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13.竜の国ドラゴレイン
しおりを挟む鬱蒼とした森を抜けた先にあるのは、崖がV字型の谷になっており、滝が流れ、広大な水が広がる峡谷だった。その光景は圧巻の美しさである。
そんな場所を越えていくと賑やかな街があり、街を見下ろすように荘厳な城が建っていた。白銀の髪を持つ竜の女王は、息子を見下ろして呆れたような声でその名を呼んだ。
「エリアス」
「なんでしょうか、母上」
不機嫌そうな声で応じる竜の王子。
エリアス・ドラゴ・アポロニア。それが青年の名だ。黒髪を頸で結えており、精悍な顔立ちである。気品を感じさせる反面、鍛え抜かれた肉体にどこか戦士のような趣もある。
「あれだけ気にかけていたというのに、こっそりと融通をするだけで会いに行っていないなんて」
妹であるリルローズが行方不明になったおり、彼女を保護していた少女。蒼玉の杖を持つ、茜色の髪の魔導師、クレア。
ヒト族以外を獣として見下すコルツ王国。その中で育って、彼女はエルフのことも、狼獣人の二人のことも、竜の自分達のことも見下すことはなかった。ただ、心に傷を負っているのか、表情が変わることがあまりない。その分、エルフの青年に助けられたとき、母の遺骨を抱えて安心したような顔をしたときの彼女はなんと可憐であったろうと思い返して口の端を上げた。
彼女のために、と以前離宮として使用していた場所を少し改装して、本をしこたま仕込んでおいた。それにプラスして、国立図書館の蔵書も増やした。
「母上には関係ないのでは」
「それは彼女が将来、義娘になるかどうかにもよりますね」
にっこりと笑って見せた母親に疲れたように溜息を吐いた。
少し贔屓にし過ぎたか、と考えるが直ぐに別に構わないかと考え直した。気に入った異性を贔屓にするのは、加減さえ間違えなければそう悪いことではない。離宮を与えられたのは彼女自身の願いでなく、彼女に必要なものを周囲が要求した結果である。自分が少しくらい環境を整えるくらいでは大して変わらないだろう。
「大したことをした覚えはありません」
スンと澄ました顔でそう答えた。
竜の国ドラゴレイン。そこに住む竜は比較的、本来の生態に近い。国家として機能しているがゆえに守られている安心感から来ているのではないかと推測されている。
竜はそもそも、嫉妬深く愛情深い。少し気にかけた程度では大したことではない。当の本人が「なんか気にかけられてるけどなんで?」と思っていたとしても、エリアスにしてみれば大したことがない話なのだ。
「ヒト族はある程度しっかりと関わらないと、愛情は伝わらないものよ」
呆れたようにそう言う女王に、そういうものなのか、と少しだけ驚いて彼は謁見の間を後にした。
戦場に立つクレアにまさかの一目惚れをした竜の王子は、少し考え込んで足を動かした。
その少女が現在くらす離宮だった場所へと。
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