お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ

文字の大きさ
102 / 128

4-4フェイクドラゴンと戦ってみる

しおりを挟む
「全然あたしに覚えが無いの? 本当に? 全く覚えていないの?」
「昨日の夜に一緒に酒を飲んだ記憶しかない!! それ以外では指一本お前には触れていない!!」

 ジーニャスの拒絶の言葉にマーニャという女性は一瞬だけ顔を歪ませた、でも次の瞬間には平然とした顔をしてジーニャスに向かってこう言いだした。

「まぁ、いいわ。またそのうち会うでしょう、それじゃね」

 そう言ってマーニャという女性はジーニャスに投げキスをしていた、ジーニャスはうんざりとした様子で目が覚めた護衛たちと帰っていった。マーニャはその跡を追っていったりはしなかった、でも朝だというのに酒場でまた強い酒を飲みだした。僕とソアンは関わらない方が良いと判断して、何も声はかけずに朝食をいつもの席で食べて出かけることにした。

「変ですね、マーニャさんってとっても普段は良い冒険者なんです」
「そうなのかい、でも彼女のジーニャスに対する態度は酷い」

「だから変なんです、普段はサバサバした性格で、後輩の面倒をみたりする良い人なんです」
「ジーニャスに一目惚れでもしたのか、それとも貴族に何か恨みでもあるのかな」

「どちらかというと後者でしょうか、マーニャさん貴族は大嫌いなんです」
「ジーニャスには護衛が2人もいたしね、彼がどこかの貴族だっていうのはバレたね」

「まぁ、ジーニャスさんもそんなに街に来ることはありません。私の心配し過ぎかもしれないです」
「ジーニャスは政務で忙しいから、こんな機会はそうそうないだろう」

 僕とソアンはそう話し合ってジーニャスとマーニャの件を軽く考えていた、後々それが甘い考えであったとよく分かることになった。とにかく今は僕は初級魔法が使えるようになって嬉しかった、それにミーティアの結婚が重なって更に嬉しい気分だった。だから冒険者ギルドの掲示板を見ても、あまり勤労意欲がわかなかった。ただ、一つ珍しくて気になる依頼があった。

「ドラゴン退治!? えっ、嘘だよね? ドラゴンってそんなに簡単に出会えないものだけど」
「リタ様でも会ったことはありませんか?」

「あるにはあるんだ、ソアン。長についていって友達のドラゴンを一人、紹介されたことはあるよ」
「ドラゴンってどういう感じなんです? こうなんか神秘的な感じですか?」

「長が紹介してくれたドラゴンは酒好きで、更に面白いことが大好きで村で遊びまわっていたよ」
「うぅ、ドラゴンのイメージが崩れる。神秘的、神話、伝説、それがああ……」

 その依頼をよく見てみると街道をドラゴンが塞いでいるから退治して欲しい、報酬は金貨20枚と高額ではあったがドラゴンと戦うには不十分だった。普通の人間なら一年は遊んで暮らせる金額だが、ドラゴンはとにかく強いのだ。空を飛ぶから自分も飛べなければ勝負にならない、それに言葉も話せるから魔法を使ってくることも多かった。

 僕はそのドラゴンが街道を塞いでいるということに疑問を持った、ドラゴンが好むのは誰も来ない深い森などの洞窟や、もしくは人間体に変化していたら高級な宿屋などにいたりした。人間がひっきりなしにくるような街道などは好まない、というかそんな場所に居続ける意味がないのだ。ドラゴンの知能は人間よりも高く、もっと柔軟な考えの持ち主が多かった。

「多分、フェイクドラゴンじゃないかな」
「リタ様、フェイクドラゴンとは?」

「翼があって魔法を口から吐くから、ドラゴンによく間違えられる生き物だよ」
「へぇ、私は見たことがありません」

「僕も本で読んだだけで見たことはない、戦闘としては空を飛ぶから厄介な存在ではある」
「どうしますか、この依頼は引き受けますか?」

 ソアンのからの問いに僕はしばらく考えて、冒険者ギルドの職員に質問をした。ドラゴン退治とあるがフェイクドラゴンでも退治したことになるのか、その場合の報酬はどうなるのかという話だ。冒険者ギルドの職員はとにかく街道を通れるようにしたいので、もし本物のドラゴンでなくフェイクドラゴンでも報酬は出ると答えた。それなら、楽して稼ぐ良い機会だった。

