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90.勘違いブラザーズ
しおりを挟む事情を把握してカタカタと震える双子を可哀想なものを見るような目で見つめた。どうやら彼らは魔法ではなく、単純な暴力のもとで負かされたらしい。ユウタが彼らに目を向けるたびに怯えた顔を見せた。ある意味自分が育てたといえる男の子がここまで怯えられていると、複雑な心境にもなってしまう。
「で、先生!マーリンさんにとりあえず先生も殴りたいだろうからって言われたし、正直こんな奴らの血で手を汚すのも嫌だったからこの状態で捕まえてきたけどどうする?」
「どうすると言われても」
自分で出向いていたのなら身内に手を出されるのが不快で容赦なく命を奪うことがあったかもしれないけれど、すでにボコボコにされて連れてこられているので対応に困っていた。
「今後こんな要求ができないように魔法契約で縛っておくか。普通に不快だしな」
クレアが羊皮紙を取り出すと、ペンが特殊なインクでサラサラと勝手に文字を紡ぎ出す。自分が魔法契約を結んだ時以来のその光景にユウタはどこかワクワクとした表情を見せた。魔力が込められたインクで綴られた繊細な文字が、青く輝く様子はどこか神秘的で美しい。
「私たちはそんなものにサインなどせんぞ!!」
「そうだ、我々に何かあれば国が黙っていない」
「問題ないよ、君たちの国であれば我が師なら片手間でも制圧可能だ。私は……うん、ちょっと苦労すると思うけれど多分手伝ってくれる人たちがいるから君たちが思っているほどそんな言葉に力はないね」
何でもないようにそう言ったクレアの後ろでユウタも「魔法特化って言ってたけどそんなに強くなかったよ」とさらりと告げた。
「というか、魔法に頼り過ぎてるのかもしれないけどゼーン皇国だっけ?単純な物理攻撃に弱い人たち多いっぽくて、国はいるのも出るのも楽だった」
「貴様のような肉体強化に特化した野蛮な男が規格外なだけだろう!!」
「俺ができること、大抵先生とかマーリンさんもできるよ。つーか、多分この手のやつエリアスさんが得意だと思う」
「年季が違う」
否定など一切ない第二王子の単純な自己評価に彼らは再び怯えて震え出した。
そもそも、彼らがあんな手紙を送りつけてきたのは、彼らの中ではコルツ王国に金を払って自国の浄化のために呼び寄せた聖女。それと共にやってきた優秀な魔導師の女が、自分達に少なからず靡いているという痛い勘違いをしていたことに起因している。
クレアは単純に二人にドン引きし、迫ってくる二人に嫌悪感を持っていたので若干表情が変わっていただけである。
「こんな野蛮な者たちの側にいるよりも私たちの側の方が良いだろう!?」
「いや、私は普通に君たちが嫌いだが」
「「え?」」
「嫌いだが」
そもそも、ただ魔力が強く、魔導師の資格を得たにしては年若い女であったクレアによってくるゼーン皇国の魔法使いは多かった。老いも若きも結構な数の男から迫られたのはクレアにとっては非常に嫌な思い出である。そんな国の人間に好感なんてまるで持っていなかった。
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