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第二百十六話 自由に生きるのは止められない
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「もういい、役立たずごと死んでしまえ!!『抱かれよ煉獄の火炎!!』」
「『耐えぬきし火炎への結界!!』」
俺がいつまでもほとんど無傷でいることにしびれを切らしたのか、ウィルは仲間であるヴァンパイアたちを巻き込むような上級魔法を放った。即座に俺は反対の防御魔法を唱える、闘技場内を煉獄の炎が荒れ狂ったが俺の結界はそれに耐え抜いた。そうして炎がおさまって周囲を見れば、俺と同じように防御魔法を使ったのだろう、何人かの高位ヴァンパイアが無事にあちこちに立っていた。
ウィルに向かって露骨に非難の視線をあびせている者もいた、闘技場から客席にあがって戦いを放棄した者もいた。そんなヴァンパイアたちの行動も無理はない、仲間であるウィルから不意打ちのように攻撃されては堪らない。それで俺の周りの敵は減ったが、ウィルはまだ上級魔法を一度放っただけだ。
それに対して俺はフェリシアに会うために上級の精神魔法を使った反動がきていた、頭がくらくらして目がかすみ、口の中には喉からせりあがってきた血の味がしていた。だからヴァンパイアたちの警戒が緩んだ隙に、ディーレが作ってくれたポーションの四本目を飲み干した。
「どうした、何故戦わない!?そいつは王を狙っている敵だ、我らヴァンパイアのなり損ないに過ぎない男だ。一族に迎える価値もない屑だ、今こそヴァンパイアの誇りにかけてそいつと戦え!!」
そう言ってウィルは今度は自ら剣を手に俺を狙ってやってきた、その動きは他の高位ヴァンパイアたちとはっきりと違っていた。まずなによりもスピードが速すぎる、その時の俺と奴とは二十歩ほどの距離があったが、それを一瞬でつめて剣を振り下ろしてきた。俺はメイスで剣を受け流して反撃する、お返しに右から頭をぶん殴ってやろうとしたが、俺のメイスは再びウィルの剣で受け止められていた。
それにまだウィルだけが相手ではない、彼が攻撃に出たことでヴァンパイア側が有利と見たのか、他の高位ヴァンパイアたちも攻撃に参加してきた。今度は俺も無傷ではいられなかった、ミゼがいる心臓付近は絶対に守り抜いたが、ウィルの攻撃を防いでいる間に前後左右から攻撃を受けた。あちこちに浅くはない傷ができて血を失う、このままでは俺は勝てはしないだろう、今こそ世界の根源の力を使って戦う時だ。
「これでもくらえ!!『抱かれよ煉獄の氷塊!!』」
「ははっ、出来損ないの魔法など効くわけがな……、――――くっ!!『耐えぬきし氷塊への結界!!』」
俺は世界の根源の力を引き出して上級魔法の威力を更に上げた、大きく鋭い氷塊が幾つもできてヴァンパイアたちを凍り付かせようとした。それと同時に身体能力も一時的にはねあがるから、その力を利用して近くにいた高位ヴァンパイアの一人をメイスで殴り殺した。ウィルは最初は俺の魔法を馬鹿にしていたようだが、その高い威力をすぐ感じとり防御魔法で相殺して身を守った。ヴァンパイアたちが防御に徹している隙に、俺はすかさず五本目のポーションを飲むのも忘れない。常に回復のためにファンの血が入ったポーションを飲んでいないと、世界の根源である力は逆に俺の体を破壊してしまう。
ポーションが尽きる前に決着をつける必要がある、俺は一時的に増している身体能力で高位ヴァンパイア、その一人を今度は左手を霧化して素早く喰い殺した。霧になった俺の左手は相手の高位ヴァンパイアの体の中に侵入し、内側からそいつを丸ごと喰ってしまった。ポーション以外の回復方法だ、味は酷いものだが確実に俺の力は回復する。体全体を霧化すればミゼを危険にさらすことになるから、俺は部分的に霧となってまたこっちを攻撃をしようとしていた、そんな高位ヴァンパイアの一体を捕らえ喰った。
