草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ

文字の大きさ
205 / 222

第二百五話 人になっても変わらない

しおりを挟む
「レクス様!! 何故、ドアの向こうからここに!? はっ、もしかして私の黒歴史から来たのですか!!」
「………………」

 見知らぬ男からいきなり様づけで呼ばれて俺は意味が分からずに戸惑った、その男は今俺が出てきたドアをガッと勢いよく開けて中身を確認していた。やがて何か納得したのかふうっと息を吐いて、そのドアを閉めてそこにもたれかかって額の汗をぬぐっていた。その間に俺は男を観察していたが、誰なんだこいつは?俺はミゼの心の中に入ったと思った、だが何か失敗したのだろうか。しばらくするとその男は俺の前に歩いてきて、礼儀正しく一礼してからハキハキと喋り出した。

「レクス様、幸いなことにあれぐらいならセーフでございます、私の封印した黒歴史では全くありません。まぁ、週末のルーチンワーク、酒飲みならば日常でございます。…………もっとヤバいのがバレなくて良かった、実は昔はコスプレしてたとか、週一でメイド喫茶に通ってたとか、他にはええと18禁の嫁たちと戯れてるところだとか、まだいろいろとあったような気がするけどええい忘れましょう!!」
「………………」

 俺はこの喋り方と意味が全く分からない会話の仕方に覚えがあり過ぎた、従魔であるミゼがこんなふうに意味の分からないことを喋ることが今までに沢山あったからだ。とするとこの俺よりも年上の男はミゼなのだろうか、どうして人間になっているんだ。あっ、大賢者ラウトが何か大切なことを言っていたような気がする。

 『この魔法は案内人として心の中の主人が出てくるはずだ、案内人を見つけたら彼が全て指示してくれる』

 確かこんなことを大賢者ラウトの影は言っていた、この魔法を動物に使ったものが今までにいなかったに違いない。動物はペットなど人間に飼われていると自分を人間だと思い込むことがあるという、ミゼもそれに近い状態なのではないのだろうか。普段から自分の姿についてなんで私は肉球ぷにぷになのかとか、かなり猫の姿に不満を抱いているようだったから、せめて心の中で人間の姿になっているのかもしれない。俺は一応は自分がたてた仮説を証明するため、確認の為にその年上の男に話しかけてみた。

「………………一応聞くが、お前はミゼなのか?」
「はい、私はミゼラーレことミゼでございます。ふっ、レクス様。人間である私の凛々しい中年としての貫禄に驚いてらっしゃいますね。実は私はレクス様よりもずっと年上でございます、ええ悲しいことに賢者になってしまうほど、清らかでしっかりとした大人なのでございますよ」

「………………賢者になれることのどこが悲しいんだ、頭が良いってことは素晴らしいことじゃないのか」
「ああ、レクス様。賢者にもいろいろとあるのですよ。とある世界ではある悲しいというか、寂しいというか、何と言えばいいんでしょうね。とにかく特殊な条件を満たせばです、三十歳を超えた男性は自動的に賢者になれるのですよ」

「………………よく分からんが、そのわけの分からないところがお前らしいな。人間になっても、ミゼはミゼだな」
「もっちろん私は私ですとも、こんなに愛らしくユーモアに溢れた中年男性はなかなかおりませんよ。ああ、この姿。なんだかしっくりとします、随分と昔に帰ってきた故郷にいるようです。さぁ、レクス様。それではヴァンパイアたちの本当の王国について探しましょう!!」

 自称ミゼという年上の男性の言葉に俺はハッとして我に返った、その通り俺はミゼの心の中に高位ヴァンパイアたちがいる本当の王国、それを探しにわざわざ来たのだった。なんだかいろいろと衝撃を受けたせいで頭がまわらなくなっていた、それにこの俺と同じか少し高い身長の男にどうにも慣れない。話してみると中身は残念なミゼだとすぐ分かったがそれだけに違和感が凄かった、見た目だけなら頼りがいのある貴族と言ってもとおるかもしれない。ただし、黙って笑って立っていれたらの話だ。

