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番外編 オックスフォード編
オックスフォード 14
しおりを挟むアンドルゥの部屋に呼ばれ、エリックはその居心地の悪さに胃を痛めながら、仕方なくソファに腰を下ろした。
当然、訊かれることは、サロンでの階の不自然な態度と、パーティで階が一人でいた理由、だろう。
もちろん、そんなことを訊かれても、エリックには見たままのことしか話せないのだが……。
階が何故、ローレンスのキスや菁のキスに、あんな態度を取ってしまったのか――それをエリックが知っているはずもない。アールと階のキスの経緯も聞いていなかったのだから。
だが、予想に反して、アンドルゥの話しはそのことではなく――、少し遅れて、菁も部屋へと姿を見せ、話しは、あの誘拐未遂事件のことから始まった。
もちろん、エリックはホッとしていたのだが――。
やはり、見たままを話す、と言っても、友人をアンドルゥに売るような気がして、いい気分にはなり得ないのだから。
「あれから何か思い出したことはないか、エリック?」
アンドルゥに訊かれ、エリックは少し考えたが、もし何かを思い出していれば、すぐにアンドルゥに連絡を取っている。
あの時の男は、まだ二十代の半ばくらいの若いアジア人で、英語を使ってはいたものの、イギリスの事情にそう詳しいとは思えなかった。
それは、階から聞いた『カレッジ』の件でも知り得ることだが、イギリスで生まれ育った人間ではなく、イギリスで長く暮らしている訳でもない。
あの短い時間の中では、それくらいのことしか判らなかった。
着ていたコートも有り触れたもので、デザイナーズ・ブランドでもなく、指には指輪もなかったし、目につく傷も特徴も見当たらなかった。
「誰かに似ている――とかは、思わなかったか?」
「え?」
突然、聞かされたその言葉に、エリックはしばらく考えてみたが、
「俺はずっと後部座席にいたし……顔はチラッと見ただけで――。後をつけていた時も、離れていた上に、後ろ姿がほとんどだったから……」
結局、少し垣間見ただけのアジア人の顔など、どこかで見たことがあるだろう、と言われればそんな気もするし、誰を見ても似ているような気がしてしまうかも知れない。アンドルゥのように、多くの日本人と付き合いがあるのなら別だろうが、普段、日本人とあまり接する機会のないエリックには、難しい限りの問いかけだった。
だが、もし、誰かに似ているのだとしたら、それは誰なのだろうか。
アンドルゥがエリックに訊くくらいだから、エリックの知っている人間に違いない。そして、エリックの知っている日本人など限られている。――いや、似ている、というだけなら、日本人とは限らない。
もちろん、アンドルゥに訊いたとしても、アンドルゥは何も言わないだろう。名前を出せば、エリックには先入観が入ってしまうし、正しい判断が出来なくなってしまう。
誰に……。
誰に似ている、というのだろうか。
「思い当たらなければ、構わない。――で、階に何をしたんだ?」
突然、その言葉を持ち出され、エリックは不意を突かれて口ごもった。
「図星か」
「……クソっ」
いつも、やり方が汚いのだ。
だが――。
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