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84.兄妹喧嘩と困惑師弟
しおりを挟むある意味ホイホイな魔導師は困惑していた。目の前に跪き、花を捧げてくる王子がいるからである。
見上げるアイスブルーの瞳が輝く様は、普通に見れば美しいはずが、後ろから妹にすごい目つきでガンガン蹴られている。意味がわからないクレアは後ろにいる師を助けを求めるように見た。
「我が師、これは何が起こっているのですか?」
「僕にわかるわけがないよね」
肩を竦めるマーリンにそうだよな、とばかりに頷いた。
エリアスという名の黒髪の王子様はそのまま固まっているし、リルローズは「いい加減帰りなさいよ、アスお兄様!!」とキレている。
「しつこいのよ、アスお兄様!!私のクレアに花を捧げようなんて生意気!!」
「お前のではないだろう。彼女の意思は彼女だけのものであるべきだ」
「アスお兄様が言っても、まっっっっったく説得力がありませんことよ!!?」
リルローズの言うことも最もである。彼はやらかしているから最近まで接近禁止を言い渡されて、めちゃくちゃ仕事を振られていた。リルローズは私の、なんて言いながらもクレアを慮って行動しているのでエリアスにそんなことを言われる謂れはないと憤慨していた。
なお、彼ら兄妹で実はクレアの好感度が一番高いのが、変装してちょこちょこそれとわからないように国益の絡んだ仕事を任せているアレーディアだというのは皮肉である。
彼の場合は身分が高いとは思われていても、王族だと思われずに行動しているのも大きい。お忍びがきちんとできるというのは少なくともトラブルを防ぐ意味合いではいいことである。
「クレア、花なんて受け取らなくっていいわ。調子にのるもの!」
「な!?それは狡いのではないか!?」
「やらかして王子は黙っていらっしゃいませ!!」
目の前で繰り広げられる兄妹喧嘩にどうしようかと思案していると、いつのまにか現れた猫獣人の青年は咳払いをする。どこか苛立ったような気配を漂わせながら、彼……ネーロはにっこりと笑った。いつもの親しみやすい話し方は彼方へと消え去っている。
「エリアス殿下、リルローズ殿下。アレーディア殿下より招集が掛かっております」
「兄上から?直ぐに行く」
「騒がせて悪かったわね。また会いにくるわ!」
「来なくていいよ。クレアは静かな方が好きだから。どうせだったら役に立つ本でも持ってきなよ」
「別に何も持参しなくていい」
そんなことを言っては山ほど持ってくるとクレアは少し慌てたように訂正を入れた。
なお、クレアがそう言ったのにも関わらず、翌日エリアスの名前で馬車いっぱいの書籍が届けられた。
「師!!」
「アイツ、マジで加減ってものを知らないね」
怒る弟子と呆れる師。
そして、城には「良いことをした!」とばかりの機嫌の良いエリアス(ただし真顔)と「コイツ、俺の居ない間にまた余計なことを」と頭を抱えるフェネックの青年がいた。
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