「ラウトは案内人が全て指示してくれると言っていたが……、ミゼ。お前でもヴァンパイアたちがいる本当の王国は分からないのか?」
「それがでございますね、いろいろと懐かしくてさまざまなドアを開けてみたのですが、レクス様が探している記憶にはまだ辿り着けておりません。ええと、決して久しぶりにあった二次元にいる嫁コレクションなどを堪能していたわけではございません。はい、私も必死に探しておりました。ええ、それはもう真剣に探していました!!」

 ああ、間違いないこいつは中身はミゼだ。おそらくは最初の目的をすっかり忘れて、自分の記憶を楽しむのに夢中になっていたに違いない。俺のこともちゃんと探していたのか怪しいものだ、しかしこれは少しばかり困ったことになった。ラウトの話が正しければ案内人のミゼさえ見つければ、すぐにヴァンパイアたちがいる本当の王国も分かるものだと思っていた。魔法をかけている対象が猫だから上手くいっていないのかもしれない、案内人が猫じゃなくて人間になっていることからしておかしかった。

「それじゃ、片っ端からドアを開けてみるか」
「ああ、それなのですがレクス様。どうもドアに法則があるようなのです、茶色や灰色のドアはあまり意味がない風景、赤やピンクのドアはちょっと恥ずかしいこと、それに黒いドア…………これは決して開けてはいけません。他にもいろんなドアがありますが、開けて調べるのならそれ以外のドアです。猫である私の記憶はどうも白いドア、このドアに限られているようなのです」

「そうか、それなら手分けして白いドアを開けてみよう」
「はい、分かりました。…………ええと、もう一度念をおしておきますが黒いドアにはくれぐれもご注意ください。何が中に入っているのか私でも分かりません、開けるとひどく恐ろしい目にあうかもしれませんよ」

「………………分かった、とにかく白いドアを開けていくぞ」
「レクス様!? その短い沈黙はなんなのです!? まさかもう黒いドアを開けてきたんじゃないですよね、決してそんなことはありませんよね!!」

 実はもう黒いドアは一度開けているのだが、少年がハーレムがどうとかずっと言っていただけで別に害は無かった。あれは気のせいだったのかもしれない、きっと違う色のドアだったのだろう。濃い目の灰色のドアだったのだ、そう俺は既にやってしまったことをなかったことにして、白いドアを開けてみることにした。ミゼという男はまだうるさく本当に黒いドアを開けていないか聞いてきたが、俺はそれよりもこの魔法がいつまで続くのかが心配だった。

「うるさい、いつまでここにいられるか分からん。さっさと白いドアを開けて記憶を探せ!!」
「はいっ!! でございます、………………黒いドアの中身なんて壊して、全てなかったことにできたらいいのに」

 それから俺たちは二人で手分けして、でもあまり離れすぎないようにしながら、白いドアを開けてまわることにした。少しだけ白いドアを開けて様子をみる、すると猫のミゼが宿屋でだらしなく寝ていたり、かと思うと迷宮で俺たちが戦っている間に見張りをしていたり、飯屋でファンから食事をもらって喜んでいたりしていた。確かに白いドアは猫のミゼに関係しているようだ、黒猫なのに何故白いドアなのかこのドアの色の法則はよく分からない。

「一体どこにあるんだ、お前の高位ヴァンパイアたちがいる本当の王国の記憶は!?」
「私がそれを聞いたのは従魔にされてからですからね、ローズ様への贈り物になる前にその御父上でしょうか。高位ヴァンパイアだった方が王国について話されていたことを聞いたのです、いずれはローズも連れていかなければならないとおっしゃっていましたね」

「そこまで覚えていて王国の場所は分からないのか?」
「うーん、それがどうも曖昧なのです。ほらっ、あまり興味のないことって聞き流してしまうでしょう。私にとってはこれから主人になる予定だったローズ様の性格のほうが大事だったわけで、ヴァンパイアたちの王国などはいずれ行くのかなーっとその程度の話題でした」

 ミゼはどこまでいっても、たとえ人間になったとしてもミゼである。いろんな知識を知っているわりに偶にしか役に立たないし、言っていることが分からないことが多すぎる。俺が心的に疲れて来た時だった、何気なく開けた白いドアから低い落ち着いた男性の声が聞こえてきた。

「………………ヴァンパイアの王に拝謁しなくてはならない、あの呪われたブラインド・アリー海にある岩の絶壁で囲まれた真の王国、そうアンペラトリスに我が娘ローズもいずれは行かなくてはならない」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...