草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ

文字の大きさ
124 / 222

第百二十四話 力に目覚めることもない

しおりを挟む
 俺はファンからいろんなことを教えて貰った、今日は祝福されし者の力の使い方を教わっていた。これは暇があれば教えて貰っているのだが、なかなかに難しい問題だった。

「うーん、うーん、……難しいなぁ」
「もっと世界を大きく感じとるの、空気の中に溶け込んでいる力を、呼吸をするように取り込んでいくような感じ」

 俺は宿屋のベッドに寝っ転がって修行の真っ最中である、その修業とは世界の力を取り込むんだと言う何とも曖昧なものである。

「植物の生気は感じとれるんだが、空気の中に同じような力があるのかどうかが分からない」
「うーん、それはもう感覚的なものだから仕方がないね、ファンは生まれた時からドラゴンだったけど、レクスは人間だったんだもん」

 そう俺は生まれた時はごく平凡な赤ん坊だったはずだ、空気の中を流れている世界の力なんかと無縁でいたに違いない。

「なんか、今一つ危機感がなくてな」
「よっし、それじゃこうしよう」

 ファンが寝っ転がっている俺と手を繋いだ、その瞬間につないだ手から俺の魔力が失われていくことに気づいた。魔力枯渇寸前になって、ファンはようやく繋いだ俺の手を放した。

「れ、レクスって結構魔力が多いよね。吸い取って放出するだけで疲れた。いい、その状態で空気の中の力そのものを集めてみるの」
「……ああ、やっ……てみる……」

 ファンも魔力枯渇ではないが疲れたようで自分のベッドに横になってしまった、俺は言われたとおり空気の中から純粋な力を吸収しようと体の力を抜いて考える。

 最初にそれが出来たのはどこだった、あれは植物など食べるものがない場所だった。今もそうだ魔力が足りない、力をどうにか取り込まなくてはならない。

「うう、霧になってたら駄目だろ」

 近くに魔力を豊富に蓄えたファンという存在がいるので、俺の体が無意識に霧状にとけてファンを襲うところだった。それを、無理やり意識の力で引き戻す。

 ますます魔力が枯渇して俺は体がきつくなる、空気の中にある純粋な力。それを取り込めるはずなんだ、だって俺はこんなに力を欲しているんだ。

 力が欲しい、純粋に強い力を手にいれたい。その為に掴むんだ、大気の中にある膨大な力を自分のものにする。

 『本当にそんなことができるのか?』

 うるさい、これはうるさい俺の本音だ。フェリシアやファンは出来ると言ってくれたが俺には自信なんて微塵もない。そう自信がない、俺本人がそれができると信じていない。

 『本当はできなくてほっとしているんだ。これ以上化け物にはなりたくない』

 うるさい、うるさい、これも俺の声だ。草食系ヴァンパイアという時点で既に俺は化け物なのだ、だからもっと力を望んでなにが悪い。

 『どうしてそんなに力が欲しい、生きていく為の力は充分に持っているだろう』

 俺が力が欲しい理由は、……どうしてフェリシアの顔が頭に浮かぶんだろう。私に近くなってと言っていた奴、凄い力を持つのに幸せそうでなくて寂しそうな奴。

 『どうしても力がいるのかい?』

 いる、俺は欲しいんだ。純粋な力が欲しい、じゃないと俺があいつを守ってやれない。俺の身一つ守ることができないんだ。力が欲しい、純粋な力。世界に溢れている力を引き出したい。

 『それが本当なら、そうお前が力に手を差し出すだけでいい』

 純粋な力、世界を流れている力。大きな世界に接続する、その世界から好きなだけ力を引き出してつかう、できる、できるんだ。だって、それができなければ大切なあいつのことを守ってやれないんだ。

 『……………………』

 世界の力を手にいれる、そうだ簡単だった流れる水のように入ってくる。なんだ、こんなに簡単だったのか、でも大き過ぎる。今の俺の器では入りきらない、いや全部を入れる必要はないんだ。

「俺が力を使いたい時に、自由に出し入れすればいいんだから」

 失われていた魔力は完全に回復していた、いやそれ以上に魔力が上昇している。この力を使いたい、自分の力だと確かめたい。俺は寝ぼけまなこのファンに声をかけてから出かけることにする。

