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57.消えた男
しおりを挟むアルケイドだけが見つかっていないという報告に「だろうなぁ」と思いながらクレアはなんでもないように薬草茶を飲んだ。リラックス効果のある香りが広がって、満足そうに頷く。
「クレア、探して根絶やしにするか?」
ドラゴレインの第二王子、エリアスに問われてクレアは「見つからないと思いますが」と言ってエリアスにも同じものを勧めた。それよりも積まれたマカロンに目がいくようでそれを見たクレアはそっと皿を彼に寄せる。とりあえず話の続きをしようと目線を逸らした。
「アルケイド・アルスターは正真正銘の天才です。隠れようと思ったなら簡単に見つけられる男ではないでしょう」
「人間離れした技量だとは聞いている」
「前回遭遇した時のことを指しているのであれば、あれは気分が乗っていませんでしたよ。そもそも、王家を見放していたのではと思います」
聖女からの祝福は確かにそこそこの効果を持つ。けれど、あの時からクレアも思ってはいたが、あまりにも雑なものだった。
(聖女という称号を剥奪されたのだろうな)
勇者パーティーなど組む前はある程度、優しい人だったとクレアも知っている。けれど、段々と変質していった。
苦労したのは知っている。けれど、だからといって聖女の称号を持つ人間が罪なく陥れられた民を周囲と同じように蔑んではいけなかったのではと思う。
しかし、それを決めるのは自分でないこともクレアは知っている。そもそも、あの国でクレアのような考え方が少ない。異端であった。馴染めなかったクレアがあの場所での悪だった。裏切りなのだろうか、と思ったがそれでもあの行為を許すのは同じ人間として間違っていると思う。
「やりたいなら止めはしませんが、こちらからどうこうというのは考えておりません」
クレアはアルケイドが嫌いだけれど、それでも生き残れたのは彼がいたからだという気持ちもある。目の前に現れたら殺し合うかもしれないが、現れない分にはどうでもよかった。それくらい、勇者達が強大な能力を持つ割に当てにならないと思われていたのであるがそこはあまり深く考えてはいない。
「クレアが気にしないのであれば構わないが……」
いつの間にかモリモリ食べていたようで皿に乗ったマカロンの量は減っていた。
そういえば、このマカロンという菓子は以前に召喚された聖女がレシピを残したのだったな、なんて関係ないことを思いながら「お気遣いありがとうございます」と頭を下げた。
「ぶっ殺してもらえばよかったのでは?」
「ソフィー」
「失礼しました」
見送りをすませたあと、ツンとした顔でクレアに新しいお茶を差し出した。
「正直なところ国が亡びた今、アルスターとはそこまで争いたくないんだよ。背後に私がいるなんて思って殺しに来られるのも嫌だし」
「私たちがお守りいたします!」
「ありがとう。けれど、君たちを危険に晒してまで喧嘩を売る相手じゃないし、その価値もない」
どこか必死なソフィーにクレアがそう言って苦笑する。そして、「君たちが大小関わらず怪我をする方が悲しい」と続けると、その頬に赤みが差した。
そして、その頭をヨシヨシと撫でると、嬉しそうにぴょこぴょこと耳が動いた。その夜、ソフィーがいないくなったことを確認してからクロエが「ん」と頭を差し出してきた。可愛いな、とクレアは少しだけ微笑んでその頭を撫でた。クレアは、こういう彼女たちだから、怪我をしてほしくないと願ってしまうのである。
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