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XX Ⅲ
XX Ⅲ-16
しおりを挟む突如現れた〈XX〉――それが、十六夜秀隆の撒いた餌ではないのか、ということは、アンドルゥにはすぐに疑ってかかれることであった。もちろん、階の側を離れずに、守り続ける手段もあっただろう。
だが逆に、アンドルゥが階の側を離れれば――イートンから連れ出し、桂と二人っきりにして離れれば、十六夜秀隆をおびき出すことも出来るかも知れない。――いや、十六夜秀隆はその積りだっただろう。第二次性徴を迎える年頃になった階が、イートンからも、アンドルゥからも離れる時を待っていたのだ。
「――ったく、もっと早く連絡を寄越せ。私が着いた時には、もう車に乗せられていたぞ。あと少しで入れ違いだ」
スウェーデンから戻ったアンドルゥを前に、菁は不機嫌をあらわに不満を零した。
イギリスのカントリー・サイドの厳しい冬の夜、暖炉の前のソファや椅子に、思い思いに腰掛ける中、四人はひと時の休息のように、寛いでいた。
「あれ以上早く、どうやって連絡しろと? あなたがグズグズしていたせいじゃないのか?」
アンドルゥの方も、負けてはいない。
「いい加減にしてください。二人して、私と階様を囮にしておいて」
桂にそう言われると、何も言えない。
「いいよ、桂。アンディは昔っから、そういうところがあったし」
「階――」
それが一番、堪える言葉であったに違いない。
「悪かった、階……。十六夜秀隆氏は――君のおじい様はとても頭の良い人物で、行動力もある。前以て話しておいたら、きっと気付かれてしまっただろう……。嫌な思いをさせた」
アンドルゥでさえ、そうしなければ、十六夜秀隆を欺くことが出来なかったのだ。そして、傷を負った十六夜秀隆は、必ず《イースター》へ逃げ込む。司が生まれた《イースター》ではなく、もう一つの《イースター》へ――。もちろん、そのアンドルゥの読みも、当たっていた。
ただ、十六夜秀隆も、そこまでの筋書きは読めていたかも知れない……。
「――アンディ」
階は、自分の座る椅子から、アンドルゥの座るソファの隣に掛け直し、
「検査をした方がいいんじゃないかな……、ぼく」
と、凭れるようにして、問いかけた。きっと、そのほうが顔を合わせずに済んで、言い易かったのだ。
「階……」
「その方がみんな安心できるし――」
「階、君が誰かのために検査を受ける必要はないんだ。辛い検査もあるし、嫌な思いもするかも知れない。十六歳――いや、十八歳くらいまで様子を見ても、充分、間に合う」
アンドルゥは不憫さを胸に抱くように、小さな階を腕に抱いた。子供のころにしかしたことがないような、すっぽりと包みこむ抱擁である。強く抱きしめるほどに、愛しさと不憫さが募っていく。
「ううん。ぼくも知りたい……。ぼくの体はこのままなのか、〈XX〉になるのか……」
「……。解った。週が明けても気が変わらなければ、《イースター》へ行こう」
「《イースター》?」
「病院に連れて行く訳にはいかないからな」
アンドルゥはそう言って、もう一度、階を抱きしめた。
出来れば、辛い思いはさせたくなかった。それでも、階がそう決めたのであれば、アンドルゥに言えることは何もない。言えることがあるとすれば、それは自分自身に――何故、階に辛い選択をさせる前に、アンドルゥ自身が決めてやらなかったのか、と……。
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