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第2話
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「おっす裕樹、昼飯食おうぜ!」
昼休みになり、友人の田島が意気揚々と隣の席に座る。
「田島、お前はそろそろ図書委員の仕事がある曜日を覚えろよ」
「あれ、今日だっけ?悪い悪い。お前の至福の時を邪魔する訳にはいかないな」
こいつは本当に悪いと思っているのか。いや思っていないだろう。
田島とは小学校からの付き合いだ。家も近く何かと一緒にいる事が多く、高校になってもその付き合いは変わっていない。基本的に悪いやつではない。だが面白いもの、もっと言えば面白い状況には目が無く、そういう意味で弱みを握らせたくない相手だ。
「お前の至福の時を邪魔しちゃ悪いもんな」
もっとも、俺は既に弱みを握られているが。
「おいおいそんな睨むなよ!冗談だろ!」
「俺そんなに睨んでたか?」
「あぁ、食事中のカワウソみたいに鬼気迫ってたぞ」
「は?何、カワウソって」
「いやあいつらマジ食事中スゲー顔怖いんだって!昨日テレビで見たんだけど……って、お~い最後まで話聞けよ!」
俺は話の途中で席を立ち、教室を出た。後ろではカワウソについてまだ熱弁を繰り広げる輩がいたがそんなもの無視だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お疲れ」
俺は図書室のカウンターに歩み寄りながら向かいにいる和泉に声をかける。肩口でそろえられた艶のある髪。くりっとした大きな目と長いまつげは愛嬌の塊だ。学年の中でも指折りの容姿を持ちつつ、ふんわりと柔らかい雰囲気を感じさせる。
この学校は女子はリボンかネクタイを選べる。和泉は赤いネクタイをつけていて、それが白のブラウスとマッチして、お人形のように端整な装いを感じさせる。
因みに俺は平静を装っているが、あくまでも装っているのであって、脳内はまったく冷静ではない。和泉と過ごせるこの時間。『今日こそは連絡先を聞くぞ!』と意気込む反面、心臓がはちきれそうにドクドク言っている。
「あ、高崎君。お疲れ様」
そんな俺の状況を知ってる訳もなく、和泉は大人しい挨拶を返してくる。
「もう誰か借りに来た?」
「まだ誰も来てないよ。いつも通り昼休みに来る人はいるけど、借りる人はあんまりいないみたい」
確かに片手で数えられる人数の姿は見えるが、そのどれもがある意味で立ち読み常習犯だった。
「現代人は家に帰ったら本は読まないのか(自分棚上げ)」
「ははは、逆に私は家に帰ったら本しか読まないけどね。あ、そう言えばこの間話した本持って来たよ」
「本?」
「ほらテストの前に話していた、今映画でやってる作品」
「あぁ、昔の演劇を映画化したやつか」
「正確には戯曲だね。あ、でも戯曲も演劇の脚本ていう位置づけだから大体同じかも」
手渡された本をパラパラとめくる。文庫本の大きさで厚さも文芸書などと比べれば格段に薄い。だがページには隙間なくぎっちりと文字が書かれている。
恥ずかしい話だが、俺は本というものに慣れ親しんでいない。もちろん漫画は好きだし、物語的なものは大好きだが、こう文字を読み取ってその情景を想像するとか、文脈を推測するなどの力は乏しい。現代文のテストに出てくる抜粋くらいがちょうどいい。
「えっと……大丈夫?」
「え?」
「なにか難しそうな顔していたけど」
「いや、まぁ、うん。ソンナコトナイデスヨ」
「一応映画を見てから原作を読んでみるっていう手もあるからね」
「それはなんか映画だけ見て満足しそうな気がして怖いな」
「でも映画も全部を映像化できているわけでは無いから、個人的には原作と映画の両方を見るのはおススメだよ」
「ん?てことは和泉はもう映画を見たのか?」
「最近はテスト勉強とかで忙しかったからまだ見てないよ。でもテストも終わったし、時間が出来たら見に行こうかと思ってるの」
「そうか。まぁとりあえず俺はこっちを読んでからでいいかな」
