アヤカシ学園 N o.2

白凪 琥珀

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EP7 絆

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冬馬くん達の襲撃から20分が経過。
私達E班はやっとボールを一つ見つけることに成功しました。
「ちょっと待ってくれ。少し休まない
 か?ロータス。」
「全く、だらしないですわね。仕方が
 ない。少し休みましょう。」
私達は木の根元に座って体を休めた。
「ところで清水さん。あなたの妖術は
 どんなものですの?妖力封じの腕輪を
 付けていますが…」
「妖術の操作が苦手で。この腕輪を付け
 てても体を水に液体化することは
 出来るけど…」
少し考えて、雲英さんは言った。
「もしこの訓練中に機会があれば、その
 腕輪一旦外してみませんか?」
思いがけない雲英さんの提案に私は驚いた。
「この訓練は私達の妖術や妖力を見る
 ものです。あなたには膨大な妖力が
 あるのに、妖術を隠していれば、
 大幅に評価が下がってしまいます。」
「でも、私の評価のために二人を危険な
 目に合わせられないよ…」
すると、一瞬沈黙ができた。そして雲英さんは私の頬をガッと掴み、私の目を見つめた。
「私達を危険な目に合わせる…?
 随分傲慢な考えですね。あなたの妖力
 で怪我をするようなヘマはしません。
 あまり私達を舐めないでください。」
今までの雲英さんとはうって変わり、その言葉には熱がこもっていた。
「あなたは私達のクラスの一員です。
 あなたの課題は全員の課題。あなたが
 困っているなら全員で考えればいい。
 クラスとはそうやって高まり、共に
 成長していくもの…
 違いますか?」
雲英さんの目は少し涙目だった。
「蓮、ちょっと落ち着け…」
天海くんが雲英さんの背中をさすった。
「清水…俺も同意見だ。同じクラスメイ
 トとして成長して行くべきだと思う。
 転校してまもないから無理な話かも
 しれないけど、もっと俺達のこと信用
 してほしい。俺達は仲間だろう。」
さっきまでの天海くんとのギャップにポカンとしていると、
「!?今のことは忘れてくれ…」
と慌てて訂正された。今のが天海くんの
素らしい。
「私もごめんなさい…つい熱くなり過ぎ
 てしまいました…」
「うぅん、私こそごめんなさい…
 あれ、涙が止まらないや…私水の妖怪
 なのに…」
気づいたら私はポロポロと大粒の涙を溢して泣いていた。
(本当にいい仲間を持ったな…)
「天海、さっきから私のこと『蓮』って
 呼んでいたでしょう?」
「な!?聞いてたのか…忘れろ…」
天海くんがプシューっと赤くなった。
すると、後ろからゴホンという咳払いが聞こえた。そこには間が悪そうな顔をして、剣竜先生が立っていた。
「お前ら…青春してるところ申し訳ない
 が、今訓練中だぞ…」
「あの、いつから聞いてたんですか…」
するとそっぽを向いて、小声で答えた。
「雲英が清水の腕輪を外す提案をした
 辺りから…」
「じゃあ剣竜はかなり最初から
 いたのか…」
さすがに天海くんも先生にあのスタンスはやらないらしい。
「俺の仕事はお前らの妨害だ。お前ら全
 員でかかってこい。
 って待て!!お前ら!!!」
E班全員すばやく逃走。これは、さっき前もって決めていた作戦だ。剣竜先生はかまいたちという妖怪で両手が鎌になる。普通に戦って勝てる相手じゃない。私達は木の影に隠れ、息を殺した。
「さっきから引っかかっていたんです。
 黒江先生の言葉に。」
黒江先生が始まるときに言っていた『このフィールドには18個の球がある。』『俺達もフィールドに入る。』という言葉のことだ。
「『フィールド』という言葉を二度も
 使っているんです。そして、この森の
 中には18個も球があるのに、私達が見
 つけたのは一個のみ…」
「それが何か関係しているの?」
私と天海くんがゴクリと息を呑む。
「ええ。恐らく球はこの森に全てある
 とは限らないんです。例えば先生方が
 持っているとか…」
「その通りだ、雲英。」
私達が声のした方を見ると、剣竜先生が木にぶら下がっていた。スタッと着地して私達を感心した。
「よく、ここまでたどり着いた。お前の
 言った通り俺達もボールを持ってる」
すると、ポケットからボールを3つ取り出してみせた。
「ここまで来れたお前らは評価に値する
 。だが、ボールを取れなきゃ意味が
 ない。俺からボールを取ってみろ。」
(剣竜先生からボールを取る…?そんな
 こと出来るわけがない…)
笑顔で手をポンと叩いて、先生が一つの提案をした。
「じゃあ、特別にハンデを出してやろう
 一つ、俺は両手一気に鎌を出さずに
 戦う。
 二つ、サシとか関係なく全員で
 かかってくること。
 三つ、俺の左ポケットに3つの球が
 入っている。一人でもそれを盗んで
 ゴールまで走れ。」
それだと、どうみても先生のハンデが大きすぎる。いくら教師と生徒とはいえ
三対一、しかもこれだけのハンデがあるなら先生に勝算は無いはず。だが、先生は自信満々な顔をしていた。
「よし、来い!」
天海くんと雲英さんが同時に動き出した。先生の正面から雲英さんが蜘蛛の糸を投げた。右手の鎌で糸をすばやく切り刻む。それと同時に後ろから天海くんが
先生の顔あたりを目がけて、回し蹴りをした。それも軽く避けてしまうと、先生は天海くんの足を掴み、雲英さんの方に投げた。
「イタタタ…」
「…あの、降りてくださる…?」
ちょうど雲英さんが天海くんの下敷きになっていた。
「お前ら、その程度か!こんなんじゃ
 俺に勝つなんて夢のまた夢だぞ。」
先生が腕を組んで私達を見下していた。
「あの、先生。一つお願いがあるん
 ですけど…」
「どうした?清水。」
「15分…でいいので作戦を練る時間を
 もらえませんか?」
(今のままチームワークも作戦もなしに
 戦っても勝てない。今一番の最善策
 だ。)
「よし、いいだろう。じゃあ、俺はここ
 で待ってるから。逃げんなよ。」
私達は森の奥に入っていった。

