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70.休息
しおりを挟むエリアスが事態の収束を命じられて走り回っている頃、クレアは彼の気配が消えたことにホッとしていた。いつもより緩い格好でカップを抱えている。気がつけば第二王子本人がじっと見てきている環境でダラけた格好もできなかったので少しリラックスしている様子である。
レディアから買った少しいい生地のワンピースを着て、マグカップからホットミルクを飲むクレアの姿は年齢よりも幼く見えた。
「膝を抱えるな!!見えたらどうする!!」
リヒトはそう言って顔を背けて膝掛けを渡す。「あ、居たんだ」という顔をしているが、彼はちゃんと来た時に挨拶をしている。その証拠に彼が手に持っているのはクレアの作った農業用魔法薬と、彼女の研究用の砂である。
「君が来ていたのを忘れていた」
「忘れるな。それに、来ていなくてもそういう格好が他人に見られるのは良くない。気を抜きすぎるな」
「う、うん。なんだか久しぶりの解放感だったからつい。すまない」
基本的にそこまで気にしていないのは、男が殆どの職場で女扱いされていなかったせいもあるだろう。
妹のいる兄らしく、やれ人前に出れるくらいの服装と格好はしていろだとか、できないくらい具合が悪いようであれば言えだとか言いながら、出しっぱなしだった本などを片付けていく。
「リヒト、片付けてくれているところ申し訳ないが、その辺の本は使うから置いておいてほしい」
「すまん。つい気になって……」
必要で出していた本まで片付けられそうだったのでついそう口に出すと、気まずそうな顔をした。
「姉上が片付けのできないタイプでな……。点在している書物や物品を見ると、こう……早く元の場所に戻したくなってしまうんだ」
小さな声で「取り返しがつかなくなる前に」と真顔で言うリヒトが少しおかしくてクレアはくすくすと笑った。
「ルナマリア様は片付けが苦手なんて意外だ。なんでもできそうなのに」
「完璧な人間なんていないだろう。それより、お前がそんなにゆっくりとしているのは珍しいな」
「うん。なんか最近第二王子殿下の監視が緩んだ」
「おい」
ちなみにその部下も一部撤収されている。アレーディアの部下は余程のことがない限りは関わってこない。監視と警護ではクレアの心の余裕が違った。厳しい戦いの経験があるクレアであるからその気配には気づいてしまう。けれど、わざと隙を見せてくれる今の警備状況はほっと息をつける時間があって気楽だ。要点を押さえているので、そう困った事態になってもいない。
「正直、なんであそこまで見られているのか分からず怖い」
「あー……。それはそう、普通だ」
相手が自分より大きい男性であるから、その感覚が普通だとリヒトは頷いた。この言動を見るに、告白さえしていないらしい。
(もしかしたら好感度を上げてから告白、とか思ってるのかもしれないが確実に逆効果だぞ)
おそらく一目惚れでそういった行為に繋がったのだろうと思われる男のことを思い出して、溜息を吐いた。
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