?」

 そこで俺は清春から”絶対に僕の味方をしてね”と言われたことを思い出した、もしかしたら清春は政略結婚を薦められてそれが嫌なのかもしれない、それなら清春に好きな相手ができるまで俺が守ってやらなくてはならなかった。だから俺は疑問を飲み込んで清春を抱きしめた、そして父親だと思っていた御影池龍彦から守るように立った。清春は俺にぴったりと抱き着いていた、そうしながら父親を睨みつけていた。いつもの大人しい清春が嘘のようだった、父親はそんな清春を睨み返したが清春は全く怯まなかった。

「分かった、ひとまず龍二の戸籍を御影池家から移す。お前たちは全くの他人になるが、龍二には自由に御影池家に住むこと、またお前に与えている口座を使うことを許す」
「良かった、龍二。僕たちまた一緒に住めるよ!!」
「あっ、ああ、良かった。感謝します、御影池龍彦さん」

「ただしさっさと子どもを作れ、一年経っても子どもができないようならまた考える。政略結婚が嫌な気持ちは私にもよく分かるからな、お前たちが愛し合っているというなら、とにかく早く子どもを作れ」
「はい、分かりました。父さん」
「はい、分かりました。御影池龍彦さん」

「話はそれだけだ、出ていけ」
「失礼します、父さん」
「失礼します、御影池龍彦さん」

 俺は疑問で頭がいっぱいだった、俺が父さんの子どもじゃなかった。この御影池家とは縁もゆかりもない子どもだったことにショックを受けた、父親のことは好きではなかったが実業家として尊敬はしていた。そして清春と子どもを作れと言われたことにも驚いた、俺と清春は今まで兄弟だったから急にそんなことを言われても、俺はかなり混乱して訳が分からなくなった。そんな俺に清春がぴったりと抱き着いてきた、まるで恋人同士のように俺に甘えて抱き着いてきた。そして清春は信じられないことを俺に言った、夢を見るように微笑みながらこう言ったのだ。

「龍二が好き、大好き、愛してる。早く僕の部屋に行って子どもを作ろう、そうすれば父さんも認めてくれるよ」
「いや、清春。俺たちは兄弟で……」

「ふふっ、DNAで証明されたんだよ、僕と龍二は血の繋がりはないんだ。だから愛し合って子どもを作れる、僕はずっと龍二が好きだった、そして早く龍二の子どもが欲しいよ」
「いっ、いつから? いやとりあえずお前の部屋に行く」

「龍二待って、僕を置いていかないで!!」
「清春、いろいろと聞きたいことがあるからな」

 そうして俺たちは母屋にある清春の部屋についた、俺が清春の手を引いてとりあえず中に入ると、いきなり清春に俺は押し倒された。そうして顔や首などにちゅっ、ちゅっとキスをされた。特に口に対するキスがしつこくて、危うく舌を入れられそうになって、俺は清春を急いで引き剝がした。清春には聞きたいことが山ほどあった、だからそれを問い詰めようとした。清春はキスを中断させられてすねてしまった、そして機嫌が悪くなって黙り込んだ。俺はそんな清春を宥めて、何とか真実を聞き出そうとした。

「清春、聞きたいことがある」
「いいよ、龍二。聞きたいこと一個に対して、キス一つで話してあげる」

「なっ、なんでそんなことをしなくちゃならないんだ」
「キスしてくれないなら、僕は何にも話さないからね!!」

「わっ、分かった。キスをするから、俺の質問に答えてくれ」
「うん、良いよ。何でも聞いて、何でも答えるよ」

 俺は清春にキスをした、唇に触れるだけのキスだった。清春はそれでは納得しなくて、もっとエッチな深いキスをしてと言って、ディープキスをしてきた。俺はキス自体初めてだったが、なんとか清春にディープキスをした。清春は機嫌が良くなって、ある書類を持ってきた。そうして俺をベッドに座らせて、その膝の上に清春が座って俺に抱き着いてきた。俺はどうしても真実が知りたかった、だから清春を引きはがして、今一回したディープキスの分の情報を求めた。清春はにっこりと笑って俺の質問に答えてくれた、持って来た書類も見せてくれた。

「俺は父さん、御影池龍彦の子どもじゃないのか?」
「そうこれがDNA証明書、龍二は御影池龍彦の子どもじゃないよ」

「それじゃ、俺の父親は誰なんだ」
「あっ、ごめん。それは僕も知らないや」

「それならどうして清春は俺と結婚するなんて言ったんだ?」
「キス一つだよ、龍二」

 俺は清春にディープキスをした、でも今までキスなんかしたことないから、俺のキスは下手くそだった。だから清春は一回じゃ満足しないで、やり直しと言った。そうして俺は何度も何度も清春にディープキスをした、昨日まで兄だと思っていた清春にキスをするのは変な気分だった。気持ち悪くはなかったが、なんだか悪いことをしている気分になった。何回目のキスだっただろうか、俺はようやく清春から合格を貰った。そうして清春はうっとりした顔で俺に言った、今まで黙っていたことを告白しだした。

「僕は龍二が好き、弟じゃなくて男として好き。だから早く龍二の子どもが欲しい、龍二お願い僕を抱いて」
「まっ、まだ俺には聞きたいことがある」

「キス一つだよ、龍二」
「んん、んくっ。はぁ、これでいいだろ。いつから俺が好きだったんだ、いつから清春は俺のことを知っていた?」

「質問が二つになってるけど、まぁいいや。気持ち良いキスをしてもらえたから、特別に二つとも教えてあげる。まず一つ目、僕は龍二が小学生の頃からかな、母さんから庇ってくれるから龍二のことが好きになった。でも兄弟だと思っていたから我慢してた、龍二に抱かれたくて堪らないのに我慢してたんだ」
「小学生の頃からか!? わっ、分かった。もう一つの質問は?」

「そうしたらさ中学生になってから龍二の母親が僕にお金をせびりにきたんだ、僕が龍二を好きなのを知ってて良いことを教えてくれるって、それで僕は龍二と血が繋がってないって知ったんだ、二十万だったっけ? はした金で凄く良いことを教えて貰ったよ」
「俺の母親と会ったのか!? そうか、それで俺が父さんの子どもじゃないって知ったんだな」

 俺はとりあえず大きな疑問だったことを四つ聞けた、そうしてよく考えてみた。俺は兄として清春が好きだったが、それは兄弟だと思っていたからで、番にするΩとして清春を見たことは無かった。だから清春のことは好きだったが、付き合うのは断ろうと思った。俺がそう言いだす前に俺は清春に押し倒されてキスをされた、ディープキスで息も出来ないようなキスだった。俺はキスの間にもう疑問は無いぞと清春に言った、そしてなるべく清春を傷つけないように、俺は清春のことを番としては見れないと言おうとした。だが、その前に清春がこう言った。

「龍二が相手をしてくれないなら、僕ハッテン場に行って適当な男と寝るからね。僕も嫌だし凄く悲しいけど、龍二が僕の相手をしてくれないならそうする」
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