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XX外伝 ――継ぐべき者たち――

継ぐべき者たち 14

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 陽射しは眩し過ぎて目を傷めるから、ということで、慣れるまでは屋敷から出ず、窓越しの光だけを眺めていた。
 生活のサイクルは食事も勉強も睡眠も《イースター》とさほど変わりがあるわけでもなく――勉強の内容は違ったが、慣れるのにそう時間はかからなかった。もちろんそれは、櫂、という共に過ごしてくれる同じ年頃の話相手がいたからだろう。
 実際、櫂は頼りになったし、司が何故、草に櫂を付けたのか、考えるでもなく、よく解った。
「何で……里親が嫌なんだ?」
 ある日のこと、櫂を前に、草は訊いた。
 子供を作ることが出来ないために、養子を望む家庭があることも聞いていたし、櫂のような孤児たちが、新しい親を望むことも、ここで生活する内に覚えていたのだ。
「里親が嫌な訳じゃない。気が合わなかっただけのことだ」
 櫂は言った。
「じゃあ、ここは?」
 そう尋ねると、
「おまえか? 司様の身内なら興味がある。それが、柊様の落し種、となれば、尚更――。何か起こるかもしれないだろ?」
 ものすごく失礼なことを言われたような気がしたが、
「何も起こらないよ。ぼくは柊さまのことを誰にも言ったりしないんだから」
「お父さま――だろ?」
「……そんな風に呼んだことなんかないし、これからも呼ばない」
「まあ、好きにしろよ」
 本当にさっぱりしているというか、他人の中に踏み込んで来ないというか、それでいて無遠慮で不躾なのだから、彼が何に興味があるのかさえ、解らない。
 そんなこんなで月日は流れ、中学に入りたいのなら手続きをする、と、ここへ訪れた司に言われ、十六夜の姓を名乗らなくてはならないのなら、このまま家庭教師でいい、と草は言った。
 すると――。
「それなら、俺と草をアメリカに留学させてくれよ。向こうでなら十六夜の姓なんか誰も気にしないし、社会勉強にもなるし――。いいだろ?」
 櫂が言った。
「草がそれでいいのなら、手続きをしてやる」
 司のこの言葉も、いつも通りのものだった。
 ――この人はいつも、ぼくのしたいようにさせてくれる……。
「アメリカ……」
「勉強でも、遊びでも、何でもしてみるといい。階も口うるさいのがいなければ、一緒に行かせるんだが」
 また、いつもの言葉を呟いて、司は全ての手続きをしてくれた。
 そして、数ヵ月後、旅だったのだ、アメリカへ……。





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