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XX Ⅲ
XX Ⅲ-7
しおりを挟む判っている……。〈XX〉なのだから、それがバレるような軽率な行動をしてはいけないのだ、ということなど――。アンドルゥに言われるまでもなく、判っている。
それでも……。
あの日、桂が言ったように、自分にもきっと司と同じように、そのことを――〈XX〉であることを知っても、変わらず守ってくれる学友が出来るのだと……いつかは、菁のように、アンドルゥのように、桂のように――何もかも知っても、共にいてくれる人が現れるのだと、そう思って過ごしてきたのだ。
「キスくらいで……」
アンドルゥとも、菁とも違うキスだった。
初めて、家族以外の誰かに、キスをされた。触れるだけのキスではなく……。
誰にもそのことは、話せなかった。アンドルゥにも、菁にも、桂にも……。
コンコン、とドアにノックが届いた。
階はベッドの上に突っ伏したまま、顔も上げずに、黙っていた。
アンドルゥでも、菁でも、桂でも、今は誰とも話したくはない。
だが――、
「フェリックス様、お食事の時間でございます」
もうそんな時間になっていたのだ。
「……。今、行く」
行かなければ、ロード・ウォリックが心配するだろう。
あの日もちょうど夕食時間の前だったのだ。――いや、学寮の夕食時間は、六時十五分と早いから、ここでの時間とは違っているが……。
階は他の学寮の生徒の元に、貸したノートを取りに来ていた。貸したが最後、何度催促しても中々返してくれないので、こうして、よその学寮まで取りに来ていたのだ。そして、取り返したところまでは良かったのだが、その後――。
「うわ――っ!」
「痛――っ!」
夕食の時間に遅れそうで走っていたため、当然のように、廊下の角で他の生徒にぶつかってしまった。何かの本で読んだ、ボーイ・ミーツ・ザ・ガールの世界のように。
そして、すぐに、ハッとした。制服を着用していないその人物が上級生であると解ったからでもあるし、皆が夕食へ向かったこの時間に、時間を気にするでもなく歩いているのは監督生に違いない。その証拠に、廊下には最早誰もおらず、下の階から微かな話し声が聞こえるだけである。
「見かけない顔だな? どこの学寮だ?」
腕をつかまれ、後ろの壁に押し付けられて、階は少し唇を噛みしめた。ここで問題を起こせば、また外泊許可を取り消される。
「I・J……です」
各学寮は、独立した建物になっており、それぞれの舎監のイニシャルで呼ばれているのだ。
「エリック・リオン・ソアーのところか。誰もいない学寮で何をしていた?」
冷たいほどの灰青色の瞳が、探るように突き刺さった。ごく薄い青の混ざった灰色の瞳は、プラチナ・ブロンドの髪と同じに、印象深い。
「貸していたノートを返してもらいに……」
「誰もいないのに?」
「机の上に置いてあるからと――」
「個人の部屋への立ち入りは禁止だ。――それとも、僕が許可を出していたか?」
――やはり、監督生なのだ。
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