15分後、さっきのところに戻ると先生は
正座をして瞑想していた。
「やっと来たか…お前らが15分でどんな
 戦術をたてたか、評価させてもらう
 ぞ。」
すると、3人固まっていた私達はそれぞれに散った。先生の正面から私、右側から雲英さん、回り込んで後ろから天海くんが一気に切り込む。
「はっ、お前ら3人ともボディがガラ
 空きだぞ!」
先生が右手の鎌を横に切り裂く。すると、黙々と煙が出てきた。
「!?なるほど…天海の幻術か。」
その途端、サッと先生のポケットから球を三つ天海くんが取った。
「天海!そのままゴールまで走ってくだ
 さい!」
「させるか!!」
先生が天海くんの後を追うため、走りだす。すると、先生の前に蜘蛛の糸が張り巡らされた。
「こんな糸、すぐ切り刻む!」
先生が鎌を左手に出したそのとき、
「今よ!清水さん!」
雲英さんが叫んだ。その声に反応し、私は腕輪を勢いよく外した。その途端、ざーっと水が私達3人をのみこんだ
(まずい!このままじゃ、天海くんの方
 まで水が行っちゃう!)
私は手首を掴み、妖術のコントロールを試みた。
(二人の努力を無駄に出来ない!! 止まれ
 、止まれ、止まってぇぇぇ!!!!!!!!!)
すると、天海くんの方に進んでいた水の勢いが止まり、こちらにかえってきた。
そして、私の手に吸い込まれるように水は全てなくなった。
「清水さん…苦手克服出来ましたわね
 。」
雲英さんがゆっくりと起き上がりながら言った。
「ゲホッ、よくやった、二人とも。
 お前らの個性を活かした戦術じゃ
 ないか。」
先生はようやく私達を褒めてくれた。
あの15分間私達が話したことはむだじゃなかったんだ!

作戦会議の時間
「ボールを取る役は天海がやって
 ください。」
「なんでだ!ボールを取る役じゃない
 二人は足止め役で危険が大きい。
 そんな役を女子二人に任せられない」
雲英さんの提案に天海くんが反対した。きっと天海くんも雲英さんが心配なんだろう。
「あなたの妖術はそういったことに
 適しています。お願いします。
 天海にしか頼めないの…」
そういって距離を詰める雲英さんに天海くんは一瞬耐えたが、結局折れてボールを取る役は天海くんになった。
「まず、最初に全員散りましょう。先生
 は片手しか使わないので、隙を見て
 天海が幻を見せてください。」
「よし、きた!それで、俺がボールを
 取って逃げる。」
「あら、意外に物分かりがいいです
 わね。」
「う、うるせぇ!!」
二人のやりとりはまるで夫婦漫才を見ているようだった。
「そして、私と清水さんで足止めです。
 そのとき、私が合図をしたら腕輪を
 外してください。」
私は雲英さんの目を見つめて頷いた。
「そろそろ15分経つね。」
「二人とも絶対無理はするなよ。」
「ええ、もちろん。天海こそヘマしない
 でくださいね。」






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