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4-3濡れ衣を着せられる
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「だが今は俺も正式に跡とりになった、いつまでも婚約者なしではおれん」
そう言うジーニャスはいつもとは違って不満気な顔をしていた、身分に縛られた結婚とは大変そうだと僕は思った。だがやがていつものジーニャスに戻って、ミーティア夫婦に丁寧に結婚の祝福の挨拶をしたり、いろんな酒を飲んで楽しそうにしはじめた。ジーニャスの良いところはいつも逆境に負けないところだ、どうにかして自分の好きな道を進んでいこうとする力があるところだった。
「私はデフィ、弓使いよ。よろしくね」
「あたしはスフィーダ、これでも神官よ」
「アンジェ、魔法使いよ」
「はーい、あたしはディエ。剣士よ」
「今日はおめでとう、私はアウローラ」
「ソレイユって言うの、シーフね」
「あたしはマーニャ、魔法使いだからね」
やがて僕とジーニャスになぜか女性の冒険者たちが挨拶しにきた、次々と挨拶されるので名前と顔を覚えるのが大変だった。そうして酒を一緒に飲もうと誘われたが、僕はまだ吟遊詩人として仕事があるので断った。そうしたらミーティアと話していたソアンが慌てて僕のところに来た、ジーニャスは女性たちに囲まれて一緒に楽しそうに酒を飲んでいた。
「リタ様、気をつけてください!!」
「え? な、なにを?」
「彼女たちはミーティアさんの友達の冒険者です」
「そうみたいだね、何か気をつけることがあったかな?」
「つまり結婚相手を探している、適齢期の女性たちなんです!!」
「ああ、僕とジーニャスはそんな意味で口説かれてたのか」
僕は愛想よく挨拶をしてくれる女性たちの真の目的を知った、彼女たちは次に結婚する者になりたいと願っているのだ。そうして良い出会いを探しているのだ、でもエルフの僕にまでそんな感情を向けられるとは思わなかった。このゼーエンの街ではエルフでも普通に生活している、僕のように用心して顔を隠している者は少なかった。
いろんな種族が交流するのはとても良いことだ、その結果ハーフの子どもが生まれるがそれもまた新しい時代にふさわしかった。エルフも純粋な僕のようなエルフは減っていくだろう、別の種族と交わって新しい血を取り入れ、そうして進化を続けていく方が自然界では生き残りやすかった。エルフ同士の結婚にこだわるのは古い、そう僕はゼーエンの街に来てから思うようになった。
「大丈夫だよ、ソアン。僕は君以外には目を向けないよ」
「そう言いながらさっきの全員の名前、それを覚えているのがリタ様です」
「だって名前と顔を覚えないのは失礼だろう」
「それはそうなんですが、本当に気をつけてくださいね」
「大丈夫だよ、今夜の僕はただの吟遊詩人だ」
「前列に女性をはべらせたが抜けてます、ご自分のことが本当に分かってないんだから!?」
そういえば僕が歌っている場所の前列は何故か女性で埋まっていた、ミーティアの友達なのだろうと僕はそれを気にもしていなかった。ソアンはまたため息をついて頭を押さえていた、そこまで心配しなくても僕だって男だから自分の身ぐらい守れるのだ。でもティスタのような前例もあるし、ソアンからすれば僕は危なっかしい、彼女からは僕はそんなふうに見えているのだ。
ソアンを心配させないように僕は吟遊詩人の仕事に戻った、皆が望むような楽しくて踊り出したくなるような曲を選び歌った。実際に何組かの男女が踊り出していた、酒場はいつもとは少し違って中央だけ少し空間を設けておいたのはこのためだ。結婚式の宴会で次に結婚を望む男女が楽しく踊っていた、僕はソアンと踊れなくて残念に思いながら、それでも皆のために楽しく朗らかな曲を歌い続けた。
「はぁ~、さすがに疲れたわ。師匠もありがとな」
「お疲れ、ミーティア。そして、改めておめでとう」
「はい、おめでとうございます。ミーティアさん」
「ありがと、師匠にソアンちゃん」
「夜も更けたことだし、夫の男性が君を待っているよ」
「そうですよ、せっかくの初夜ですよ」
「あはははっ、そんな照れるやんか。でも、そろそろ家に帰るわ」
「ああ、お疲れさま。ミーティア、また今度ね」
「ミーティアさん、ゆっくり休んでください」