「あはははっ、共食いをするとはなんて恐ろしい化け物だ。ここで絶対に倒しておけなければならない、お前たちも降りてこい!!ヴァンパイアの出来損ないである化け物を殺せ!!必ず王の前で仕留めるんだ、そしてその死骸を王に献上してみせろ!!」
「随分と他のヴァンパイアをあてにするんだな、俺と一対一で戦うのは怖いのか。ウィル、お前は自分が強いと確信した相手としか戦わない、だから俺が世界の根源の力が使えるうちは他のヴァンパイアと戦わせるんだろう」
「うるさい、この出来損ないめ!!必ず貴様は殺す、そう王の目の前で殺して見せる!!そうすれば王はもう思い悩むこともない、永遠に僕たちの王であり続けるんだ!!」
「お喋りが多過ぎる、殺すというなら自分でやるんだな。お前の仲間たちはほとんど戦う気が無いようだ、ならば俺はお前と違って戦わない者は殺さない、彼らは賢くこれからも生き残っていくだろうな」
だんだんと攻撃を止めて俺から離れていく高位ヴァンパイアたち、俺はそんな彼らを追いかけて殺そうとは思わなかった、ウィルの行動は仲間すら犠牲にしている。だから、高位ヴァンパイアたちも彼に従う気を失くしてしまったのだろう。俺にとってはそれは好都合だった、フェリシアが大切にしているヴァンパイアたち、本当ならばなるべく殺してしまいたくはない。たとえ人間を襲うとしても、それはそういう生き物に生まれたからに過ぎない。
「そう僕だけの王、大事な僕だけの王だ。貴様なんかのものじゃない、王は昔のように僕を見て、僕だけを見てくれて、そう僕だけの王で永遠に生き続ける!!」
「お前の大事な王はもういない、お前が王とは認めずただの道具として見るようになってから、その瞬間に王としての役目は終わったんだ。フェリシアは誰のものでもない、もう彼女自身のものだ」
ウィルは自分勝手なことばかりを言っていた、そう言いながら俺への攻撃を緩めない。だから俺もメイスで剣を受け止めながら、それを力ずくで押し返して殴りかかる。そしてウィルの言っていることを同時に思いっきり否定してやる、これはフェリシアに言いたいことでもあった。ウィルだけではなく、フェリシアにこそ理解して欲しいことだった。
「貴様のような出来損ないに何ができる、このままでは王は消えてなくなる。だったら、永遠に生き続ける方法を探すのは当たり前だ、僕のものが、僕の家族がいなくなってしまうなんて許せない!!」
「親はいずれは子どもより先に死ぬ、その時が来ただけの話だ。世界に祝福されし者だって例外はない、お前の王はもういないんだ。親としての責任で雁字搦めに縛られている王としてではなく、残されている時間を最期まで個として自由に生きる者になるんだ!!」
俺は六本目のポーションを素早く飲み込んだ、ウィルと戦いながらそれを行うのは至難の業だった。とにかく剣の腕前だけは本物だ、長い年月で鍛えぬいたものなのだろう。俺がそんな何百年も、もしかしたら何千年も経験をつんだウィルと戦えている、それは無理矢理に世界の根源の力を引き出して、自分自身の能力を底上げしているからに過ぎない。
ポーションは残り四本だ、それまでに俺は説得しなければならない。当然だがウィルをではない、この子どものような高位ヴァンパイア、こいつと俺はそれこそ永遠に分かり合えないかもしれない。俺が説得しなくてはならないのはフェリシアだ、だから俺はウィルに話しかけているのと同時にフェリシアに訴えかけていた。
「王は最期までその責任を果たすべきだ、それが王としての務めであり義務なんだ!!だから王は僕と最期まで一緒にいる、そして永遠にこれからも僕といるんだ!!」
「いつまでも親から離れられない子どもは大人になれない、お前はだからそう思考が幼いままなんだ!!自分の最期を決めるのは自分自身だ、それを止める権利はお前にも他の誰にもない!!」
フェリシアはもうヴァンパイアたちの保護者として十分に尽くした、その最期の数年くらい彼女を自由にしてやることの何が悪い。そう彼女には久しぶりの自由を味わってもらいたい、世界に祝福されし者ではなく、ただのフェリシアとして生きている実感を思い出してもらいたいんだ。そして俺の願いが叶うのならば、その傍らにいさせてもらいたい。たとえ彼女がどんな最期を迎えようと、傍にいてとても幸せだったねと、君に出会えて本当に良かったと、そう心から言って見送りたいんだ。