「ソアン、この依頼を引き受けよう」
「はい、リタ様。クレーネ草の薬は使われますか?」

「本物でも偽物でも空を飛ぶ相手だからね、最初の攻撃で仕留められなかったらそうしよう」
「できるだけ空を飛ぶ前に仕留めましょう!!」

「そのほうが安全だ、ソアン。僕が君を魔法で強化して、君が仕留めてくれるかい」
「任せてください、リタ様。きっと一撃で仕留めてみせます!!」

 こうして僕たちは街道を塞いでいるドラゴンを退治しにいった、もしも本物のドラゴンならここにいる理由を聞いて穏便に対処すればいいだけだ。フェイクドラゴンだった時の方が厄介だった、話は通じないのにドラゴンとまではいかないが、フェイクドラゴンもそれなりに強い魔物だからだ。十分に用意をして僕たちは出かけていった、だが着いた時には既にもう遅かった。

「これはっ、ソアン。気をつけて、酷い血の海だ」
「この人たちは商隊の護衛さんでしょうか、あそこに馬車が転がっています」

 街道ではドラゴンらしき魔物が道を塞いで眠っていた、そうしてその周りは血の海だった。荷馬車が破壊されて転がっており、人間の遺体らしきものが散らばっていた。僕とソアンは少し驚いたが、デビルベアの時ほど酷くはなかった。あの時はもっと多くの遺体があったし、本当に地面が血の海のようだった。

 それに比べれば今回はまだマシだった、そしてよくドラゴンらしきものを観察した。僕がみるにフェイクドラゴンだった、姿形はドラゴンによく似ているが違うものだ。だから僕は最初の作戦どおりにいけるかソアンに訊ねた。ソアンはスッと大剣を取り出して構えた。戦いたいというソアンの意志を尊重して、最初の作戦どおりに僕は魔法を使うことにした。

「それじゃ、『怪力ストレングス』それに『駿足ファストペース』」
「はい、更に『筋力強化エンハンスパワー』、『速力強化エンハンススピード』」

 僕が初級魔法でソアンを強化した、ソアンも中級魔法を使って自分自身を強化した。ソアンの速さと力はかなり強化された、そうして彼女はいきなり眠っているドラゴンに向かっていった、まるで風のような速さでフェイクドラゴンに近づいていった、そうしてフェイクドラゴンが気がついて動き出す前に、その首に大剣を振り下ろしたのだ。

 だがその一瞬早くフェイクドラゴンが目を覚まして動いていた、ソアンの攻撃は翼の片翼を切り落としていた。初撃は思ったところに当たらなかったが十分だった、これでフェイクドラゴンは飛べなくなった、あとはソアンが攻撃を繰り返すだけですんだ。フェイクドラゴンは火などを吐いたが、ソアンはそれをなんなく躱して、今度こそその首を斬り落としてしまった。

「お疲れ様、ソアン」
「はい、リタ様」

「フェイクドラゴンだったけど、落ち着いていて良い戦いだったよ」
「リタ様の魔法が効いていたので、何も怖くありませんでした」

「生存者は残念ながらいないようだ、討伐証明の両牙を貰っていこうか」
「はい、リタ様。ちょっとフェイクドラゴンに、口を開けてもらってっと……」

 その日僕たちはフェイクドラゴンを倒して、街道を開けたと冒険者ギルドに報告した。冒険者ギルドの職員も確かめに行って、すぐに報酬の金貨20枚を貰うことができた。また僕たちはアクセサリ屋に行って、動きやすくて適度に重いアクセサリを身につけることになった。フェイクドラゴンも珍しい存在だ、だからこれで話は終わったと思っていた。

 でもその翌日、僕たちが冒険者ギルドの掲示板を見ると、また『ドラゴン退治』と書かれた紙が貼ってあった。僕たちは意味が分からずに冒険者ギルドの職員に聞くと、今度は別の街道にドラゴンが現れたのだという話だった。さすがに続けてドラゴン退治に行く気になれず、今回は他の冒険者に任せようと二人で話し合った。

「もし本物のドラゴンなら、敬意をもって相手をしないと大変なんだけど……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

処理中です...