夜も更けたので酒場を閉める時間になった、ミーティアは夫婦になったセーロスという男性と仲良く帰っていった。僕が放っておいたジーニャスを探してみると彼は女性と二人で飲んでいた、話しかけているのはさっき自己紹介されたマーニャという、銀色の短い髪に赤い瞳をもつ女性だった。確か魔法使いだと言っていたから、ジーニャスと話があうのかと思ったが夜も遅いので彼に声をかけた。
「ジーニャス、そろそろ酒場を閉めます。今日はここに泊まりますか?」
「そうだな、そうしよう。店主に三人部屋が空いているか、すまんが聞いてくれるか」
「ああ、護衛の方と泊まるのですね。分かりました、聞いてきます」
「助かるリタ、俺は少しばかり飲み過ぎた」
僕は宿屋の主人に三人部屋が空いているか聞いた、幸い四人部屋が空いていたのでそこをジーニャスに紹介した。ジーニャスは傍に控えていた護衛二人とその部屋に入っていった、僕も自分とソアンの部屋に戻ろうとしたら、マーニャという女性から声をかけられた。かなり強引に僕は腕を引かれて引き止められ、そしてジーニャスについてあれこれと聞かれた。
「ねぇ、エルフのお兄さん。ジーニャスってどこの誰?」
「彼から直接、聞いてみるといいよ」
「護衛がついているってことは……、貴族か金持ちの庶民よね」
「僕からは何も話せないよ、だからジーニャスに聞いてくれ」
「彼って婚約者はいるの? 付き合っている女性はいる? それとも募集中かしら?」
「個人の大切な情報だよ、本当に頼むから本人から聞いて欲しい」
つまんなーいと言ってマーニャという女性は僕を解放してくれた、彼女もこの宿に今夜は泊まるようで店主から部屋を借りていた。僕はやっとソアンのところに帰ることができた、部屋に戻ってみるともうソアンは寝る準備をしていた。僕も着替えていつもの眠り薬を飲んでベッドに入った、いつものようにソアンを腕の中に抱いてそのまま深い眠りに落ちた。
翌朝になってから僕は誰かの悲鳴で目が覚めた、いや悲鳴なのだろうか何か男女が酷く言い争っていた。廊下に出てみればそれはジーニャスと、昨日知り合ったマーニャという女性だった。ジーニャスの護衛たちは姿が見えなくて、ジーニャスとマーニャという女性だけが廊下で言い争っていた。宿屋に泊まっていた客たちは何が起きたのだろうと、ぞろぞろと起き出してソアンも目を覚ましてやってきた。
「俺は潔白だ、どんなに酔っていようがお前の相手はしていない!!」
「あ~ら、酷い。昨日はあんなに積極的だったのに、朝になったら随分と冷たい人ね」
「第一、俺の部屋は四人部屋だ!! それに俺の護衛が二人もいた、お前に手を出すわけがない!!」
「その護衛さんたちはよく眠っているみたいだけど、それじゃ貴方の身の潔白は証明できないわね」
「魔法の眠りだな、俺は大魔法使いだ。これくらいは分かる、お前の仕業だろう!!」
「それを証明するのは難しいわよ、これからよろしく覚えてあたしはマーニャよ」
僕はそこでジーニャスを止めに入った、あまりに衆目があり過ぎたからだ。皆が面白そうにジーニャスとマーニャの言い争いを見ていた、とりあえずジーニャスに落ち着くように言って僕たちの部屋に招き入れた。マーニャが当然のようについてこようとしたが、僕は彼女の目の前で扉をしっかりと閉めた。『施錠』の魔法まで使った、マーニャは抗議のつもりなのだろうが扉をしばらくドンドンと叩いていた。
「それでジーニャス、何が起きたんです?」
「あの女が昨日の夜に俺と寝たと言ってきた、そうして俺の家に一緒につれていってくれと言うんだ」
「女性と寝てないのは確かですか、護衛の方たちは何をしてたんです」
「俺は酔っていても女と寝たかどうかくらいは分かる、護衛たちはいつの間にか眠りの魔法をかけられていた」
「それじゃ、あのマーニャという女性。相当な魔法使いですね、大魔法使いを出し抜くくらいの」
「昨日の夜から俺に言い寄ってきたが、うっとおしいから相手にしなかったらこの有様だ」
ソアンが気の毒そうな様子でジーニャスを見ていた、護衛がいる貴族らしい男性と近づきたい、そういう女性なのだろうかと思った。ジーニャスは少し僕たちの部屋で頭を冷やして、今度は冷静に部屋を出て護衛たちを起こし帰ろうとした。そんなジーニャスにマーニャという女性は、その赤い瞳を潤ませてこう聞いてきた。
