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Karte.13 籠の中の可不可―夜明

籠の中の可不可―夜明 12

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 微かに、あの童謡が聞こえて来た。
「マズイ! あの子が目を醒ました」
 沼尾が血相を変えて、庫裏の方へと翻る。
「マズイ? 自傷行為にでも走るのか?」
 春名が訊くと、
「僕は何度も殺されそうになった」
「何だって! 中には動けない仁くんがいるんだぞ!」
 ――そんな大事なことを、なぜ最初に言っておかないんだ!
 庫裏に戻り、ボロボロの障子に手をかけた刹那――、
「うわあ――っ!」
 仁の声が中から届いた。
「仁くん――!」
 男女の力の差があるとはいえ、仁には不意打ちで、しかも足を怪我している。もし、相手が武器でも手にしていたら――。
 障子を開けると、ボサボサの髪をした少女が、仁の上に馬乗りになっているのが目に映った。手には武器も何も持っていないようだが、仁は上に乗る少女を押しのけようと必死の様子で……。だが、どこかおかしい。
「サクちゃん……っ。サクちゃん……!」
「違うって! 人違いだから――」
 どうやら、殺されそうになっている訳ではなく、無理やり抱きつかれているというか、押し倒されているというか……。
「先生! 見てないで何とかしてください!」
 仁が、逃げることも出来ない自分の足を恨むように、戻って来た春名を睨みつける。
「あ、ああ……」
 一体何が起こっているのやら……沼尾の話では『殺されかけた』ということだったのに、それは沼尾の勘違いだったのだろうか。展開はさっぱりわからないのだが、少女を興奮させたままにしておくのも、精神安定上良いわけがない。
「君――。さあ、落ち着いて。座って話をしよう――」
 春名はゆっくりと歩み寄り、仁を束縛する少女に声をかけた。
 少女の視線が、春名の方へと持ち上がる。ゆっくり、ゆっくり――。そして、乱れた髪の毛の合間から見える目が、春名の姿を認めると、
「ああああああああ――――っ!」
 と突然、奇声を発し、春名の方へと飛び掛かって来た。
「え――?」
「殺した! 殺した! サクちゃんを殺した! あああああああ――――っ!」
 狂気の形相で両腕を伸ばし、爪の伸びた指で首を絞める。
 無論、春名は男であり、その少女より力も強く、仁のように怪我もしていない。
 だが、少女の必死の強襲は、恐怖を覚えるほどの手加減のなさで、正気の沙汰ではあり得なかった。明らかに常軌を逸していた。だから、咄嗟に何も出来ず、無抵抗に押し倒されてしまったのだ。
「先生!」
 仁の声にハッとしたが、指はもう首に巻き付いていて――。絞殺される――そう思ったのだが、
「君は……『サクちゃん』が……誰かに殺されるのを……見たのか?」
 出て来たのは、その問いかけだった。
 少女の指が、刹那、緩む。
 目は、狂気の色よりも、戸惑いを多く含んでいた。
「誰かが……『サクちゃん』を殺したのか?」
 もう一度訊くと、指がゆっくりと、首から離れた。まるで、やっと、自分の話が通じる人間に出会えた、とでも言うように。


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