「黙れ、黙れ、黙れ!!この卑怯者!!偶然に貴様はその力を手に入れただけだ、結局は祝福されし者になれなかった半端者だ!!僕の王をそんな力で奪っていくなんて許せない!!」
「『耐えぬきし火炎への結界!!』」
俺がいつまでもほとんど無傷でいることにしびれを切らしたのか、ウィルは仲間であるヴァンパイアたちを巻き込むような上級魔法を放った。即座に俺は反対の防御魔法を唱える、闘技場内を煉獄の炎が荒れ狂ったが俺の結界はそれに耐え抜いた。そうして炎がおさまって周囲を見れば、俺と同じように防御魔法を使ったのだろう、何人かの高位ヴァンパイアが無事にあちこちに立っていた。
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それに対して俺はフェリシアに会うために上級の精神魔法を使った反動がきていた、頭がくらくらして目がかすみ、口の中には喉からせりあがってきた血の味がしていた。だからヴァンパイアたちの警戒が緩んだ隙に、ディーレが作ってくれたポーションの四本目を飲み干した。
「どうした、何故戦わない!?そいつは王を狙っている敵だ、我らヴァンパイアのなり損ないに過ぎない男だ。一族に迎える価値もない屑だ、今こそヴァンパイアの誇りにかけてそいつと戦え!!」
そう言ってウィルは今度は自ら剣を手に俺を狙ってやってきた、その動きは他の高位ヴァンパイアたちとはっきりと違っていた。まずなによりもスピードが速すぎる、その時の俺と奴とは二十歩ほどの距離があったが、それを一瞬でつめて剣を振り下ろしてきた。俺はメイスで剣を受け流して反撃する、お返しに右から頭をぶん殴ってやろうとしたが、俺のメイスは再びウィルの剣で受け止められていた。
それにまだウィルだけが相手ではない、彼が攻撃に出たことでヴァンパイア側が有利と見たのか、他の高位ヴァンパイアたちも攻撃に参加してきた。今度は俺も無傷ではいられなかった、ミゼがいる心臓付近は絶対に守り抜いたが、ウィルの攻撃を防いでいる間に前後左右から攻撃を受けた。あちこちに浅くはない傷ができて血を失う、このままでは俺は勝てはしないだろう、今こそ世界の根源の力を使って戦う時だ。
「これでもくらえ!!『抱かれよ煉獄の氷塊!!』」
「ははっ、出来損ないの魔法など効くわけがな……、――――くっ!!『耐えぬきし氷塊への結界!!』」
俺は世界の根源の力を引き出して上級魔法の威力を更に上げた、大きく鋭い氷塊が幾つもできてヴァンパイアたちを凍り付かせようとした。それと同時に身体能力も一時的にはねあがるから、その力を利用して近くにいた高位ヴァンパイアの一人をメイスで殴り殺した。ウィルは最初は俺の魔法を馬鹿にしていたようだが、その高い威力をすぐ感じとり防御魔法で相殺して身を守った。ヴァンパイアたちが防御に徹している隙に、俺はすかさず五本目のポーションを飲むのも忘れない。常に回復のためにファンの血が入ったポーションを飲んでいないと、世界の根源である力は逆に俺の体を破壊してしまう。
ポーションが尽きる前に決着をつける必要がある、俺は一時的に増している身体能力で高位ヴァンパイア、その一人を今度は左手を霧化して素早く喰い殺した。霧になった俺の左手は相手の高位ヴァンパイアの体の中に侵入し、内側からそいつを丸ごと喰ってしまった。ポーション以外の回復方法だ、味は酷いものだが確実に俺の力は回復する。体全体を霧化すればミゼを危険にさらすことになるから、俺は部分的に霧となってまたこっちを攻撃をしようとしていた、そんな高位ヴァンパイアの一体を捕らえ喰った。
「あはははっ、共食いをするとはなんて恐ろしい化け物だ。ここで絶対に倒しておけなければならない、お前たちも降りてこい!!ヴァンパイアの出来損ないである化け物を殺せ!!必ず王の前で仕留めるんだ、そしてその死骸を王に献上してみせろ!!」
