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1-05入学式

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「デクス様、とうとうフロンティア学園に私たちも入学ですね」
「だが俺は正直に言って、あそこで学ぶことがあるとは思えない」

「貴族と付き合うことも必要ではないでしょうか、フロンティア学園で人脈を作っておくのです」
「政治をする為に必要な人脈なら既にできている、父上を通して役に立つ貴族は全員知っている」

「そっ、それでは私たちは一体何をしに、フロンティア学園に行くのでしょうか」
「まぁ、あの学園には庶民も入学しているから、良く言えば世間を広く知るためといったところか」

 デクス様はフロンティア学園に入学にあまり乗り気ではないようだった、確かに天才であるデクス様はもう全ての授業で満点をとり、あまつさえ教師に逆にものを教えることさえあった。そんなデクス様にとってフロンティア学園は退屈そうなところだった、でもデクス様には一つだけ良い事があったようだった。

「シャインの制服姿は本当に可愛いな、スカートが短くて普段は隠されている足が見えるのが良い」
「いいですかデクス様、私の足など見ないでください。確かにこの制服はすそが短くて、足が見えるので少し恥ずかしいんです」

「くぅ、本当にシャインの制服姿は破壊的に可愛い。こんなにも可愛い姿を俺以外が見るなんて許せない、やっぱりフロンティア学園への入学は止めるか」
「デクス様、今更そうは言われましてももう入学式です。そしてフロンティア学園に通うなら、制服は着用せねばなりません」

「俺は凄く心配になってきた、こんなに可愛い俺のシャインに余計な虫がつきそうだ。フロンティア学園など行くのを止めてしまうか、別にそうしてしまっても何も問題はない」
「まぁまぁ、デクス様。試しにフロンティア学園に通ってみましょう、そうしてみたら良い事があるかもしれません」

 私とデクス様は十二歳になっていた、あとはフロンティア学園に三年通ったら、もう私たちは十五歳の立派な大人だった。デクス様はあまりフロンティア学園に通うことに興味が無いようだった、それはもう必要な勉強はデクス様は全て終わらせているせいもあった。フロンティア学園などに通わなくても、デクス様はもういつ王になっても良いお方へと成長していた。

「私も王太子妃教育はもう全て終わってしまいました、ですがフロンティア学園で何か学ぶことがあると良いと思っております」
「シャインは相変わらず真面目で可愛いな、ちょっとその制服姿で俺の膝に座ってくれないか」

「はい、こうでしょうか。デクス様申し訳ありませんが、スカートから出ている足を撫でないでください!!」
「いやこの右足を撫でるのも懐かしいと思ってな、俺の大事なシャインの足が綺麗に治って本当に良かった」

「もう右足をひきずったりしませんよ、少しだけ私の感覚としてひきずるような気がします、ですが大したことはありませんから大丈夫です」
「ああ、シャインはやはり可愛すぎる!? 俺は君を他の男に見せたくない!! できることならどこかへ閉じ込めたい!!」

 私と出会って七年間でデクス様は随分と変わられた、表情が豊かになって私を異常に溺愛するようになった。そうして私に甘い言葉ばかり言ったかと思うと、こんなふうに閉じ込めたいなどと怖いことも言うのだった。それでもデクス様はそう言うだけで、本当に私を閉じ込めることはなかった。だから私はデクス様を信頼していた、デクス様となら仲が良い夫婦にも今ならなれると思いはじめていた。

「それでは行こうかシャイン、気は進まないがフロンティア学園へ」
「はい、デクス様。それでは馬車に乗って、一緒に参りましょう」

「俺の可愛いシャイン、俺にしっかりと捕まっておくんだよ」
「デクス様、私はお姫様抱っこをされなくても、もう右足は治りましたので歩けます」

「いやこれは俺がしたいからしているんだ、シャインの温かい体という生きている証を俺は感じていたい!!」
「はぁ、それではよく分かりました。でもフロンティア学園では、なるべくこんな行動は謹んでくださいね」

