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ミネルヴァの梟、助ける
第39話
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「残念ながら内容なんてあって無いような会話だ。というか注目度鰻登りって何だ?」
妹である成美さんに向かい、兄を軽く扱うことに思うところはあったが、本心に従った。
それよりも気になる事はその鰻登りだ。
「いやいやこれは何の誇張表現も無い事実だよ。実質私調べで、君が分室に入ってから分室にはいつも以上にいろんな仕事が入っているはずだよ」
「それが俺の株価と何の関係がある。そんなもの、たまたま時期が重なっただけだろ」
「だけど実際に、結崎流斗の名前は学園の中でもそれなりに有名になってるんだよ?」
「なんでまた?」
確かに最近廊下を歩いていると、以前依頼を受けた学生から挨拶はされる。
だがそもそも俺は一週間前まで、五千を越える学生の中でもやしっ子をやっていたボッチだ。それが一躍有名になるほどのシンデレラストーリーなど、俺の知る限り存在しない。
「分かりやすい例があれだね。君、この前留学生同士の喧嘩の仲裁したでしょ?」
「あぁ、あのイギリス人とフランス人か」
栄凌学園はひらけた学園をモットーに、積極的に留学生を受け入れている。三百人弱の様々な国の学生が、この栄凌学園で学び、生活をしている。そして同じ日本人同士でも喧嘩をしてしまうように、言語の壁が存在する異国人同士の喧嘩は、傍から見たらハラハラものである。
普段はカタコトながら日本語を話している連中が、喧嘩になった瞬間に流暢に母国語を話し始め、何を言っているのか分からないが、怒っているのだけはよく分かるのだ。ただでさえ事なかれ主義の日本人だ。そんな状況を見たら、誰もが「関わらないでおこう」と心に決めるだろう。
そして俺が遭遇したのも、そういう現場だった。
「英語とフランス語を駆使して場を収める、謎の一年生。それだけで話題性は十分だよ」
「あれはあいつらがカフェテリアでうるさくてむかついただけで、仲裁に入ったわけじゃないぞ。結局あいつら俺にキレ始めたし」
「だとしても、結果的に喧嘩は収まったんだから凄いよ。因みになんでキレられたの?」
「いや『てめぇらの母ちゃんは不倫に忙しくて、お前らにろくな躾が出来なかったんだな』って言ったらな」
「そりゃキレるよッ!? てかその言葉を英語とフランス語で言えるってどんだけ!? じゃあ英語とフランス語を駆使して場を収めた、って記事にまとめた私ダメじゃん!」
「まぁ英語とフランス語を駆使して吐いた暴言が、実際に場の空気を変えたんだから、あながち嘘でもない。どうせ大半は、俺が何を言ったのか分かっていないだろうからな」
「いや、でも……うーん。というか、女バスの時は何で無能を装っていたのさ! こっちは見る目が無いって自信なくしそうだったんだぞ!」
「んなもん知らんわ。期待に応える義理は無い。逆に期待を裏切るのは大好きだが」
「ひねくれすぎだよ! そう言えば、英語とフランス語以外に話せる言語って何かある?」
「ロシア、ドイツ、中国、イタリア、スペイン、ポルトガル、オランダくらいか」
「多っ! いやいくらなんでも盛りすぎでしょ!」
「以前ならこれにヒンディー語とアラビア語も入ったんだが、今は無理だろうな」
使用人口が上位だからと言うことで覚えさせられたが、結局その地域に仕事がなかったため、使う機会がなかった。言語は使わなければ、その分だけ使えなくなっていく物だ。
「ん? てことは分室の仕事で、留学生の依頼者が妙に多いのはそういうことなのか?」
仲裁の件以来、以前には少なかった留学生の依頼――それも外国語で書かれたもの――が増えていた。それはつまり言葉が伝わる人間がいることが分かり、今まで日本語で伝え難かった依頼を、母国語で投稿したと言うことか。
本来俺がやる案件でも無いのに、英語ならまだしも他の言語では、俺が翻訳しなければ意味が分からないので、はっきり言っていい迷惑だったところだ。
なるほど、バタフライ効果というわけはないが、あの時のことが影響して仕事が増えたのか。これは以前の生活通り、厄介ごとに首を突っ込まないように――
「あなたたちがやったんでしょッ!?」
……だから止めてくれよ、本当に。
「今の声はこっちかな?」
野次馬根性で、成美さんは怒鳴り声の発信源を探り始める。無視して早く帰りたいのだが、今から向かおうとしていた昇降口が現場であることが分かり、もう嫌になった。
角に身を隠して盗み見ると、昇降口の隅に三人の女子生徒がおり、そのうちの一人で栗色の髪をポニーテールにしている女子生徒が、何やらけたたましく声を張り上げていた。