「ファン、俺はちょっと外に出てくる」
「ふぁ~あ、はいです~」

 俺は宿屋を出た瞬間に思った『姿を消して、俺を自由に飛ばせてくれ』、俺がそう心の中で言った瞬間に都の宿屋の前から俺の姿はかき消えた。

「すごい、……すごく綺麗な眺めだな」

 次の瞬間には俺は都を遥か遠くから見下ろす位置にいた、膨大な魔力を使ったはずだが、もう俺は世界の力の使いかたを覚えていた。失われた魔力はすぐに回復されて、俺は自分の行きたいところに行けるのが分かった。

「これが祝福されし者の力か」
「そうだよ、レクス」

 俺は突然現れた気配に今度は驚きはしなかった、彼女が近づいてきていたことが分かっていたからだ。

「フェリシア、お前また俺を覗いていたな」
「ふふふっ、だって好きな人のことじゃないか、ずっと見ていたいんだよ」

 俺もフェリシアも都の遥か上空から、次の瞬間に生い茂る森の美しい神殿のようなところに来ていた。

 フェリシアの力に引っ張られたのは分かったが、俺もついて行きたかったので抵抗せずに一緒についてきた。

「ああ、嬉しい。やっとレクスが私に近くなった、もうほとんど完成だ」
「…………言っておくがフェリシア、俺はまだここに住む気はないぞ」

「ええええ――!?」
「まだ仲間達とも旅の途中だ、預かっている子もいるし放っておけん」

 フェリシアは拗ねたような、悲しそうな顔をした。そんな顔をされても俺はまだここに来る気はないんだ。ファンのことをしっかり育てないといけないし、ディーレとの旅だってまだ途中だ。ミゼはまぁ、どこでも逞しく生きていくだろう。

「まだってことは、いつかは来てくれるんだ」
「その時に俺の気が変わってなかったらな」

「そんなの心配過ぎるよ」
「仕方ないだろう、これが俺なんだから!!」

 あと百年ほど外の世界をまわって、いろんなものを見てみたい。ファリシアのことは可愛いと思う、多分この感情は好きだという恋愛感情だ。

 一体いつの間にこんな感情を持つことになったのか、案外一目惚れだったのかもしれないなぁ。

「それじゃ、今日は帰る」
「ううぅぅ、また来てね」

 女性体をとっているフェリシアの髪をすくって頭を撫でてから、俺は瞬時に自分達が借りている宿屋に戻った。本来の力に目覚めたら、これくらいは何でもないことだった。

「この力と記憶はしばらく封印しておこう、……今の俺には大き過ぎる」

 俺は自分自身で仲間と自分の生命の危機、そしてフェリシアと会っている時以外には解けないように自分の力を封印してしまった。

 こんなに大きな力は俺には必要ないものだ、少なくとも今はそうだった。いや俺がそうしたのは危険から身を守る本能的なものからだった、そうしてそれをすぐに思い知った。

「ふにゃ、レクス。力の回復できたの?」
「ん? ああ、どうやらできているみたいだ…………だがその間の記憶がないん……だ……が……」

「れ、レクス!?」
「かはっ!! げほっ!?」

 ファンが不安そうな声を上げた瞬間、俺は体の中から何かがこみあげてきてそれを吐いた。それは俺自身の血だった、ぼたぼたッと俺の口から更に血が落ちていった。

「ディーレ、ディーレ!! 早く、来てぇ!!」
「ふ、ファン。む、無駄だ」

 ディーレとミゼは『貧民街スラム』の方に出かけたんだ、俺は祝福されし者への修行に危険はないと思っていたから、ディーレと離れても平気だと思っていた。

「そうだ、ディーレいないんだった!! 得意じゃないけど『大治癒グレイトヒール!!』『大治癒グレイトヒール!!』『大治癒グレイトヒール!!』……」
「ふ、ファン。もういい、もういい。…………無理をするな」

 俺の体は内側から破壊されるところだった、それをファンが『大治癒グレイトヒール』を何度も使って繋ぎとめてくれた。それでどうにか破壊された体は回復して、俺は横になっていたままだったが、なんとかファンに笑いかけた。

「もう大丈夫だ、ファン」
「レクスっ!? 全然、大丈夫じゃないよ」

 ファンは泣くほど俺の心配をしてくれた、俺はそんなファンの頭を一度撫でてから、自然と体の方が完全に回復するための眠りに入った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...