 私はデクス様にお姫様抱っこされて、王家の馬車まで運ばれてしまった。デクス様はこの七年でとてもカッコよく、そして強く逞しい体の美男子に育っていた。とても十二歳とは思えなかった、もう十五歳くらいの成人した男性に私には見えていた。そしてこの七年間で私はデクス様との付き合い方を学んだ、とにかくデクス様は私が傍にいれば安定していた。ただし私がデクス様の傍からいなくなると、デクス様の機嫌は悪くなり感情も不安定になった。

「それではどうぞ馬車へ俺のお姫様、シャイン」
「はい、ありがとうございます。デクス様」

「馬車の中ではいつものように、君は俺の膝の上に座るんだ。シャイン」
「ええ、デクス様。もし馬車の中で何か遭ったら、私を守ってくださいますか?」

「もちろん何が遭っても俺のシャインを守り抜くとも!! シャインは俺だけのものだから誰にも渡さない!!」
「それを聞いて安心致しました、さぁフロンティア学園へ参りましょう」

 デクス様は馬車の中で私を膝の上に乗せてしっかりと抱きしめていた、私は走る馬車はかなり揺れるから、デクス様の膝の上に乗るのは危ないと思っていた、でもデクスさまはしっかりと私を抱きしめてくださった。これなら少しぐらい馬車が揺れても大丈夫そうだった、デクスさまの私への溺愛は五歳のあの馬車の事故から始まり、今ではもう私の日常の当たり前のことになっていた。

「きゃあ!? デクス様!! いきなり耳元で囁くのは反則です、驚いてデクス様の膝から落ちてしまいます」
「大丈夫だシャイン、君がどんなに馬車で暴れたとしても、俺には君を手放す気は全くない」

「だからといっていつもですが耳をかじったり、耳元でいきなり囁くのはおやめください。本当にくすぐったいのです、そういうことは馬車に乗っていない時にしてください」
「ああ、分かった。今日も俺の婚約者がこんなに可愛くて幸せだ!! はぁ~、俺は本当に他の男に君を見せたくない」

「デクス様も慣れてください、もうすぐ私が王太子妃になれば社交界にも頻繁に出るんです。そうなれば私を見る男性は大勢います、そうやって王太子妃に気に入られようとするのでしょうね」
「そんな不届き者は不敬罪で殺してしまおう、そんな王太子妃にすり寄ってくるような男は仕事でも使いものにならん」

 そう私たちが少々危険な話しをしているうちにフロンティア学園へ着いた、私はデクス様のエスコートで馬車から降りた。その途端に周囲の女生徒が騒めくのが分かった、それはデクス様があまりにも美しくカッコ良かったからのはずだ。ここで周囲の女生徒に向かって手でも降れば、それだけで女性からすれば立派な王子様なのだろうが、デクス様は周囲の女生徒を全く見もせず気にもしていなかった。

「ここがフロンティア学園ですか、桜が沢山咲いていてとても綺麗ですね」
「ああ、本当に桜の中にいるシャインは美しいな」

「デクス様も理想的な王子様に見えます、いいえデクス様は本当の王子様でしたね」
「俺はシャインだけの王子様だ、他の女性などどうだっていい、俺は君のものだシャイン」

「そして私はデクス様だけのものです、もう三年も経てば夫婦になれます。今から楽しみですね、デクス様」
「ああ、君を俺だけのものにするのが今から楽しみだ。ベッドから二度と出れないくらい、可愛がる予定だから覚悟しておいてくれ」

 私はデクス様からそう言われて成人するのが少しだけ怖くなった、性的関係が無い今だってデクス様は私を何かあるとベッドに誘って可愛がろうとするのだ。これで性的な関係を持ってしまったらどうなるだろうか、私はデクス様が理性的な男性であることを信じるしかなかった。だがデクス様は私限定で理性というものを無視するのが得意だった、国王陛下からじきじきにかなりしつこく止められていなければ、私はとっくにデクス様に抱かれていたはずだった。

「デクス様、入学式が始まります。講堂へ急ぎましょう、さぁ手を繋いで走りましょう」
「ああ、分かった。シャイン、そんなに急いで転んではいけないよ」

「大丈夫です、デクス様。私の右足はもう綺麗に治っています、だから全力で走れます」
「そんなに急ぐこともないだろう、俺はもっと桜が舞う中にいる美しいシャインの姿を見ていたい」