どこからどう見ても厄介ごとである。
妹である成美さんに向かい、兄を軽く扱うことに思うところはあったが、本心に従った。
それよりも気になる事はその鰻登りだ。
「いやいやこれは何の誇張表現も無い事実だよ。実質私調べで、君が分室に入ってから分室にはいつも以上にいろんな仕事が入っているはずだよ」
「それが俺の株価と何の関係がある。そんなもの、たまたま時期が重なっただけだろ」
「だけど実際に、結崎流斗の名前は学園の中でもそれなりに有名になってるんだよ?」
「なんでまた?」
確かに最近廊下を歩いていると、以前依頼を受けた学生から挨拶はされる。
だがそもそも俺は一週間前まで、五千を越える学生の中でもやしっ子をやっていたボッチだ。それが一躍有名になるほどのシンデレラストーリーなど、俺の知る限り存在しない。
「分かりやすい例があれだね。君、この前留学生同士の喧嘩の仲裁したでしょ?」
「あぁ、あのイギリス人とフランス人か」
栄凌学園はひらけた学園をモットーに、積極的に留学生を受け入れている。三百人弱の様々な国の学生が、この栄凌学園で学び、生活をしている。そして同じ日本人同士でも喧嘩をしてしまうように、言語の壁が存在する異国人同士の喧嘩は、傍から見たらハラハラものである。
普段はカタコトながら日本語を話している連中が、喧嘩になった瞬間に流暢に母国語を話し始め、何を言っているのか分からないが、怒っているのだけはよく分かるのだ。ただでさえ事なかれ主義の日本人だ。そんな状況を見たら、誰もが「関わらないでおこう」と心に決めるだろう。
そして俺が遭遇したのも、そういう現場だった。
「英語とフランス語を駆使して場を収める、謎の一年生。それだけで話題性は十分だよ」
「あれはあいつらがカフェテリアでうるさくてむかついただけで、仲裁に入ったわけじゃないぞ。結局あいつら俺にキレ始めたし」
「だとしても、結果的に喧嘩は収まったんだから凄いよ。因みになんでキレられたの?」
「いや『てめぇらの母ちゃんは不倫に忙しくて、お前らにろくな躾が出来なかったんだな』って言ったらな」
「そりゃキレるよッ!? てかその言葉を英語とフランス語で言えるってどんだけ!? じゃあ英語とフランス語を駆使して場を収めた、って記事にまとめた私ダメじゃん!」
「まぁ英語とフランス語を駆使して吐いた暴言が、実際に場の空気を変えたんだから、あながち嘘でもない。どうせ大半は、俺が何を言ったのか分かっていないだろうからな」
「いや、でも……うーん。というか、女バスの時は何で無能を装っていたのさ! こっちは見る目が無いって自信なくしそうだったんだぞ!」
「んなもん知らんわ。期待に応える義理は無い。逆に期待を裏切るのは大好きだが」
「ひねくれすぎだよ! そう言えば、英語とフランス語以外に話せる言語って何かある?」
「ロシア、ドイツ、中国、イタリア、スペイン、ポルトガル、オランダくらいか」
「多っ! いやいくらなんでも盛りすぎでしょ!」
「以前ならこれにヒンディー語とアラビア語も入ったんだが、今は無理だろうな」
使用人口が上位だからと言うことで覚えさせられたが、結局その地域に仕事がなかったため、使う機会がなかった。言語は使わなければ、その分だけ使えなくなっていく物だ。
「ん? てことは分室の仕事で、留学生の依頼者が妙に多いのはそういうことなのか?」
仲裁の件以来、以前には少なかった留学生の依頼――それも外国語で書かれたもの――が増えていた。それはつまり言葉が伝わる人間がいることが分かり、今まで日本語で伝え難かった依頼を、母国語で投稿したと言うことか。
本来俺がやる案件でも無いのに、英語ならまだしも他の言語では、俺が翻訳しなければ意味が分からないので、はっきり言っていい迷惑だったところだ。
なるほど、バタフライ効果というわけはないが、あの時のことが影響して仕事が増えたのか。これは以前の生活通り、厄介ごとに首を突っ込まないように――
「あなたたちがやったんでしょッ!?」
……だから止めてくれよ、本当に。
「今の声はこっちかな?」
野次馬根性で、成美さんは怒鳴り声の発信源を探り始める。無視して早く帰りたいのだが、今から向かおうとしていた昇降口が現場であることが分かり、もう嫌になった。
角に身を隠して盗み見ると、昇降口の隅に三人の女子生徒がおり、そのうちの一人で栗色の髪をポニーテールにしている女子生徒が、何やらけたたましく声を張り上げていた。
どこからどう見ても厄介ごとである。
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