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30.伸びた髪と髪飾り
しおりを挟むカボチャを収穫するクレアの元に、レディアがやってきた。笑顔で手を振る彼に、無表情に手を振り返した。
「それ、スイートパンプキンだよね?この辺りではなかなか育たないはずだけれど」
「そうかな?管理はある程度必要だけれど、そこまで大変なことはないよ」
また育てているのが甘くなる野菜なのでレディアの中では、クレアは甘党説が出てきている。
少し長くなった髪が肌にくっついて鬱陶しいのか、耳にかけた。
「髪紐は持っていないのかい?」
「昨日、切れてしまっただけだよ。まとめるのも面倒だから切ろうかな」
「綺麗な髪なのにもったいない」
レディアが手を伸ばそうとすると咳払いの音が聞こえた。ソフィーがにっこりと笑いながら、「私もそう思います」と告げた。
「ご主人様の髪を整えるのはソフィーの楽しみです」
「だが、邪魔だしな」
それはともかく、と向き直ったクレアは「何か持ってきてくれたのかい?」とレディアに問いかける。
「あ、ああ。日用品と苗を少し。そろそろ夏植えの作物に興味はないかな」
「そうだね。見せてもらおうかな」
カボチャを片付けて、案内されるがまま商品のところへと向かう。その後ろでユウタはふむ、と考えるように二人の後ろ姿を見ていた。
エリアスには申し訳ないが、無表情ではあるが、優しく裏のない師と、若干お腹は黒い気配がするが穏やかで空気が読めるレディア。結構お似合いでは、と頷いた。
(まー、それ以前に先生恋愛に一切興味なさそうだけど)
だから自分がそんなことを考えるのも余計なお世話だな、と思いながらとうもろこしの収穫へと向かった。重そうな大きい籠を背負うのにも慣れた様子だ。単純に筋力も上がっているが、肉体強化の魔法も少しだけ利用している。日々の農業と狩でだいぶ魔法の扱いにも慣れた。
(この調子ならそろそろ、先生に次の段階に進ませてもらえるかもな)
鼻歌を歌いながら、彼はとうもろこしをカゴに入れていった。
苗を吟味するクレアの後ろで剣呑な目つきでレディアを見るソフィーを宥めながら、クロエはため息を吐いた。
ちょっとした出来事があっただけだろうが、としか思えないまま彼女もまた、クレアに目を向けた。クレアは全く気にしていない。気にしているのはむしろレディアの方だろう。どこか罪悪感を覚えているような表情ですらある。
「ご主人、決まったか?」
「そうだな」
レディアの部下に欲しいものを伝えて、数が欲しいものは後ほど配達という形で手続きをする。
手続きが終わると、レディアがクレアに髪紐とバレッタを手渡した。
「やっぱり切るのはもったいないと思う。よければ使って」
返事をする前に馬車に乗って走って行った。それを見送りながら、クレアは「変な人だな」と呟いた。
遠く離れた土地では、そろそろ帰ろうとしているエリアスがいた。大型魔物の討伐部位などを抱えている彼を見ながら、一人が声をかけた。
「それ、普通のお嬢さんに渡したら十中八九嫌われるっスよ」
その言葉にエリアスは驚いたように、振り向いた。
「あ、けどそっちとそっちのやつは魔法薬の素材で使うって聞いたことあるんで喜ばれるかもしれないっスね」
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