「デクス様は入学生代表でしたよね、それでは急がないと入学式の挨拶に間に合いません」
「俺がいなくても誰かが代わりに挨拶するだろう、だからシャインそんなに急ぐことはない」

 デクス様は本当に政治と私に関すること以外には興味がなかった、それは王太子としては正しいのかもしれないが普通の十二歳としては少し歪んでいた。それは王宮という特殊な環境で育ったからだろう、私はフロンティア学園に入学したことを切っ掛けに、デクス様に広い世界を知って貰いたかった。デクス様の世界は王宮と私の隣だけではないのだ、もっと大きく広い世界をデクス様は知っても良いはずだった。

「それでは入学生代表として述べる……」

 私とデクス様はきちんとフロンティア学園の入学式に間に合った、そして入学生の代表としてデクス様は皆に挨拶をしていた。私はそれをまるでデクス様の保護者になったような気分で見ていた、あんなに政治以外には興味が無かったデクス様がこんなにご立派に育たれた。主に私関係だが政治以外にも興味を持ちデクス様が育ったことに喜びを感じた、私は皆と一緒になってデクス様の挨拶に拍手をした。

「ふっ」

 そうしたらデクス様が私を見て笑顔で手を振った、私もデクス様に向かってにこやかに笑って手を振った。他にも多くの女生徒がデクス様に、見とれて夢中になって手を振った。私はデクス様は将来は王として国民を率いるのだから、皆に好かれるのは良いことだと思ってそれを見ていた。やがてデクス様は私の隣に戻ってきた、そして私の手をこっそりと握りしめてきた。私も立派な挨拶だったと思って、愛しいデクス様の手を優しく握り返した。

「良かったデクス様、私たちは同じ白金のクラスですね」
「入学テストの結果のクラス分けなのだから、俺とシャインが同じクラスなのは当然だろう」

「ええ、良かったです。入学テストは簡単なものでしたが、きちんと回答できているか不安でした」
「シャインの学力だってこの学校を超えている、だから俺たちは別にこのフロンティア学園に通わなくてもいいんだ」

「そうですね、フロンティア学園の授業があまりもつまらなかったら、その時は二人で一緒にここを辞めましょう」
「ああ、そうしよう。王宮にいる方が安全だし、俺のシャインに変な虫がつかなくてすむからな」

 そう言いながらクラス分けを見ていた私たちに、正確にはデクス様の背中にぶつかってきた女生徒がいた。桜のような色の髪と瞳を持ったその可愛らしい女性はデクス様に謝った、そうしてしばらく無言で何かを待っているようだった。私とデクス様はクラスが分かったことだし、校内の地図を見てそこに向かうことにした。

「ちょっ、ちょっと待ってください。デクス様!?」
「ん? 誰だお前は、俺に一体何の用だ?」

「ええと私はフルールと申します、私に何か言うことはございませんか?」
「いや、俺には何もない。行こう、シャイン。早く教室に行って、隣同士の席に座ろう」

「ええ!? デクス様!? 本当に私に何か言うことはありませんか、ほらっ桜が咲いているんですよ!!」
「いい加減にしつこいぞ、それから平民の入学を許しているからといって俺を気安く呼ぶな。デクス殿下と呼ぶべきだ、いくら何でも馴れ馴れしい!!」

 突然、デクス様に話しかけてきたフルールという女性は、当たり前だがあまりにも礼儀を欠いていたのでデクス様から怒られた。それにこのフロンティア学園が平民の入学を許しているからといって、婚約者がいる男性をそれも第一王子を、馴れ馴れしく愛称で呼ぶのはおかしかった。デクス様が言っていることが全て当たり前のことで、私が見ていた限りデクス様には何も悪いところはなかった。

 だから私はこれ以上デクス様の機嫌が悪くならないように、その腕に抱き着いてそれから二人で仲良く新しいクラスへと向かった。デクス様にぶつかって話しかけた女生徒、確かフルールという女性は呆然としてその場に立ち尽くしていた。私はデクス様は当たり前のことを言っているだけなのにと、それが不思議で少しの間だけ首を傾げたが、すぐにデクス様から話しかけられてそのお喋りに夢中になった。

「こっ、こんなのおかしいわ!! 私がこの世界のヒロインなのよ!!」
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