「全然あたしに覚えが無いの? 本当に? 全く覚えていないの?」
そう言うジーニャスはいつもとは違って不満気な顔をしていた、身分に縛られた結婚とは大変そうだと僕は思った。だがやがていつものジーニャスに戻って、ミーティア夫婦に丁寧に結婚の祝福の挨拶をしたり、いろんな酒を飲んで楽しそうにしはじめた。ジーニャスの良いところはいつも逆境に負けないところだ、どうにかして自分の好きな道を進んでいこうとする力があるところだった。
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「あたしはスフィーダ、これでも神官よ」
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「はーい、あたしはディエ。剣士よ」
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やがて僕とジーニャスになぜか女性の冒険者たちが挨拶しにきた、次々と挨拶されるので名前と顔を覚えるのが大変だった。そうして酒を一緒に飲もうと誘われたが、僕はまだ吟遊詩人として仕事があるので断った。そうしたらミーティアと話していたソアンが慌てて僕のところに来た、ジーニャスは女性たちに囲まれて一緒に楽しそうに酒を飲んでいた。
「リタ様、気をつけてください!!」
「え? な、なにを?」
「彼女たちはミーティアさんの友達の冒険者です」
「そうみたいだね、何か気をつけることがあったかな?」
「つまり結婚相手を探している、適齢期の女性たちなんです!!」
「ああ、僕とジーニャスはそんな意味で口説かれてたのか」
僕は愛想よく挨拶をしてくれる女性たちの真の目的を知った、彼女たちは次に結婚する者になりたいと願っているのだ。そうして良い出会いを探しているのだ、でもエルフの僕にまでそんな感情を向けられるとは思わなかった。このゼーエンの街ではエルフでも普通に生活している、僕のように用心して顔を隠している者は少なかった。
いろんな種族が交流するのはとても良いことだ、その結果ハーフの子どもが生まれるがそれもまた新しい時代にふさわしかった。エルフも純粋な僕のようなエルフは減っていくだろう、別の種族と交わって新しい血を取り入れ、そうして進化を続けていく方が自然界では生き残りやすかった。エルフ同士の結婚にこだわるのは古い、そう僕はゼーエンの街に来てから思うようになった。
「大丈夫だよ、ソアン。僕は君以外には目を向けないよ」
「そう言いながらさっきの全員の名前、それを覚えているのがリタ様です」
「だって名前と顔を覚えないのは失礼だろう」
「それはそうなんですが、本当に気をつけてくださいね」
「大丈夫だよ、今夜の僕はただの吟遊詩人だ」
「前列に女性をはべらせたが抜けてます、ご自分のことが本当に分かってないんだから!?」
そういえば僕が歌っている場所の前列は何故か女性で埋まっていた、ミーティアの友達なのだろうと僕はそれを気にもしていなかった。ソアンはまたため息をついて頭を押さえていた、そこまで心配しなくても僕だって男だから自分の身ぐらい守れるのだ。でもティスタのような前例もあるし、ソアンからすれば僕は危なっかしい、彼女からは僕はそんなふうに見えているのだ。
ソアンを心配させないように僕は吟遊詩人の仕事に戻った、皆が望むような楽しくて踊り出したくなるような曲を選び歌った。実際に何組かの男女が踊り出していた、酒場はいつもとは少し違って中央だけ少し空間を設けておいたのはこのためだ。結婚式の宴会で次に結婚を望む男女が楽しく踊っていた、僕はソアンと踊れなくて残念に思いながら、それでも皆のために楽しく朗らかな曲を歌い続けた。
「はぁ~、さすがに疲れたわ。師匠もありがとな」
「お疲れ、ミーティア。そして、改めておめでとう」
「はい、おめでとうございます。ミーティアさん」
「ありがと、師匠にソアンちゃん」
「夜も更けたことだし、夫の男性が君を待っているよ」
「そうですよ、せっかくの初夜ですよ」
「あはははっ、そんな照れるやんか。でも、そろそろ家に帰るわ」
「ああ、お疲れさま。ミーティア、また今度ね」
「ミーティアさん、ゆっくり休んでください」