「随分と他のヴァンパイアをあてにするんだな、俺と一対一で戦うのは怖いのか。ウィル、お前は自分が強いと確信した相手としか戦わない、だから俺が世界の根源の力が使えるうちは他のヴァンパイアと戦わせるんだろう」
「うるさい、この出来損ないめ!!必ず貴様は殺す、そう王の目の前で殺して見せる!!そうすれば王はもう思い悩むこともない、永遠に僕たちの王であり続けるんだ!!」
「お喋りが多過ぎる、殺すというなら自分でやるんだな。お前の仲間たちはほとんど戦う気が無いようだ、ならば俺はお前と違って戦わない者は殺さない、彼らは賢くこれからも生き残っていくだろうな」
だんだんと攻撃を止めて俺から離れていく高位ヴァンパイアたち、俺はそんな彼らを追いかけて殺そうとは思わなかった、ウィルの行動は仲間すら犠牲にしている。だから、高位ヴァンパイアたちも彼に従う気を失くしてしまったのだろう。俺にとってはそれは好都合だった、フェリシアが大切にしているヴァンパイアたち、本当ならばなるべく殺してしまいたくはない。たとえ人間を襲うとしても、それはそういう生き物に生まれたからに過ぎない。
「そう僕だけの王、大事な僕だけの王だ。貴様なんかのものじゃない、王は昔のように僕を見て、僕だけを見てくれて、そう僕だけの王で永遠に生き続ける!!」
「お前の大事な王はもういない、お前が王とは認めずただの道具として見るようになってから、その瞬間に王としての役目は終わったんだ。フェリシアは誰のものでもない、もう彼女自身のものだ」
ウィルは自分勝手なことばかりを言っていた、そう言いながら俺への攻撃を緩めない。だから俺もメイスで剣を受け止めながら、それを力ずくで押し返して殴りかかる。そしてウィルの言っていることを同時に思いっきり否定してやる、これはフェリシアに言いたいことでもあった。ウィルだけではなく、フェリシアにこそ理解して欲しいことだった。
「貴様のような出来損ないに何ができる、このままでは王は消えてなくなる。だったら、永遠に生き続ける方法を探すのは当たり前だ、僕のものが、僕の家族がいなくなってしまうなんて許せない!!」
「親はいずれは子どもより先に死ぬ、その時が来ただけの話だ。世界に祝福されし者だって例外はない、お前の王はもういないんだ。親としての責任で雁字搦めに縛られている王としてではなく、残されている時間を最期まで個として自由に生きる者になるんだ!!」
俺は六本目のポーションを素早く飲み込んだ、ウィルと戦いながらそれを行うのは至難の業だった。とにかく剣の腕前だけは本物だ、長い年月で鍛えぬいたものなのだろう。俺がそんな何百年も、もしかしたら何千年も経験をつんだウィルと戦えている、それは無理矢理に世界の根源の力を引き出して、自分自身の能力を底上げしているからに過ぎない。
ポーションは残り四本だ、それまでに俺は説得しなければならない。当然だがウィルをではない、この子どものような高位ヴァンパイア、こいつと俺はそれこそ永遠に分かり合えないかもしれない。俺が説得しなくてはならないのはフェリシアだ、だから俺はウィルに話しかけているのと同時にフェリシアに訴えかけていた。
「王は最期までその責任を果たすべきだ、それが王としての務めであり義務なんだ!!だから王は僕と最期まで一緒にいる、そして永遠にこれからも僕といるんだ!!」
「いつまでも親から離れられない子どもは大人になれない、お前はだからそう思考が幼いままなんだ!!自分の最期を決めるのは自分自身だ、それを止める権利はお前にも他の誰にもない!!」
フェリシアはもうヴァンパイアたちの保護者として十分に尽くした、その最期の数年くらい彼女を自由にしてやることの何が悪い。そう彼女には久しぶりの自由を味わってもらいたい、世界に祝福されし者ではなく、ただのフェリシアとして生きている実感を思い出してもらいたいんだ。そして俺の願いが叶うのならば、その傍らにいさせてもらいたい。たとえ彼女がどんな最期を迎えようと、傍にいてとても幸せだったねと、君に出会えて本当に良かったと、そう心から言って見送りたいんだ。
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