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82.彼女が知らずとも師は過保護

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 マーリンがクレアに構うのは、その才能故に自らに起こったことを思い出すから、という理由も大きい。大きな才能を持つからこそ、彼もまた迫害され、利用された過去を持つ。彼が僅かながらでも人らしい感性を持っているのは、彼が若かりし頃に出会った召喚されてきた勇者との出会いが大きいかもしれない。

 信じられないかもしれないが、捻くれ、傲慢になった彼をぶん殴った女性勇者は今のマーリンを見れば「ずいっぶん丸くなったな!!」と言うだろう。それくらい過去の彼は荒んでいた。

 ある程度大きな才能を持つ者は利用されてしまう。周囲の人間を巻き込んで好き勝手された自分と、それによって変わっていく周囲の目を知っているからこそマーリンはクレアという少女を早々に庇護下に置き、主に自身を守るための魔法を教え込んだ。
 過剰防衛になるくらいが丁度良いだろうと「これくらい魔導師なら普通でしょ」と言ってクレアに叩き込んだ。クレアがやりたいと言うから生活に関連する魔法の研究もした。
 クレアが自らの師を生活に根ざした魔導師だと思っているのはそういった事情もある。弟子に合わせてあげていただけで本来の彼はバリバリの戦闘系魔導師である。


「まぁ、弟子には情が移るものだよねぇ」


 頬杖をつきながら、弟子の後ろ姿を見るマーリンの表情は柔らかい。自分と重ねたものがあるからこそ、彼女の意思を無視するような行いを彼は許さない。実はすでにエリアスをボッコボコにしてきたマーリンは珍しくクレアの焼いたパイを口にして嬉しげに頷いた。


「やっぱり、クレアの料理が一番美味い」


 稀代の魔導師はどこか幸せそうに弟子の料理を堪能していた。


 そんなマーリンを見ながら、リヒトはそっと溜息を吐いた。こんな過保護物騒な師がいるからあれだけ鈍いのだろうかと思ってしまう。エリアスは若干やりすぎだったのでまぁ仕方ないかと思ってしまうが、それに関してはクレアの鈍さもそれを助長していた気はしている。


(怯えさせた時点で魔導師マーリン的には無しなのかもな)


 リヒト的には世話のかかる妹がもう一人増えたような心境である。シャルロッテはリヒトにクレアを薦めてくるが、リヒトにとってはそういうのじゃないなと思ってしまう。
 マーリンを見ていると、本当にただの弟子か、と疑ってしまうが二人並び立つと親子のような関係性にも見えた。

 自分や妹含めて色々と拾ってくるクレアを心配もしているが、その縁が彼女を助けている面もある。
 クレアは良いことを引き起こすが、同時に厄介事も引き起こしている。心配だ、と自覚なしに世話を焼く男は苦笑した。
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