夜も更けたので酒場を閉める時間になった、ミーティアは夫婦になったセーロスという男性と仲良く帰っていった。僕が放っておいたジーニャスを探してみると彼は女性と二人で飲んでいた、話しかけているのはさっき自己紹介されたマーニャという、銀色の短い髪に赤い瞳をもつ女性だった。確か魔法使いだと言っていたから、ジーニャスと話があうのかと思ったが夜も遅いので彼に声をかけた。
「ジーニャス、そろそろ酒場を閉めます。今日はここに泊まりますか?」
「そうだな、そうしよう。店主に三人部屋が空いているか、すまんが聞いてくれるか」
「ああ、護衛の方と泊まるのですね。分かりました、聞いてきます」
「助かるリタ、俺は少しばかり飲み過ぎた」
僕は宿屋の主人に三人部屋が空いているか聞いた、幸い四人部屋が空いていたのでそこをジーニャスに紹介した。ジーニャスは傍に控えていた護衛二人とその部屋に入っていった、僕も自分とソアンの部屋に戻ろうとしたら、マーニャという女性から声をかけられた。かなり強引に僕は腕を引かれて引き止められ、そしてジーニャスについてあれこれと聞かれた。
「ねぇ、エルフのお兄さん。ジーニャスってどこの誰?」
「彼から直接、聞いてみるといいよ」
「護衛がついているってことは……、貴族か金持ちの庶民よね」
「僕からは何も話せないよ、だからジーニャスに聞いてくれ」
「彼って婚約者はいるの? 付き合っている女性はいる? それとも募集中かしら?」
「個人の大切な情報だよ、本当に頼むから本人から聞いて欲しい」
つまんなーいと言ってマーニャという女性は僕を解放してくれた、彼女もこの宿に今夜は泊まるようで店主から部屋を借りていた。僕はやっとソアンのところに帰ることができた、部屋に戻ってみるともうソアンは寝る準備をしていた。僕も着替えていつもの眠り薬を飲んでベッドに入った、いつものようにソアンを腕の中に抱いてそのまま深い眠りに落ちた。
翌朝になってから僕は誰かの悲鳴で目が覚めた、いや悲鳴なのだろうか何か男女が酷く言い争っていた。廊下に出てみればそれはジーニャスと、昨日知り合ったマーニャという女性だった。ジーニャスの護衛たちは姿が見えなくて、ジーニャスとマーニャという女性だけが廊下で言い争っていた。宿屋に泊まっていた客たちは何が起きたのだろうと、ぞろぞろと起き出してソアンも目を覚ましてやってきた。
「俺は潔白だ、どんなに酔っていようがお前の相手はしていない!!」
「あ~ら、酷い。昨日はあんなに積極的だったのに、朝になったら随分と冷たい人ね」
「第一、俺の部屋は四人部屋だ!! それに俺の護衛が二人もいた、お前に手を出すわけがない!!」
「その護衛さんたちはよく眠っているみたいだけど、それじゃ貴方の身の潔白は証明できないわね」
「魔法の眠りだな、俺は大魔法使いだ。これくらいは分かる、お前の仕業だろう!!」
「それを証明するのは難しいわよ、これからよろしく覚えてあたしはマーニャよ」
僕はそこでジーニャスを止めに入った、あまりに衆目があり過ぎたからだ。皆が面白そうにジーニャスとマーニャの言い争いを見ていた、とりあえずジーニャスに落ち着くように言って僕たちの部屋に招き入れた。マーニャが当然のようについてこようとしたが、僕は彼女の目の前で扉をしっかりと閉めた。『施錠』の魔法まで使った、マーニャは抗議のつもりなのだろうが扉をしばらくドンドンと叩いていた。
「それでジーニャス、何が起きたんです?」
「あの女が昨日の夜に俺と寝たと言ってきた、そうして俺の家に一緒につれていってくれと言うんだ」
「女性と寝てないのは確かですか、護衛の方たちは何をしてたんです」
「俺は酔っていても女と寝たかどうかくらいは分かる、護衛たちはいつの間にか眠りの魔法をかけられていた」
「それじゃ、あのマーニャという女性。相当な魔法使いですね、大魔法使いを出し抜くくらいの」
「昨日の夜から俺に言い寄ってきたが、うっとおしいから相手にしなかったらこの有様だ」
ソアンが気の毒そうな様子でジーニャスを見ていた、護衛がいる貴族らしい男性と近づきたい、そういう女性なのだろうかと思った。ジーニャスは少し僕たちの部屋で頭を冷やして、今度は冷静に部屋を出て護衛たちを起こし帰ろうとした。そんなジーニャスにマーニャという女性は、その赤い瞳を潤ませてこう聞いてきた。
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