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16.それは果たして見守りか
しおりを挟む「吹きかけるものが欲しい」
フラスコを振るクレアの前で、花が一輪萎れていた。今にも枯れそうである。虫除けの薬をつけすぎてこうなってしまった。
どことなくしょんぼりした声のその言葉を拾ったのは黒髪の青年であった。遠くから「見守っている」という体のよく目立つ美青年はそそくさと立ち去った。ちなみに、その姿をクレアは不思議だと思いながら見ている。
「……第二王子殿下は、なぜこうも頻繁にここに来るんだ?」
そんな呟きを拾うものはいなかった。
ところ変わって、王城には数名の技術者が集められていた。真顔の第二王子を見て恐縮している様子である。こんな場所にお詰められることなどない人間であるため、仕方がない。
「薬剤を均等に吹きかけるものを作ってもらいたい」
どんな無茶振りをされるのかと思っていた技術者たちがあっけに取られる。一番はじめに正気に戻った者が「吹きかけるもの、ですか」と問いかけると、彼は厳かに頷いた。詳しく聞いてみると、赤い髪の女神に捧げるとか言われて余計に混乱して頭を抱えた。
「エリアス、誤解を招く言い方は良くないよ」
その後ろから、白銀の髪を緩く右に束ねた美しい青年が現れた。性別を感じさせない美しさに一同は息を飲む。その中身がそんなに可愛いものでないと知っているエリアスは彼らをどこか不憫そうに見つめた。
「兄上、俺は特にそのような言い方をした覚えはありません」
「天然って怖いね」
不服だと眉に皺を寄せる弟を笑顔でそう断じる。
「それで、魔導師殿は何が欲しいと言っていたんだい?」
「花に薬を吹きかけるものですね」
最初からそう言っているのに、と思っているが、その大半は花を見つめる他称女神がいかに尊いかを語るものだったりするので言っていたとしても技術者たちの頭から飛んでいる。
「できるかい?」
「努力致します」
その数ヶ月後、彼はめちゃくちゃ真顔で完成したそれを持ってクレアの元を訪れて彼女を絶句させるのだが、それはまた別の話である。
「とりあえず、我が弟が付きまといをしているだなんて知られないようにしなければね」
第一王子である青年は小声でそう言いながら弟を横目で見た。彼にはこのままでは絶対にクレアにドン引きされるだろうという予想が容易にできた。
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