「楽しみ方は人それぞれだからね。良いと思った方法で楽しめば良いと思うよ」
にんまりとした笑顔で頷いてくる和泉の顔が可愛くて、俺はわざとらしく咳ばらいをして目線をそらすしかなかった。
昼休みになり、友人の田島が意気揚々と隣の席に座る。
「田島、お前はそろそろ図書委員の仕事がある曜日を覚えろよ」
「あれ、今日だっけ?悪い悪い。お前の至福の時を邪魔する訳にはいかないな」
こいつは本当に悪いと思っているのか。いや思っていないだろう。
田島とは小学校からの付き合いだ。家も近く何かと一緒にいる事が多く、高校になってもその付き合いは変わっていない。基本的に悪いやつではない。だが面白いもの、もっと言えば面白い状況には目が無く、そういう意味で弱みを握らせたくない相手だ。
「お前の至福の時を邪魔しちゃ悪いもんな」
もっとも、俺は既に弱みを握られているが。
「おいおいそんな睨むなよ!冗談だろ!」
「俺そんなに睨んでたか?」
「あぁ、食事中のカワウソみたいに鬼気迫ってたぞ」
「は?何、カワウソって」
「いやあいつらマジ食事中スゲー顔怖いんだって!昨日テレビで見たんだけど……って、お~い最後まで話聞けよ!」
俺は話の途中で席を立ち、教室を出た。後ろではカワウソについてまだ熱弁を繰り広げる輩がいたがそんなもの無視だ。
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「お疲れ」
俺は図書室のカウンターに歩み寄りながら向かいにいる和泉に声をかける。肩口でそろえられた艶のある髪。くりっとした大きな目と長いまつげは愛嬌の塊だ。学年の中でも指折りの容姿を持ちつつ、ふんわりと柔らかい雰囲気を感じさせる。
この学校は女子はリボンかネクタイを選べる。和泉は赤いネクタイをつけていて、それが白のブラウスとマッチして、お人形のように端整な装いを感じさせる。
因みに俺は平静を装っているが、あくまでも装っているのであって、脳内はまったく冷静ではない。和泉と過ごせるこの時間。『今日こそは連絡先を聞くぞ!』と意気込む反面、心臓がはちきれそうにドクドク言っている。
「あ、高崎君。お疲れ様」
そんな俺の状況を知ってる訳もなく、和泉は大人しい挨拶を返してくる。
「もう誰か借りに来た?」
「まだ誰も来てないよ。いつも通り昼休みに来る人はいるけど、借りる人はあんまりいないみたい」
確かに片手で数えられる人数の姿は見えるが、そのどれもがある意味で立ち読み常習犯だった。
「現代人は家に帰ったら本は読まないのか(自分棚上げ)」
「ははは、逆に私は家に帰ったら本しか読まないけどね。あ、そう言えばこの間話した本持って来たよ」
「本?」
「ほらテストの前に話していた、今映画でやってる作品」
「あぁ、昔の演劇を映画化したやつか」
「正確には戯曲だね。あ、でも戯曲も演劇の脚本ていう位置づけだから大体同じかも」
手渡された本をパラパラとめくる。文庫本の大きさで厚さも文芸書などと比べれば格段に薄い。だがページには隙間なくぎっちりと文字が書かれている。
恥ずかしい話だが、俺は本というものに慣れ親しんでいない。もちろん漫画は好きだし、物語的なものは大好きだが、こう文字を読み取ってその情景を想像するとか、文脈を推測するなどの力は乏しい。現代文のテストに出てくる抜粋くらいがちょうどいい。
「えっと……大丈夫?」
「え?」
「なにか難しそうな顔していたけど」
「いや、まぁ、うん。ソンナコトナイデスヨ」
「一応映画を見てから原作を読んでみるっていう手もあるからね」
「それはなんか映画だけ見て満足しそうな気がして怖いな」
「でも映画も全部を映像化できているわけでは無いから、個人的には原作と映画の両方を見るのはおススメだよ」
「ん?てことは和泉はもう映画を見たのか?」
「最近はテスト勉強とかで忙しかったからまだ見てないよ。でもテストも終わったし、時間が出来たら見に行こうかと思ってるの」
「そうか。まぁとりあえず俺はこっちを読んでからでいいかな」
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