不倫の偽装に使われて、どうして私が隣国に嫁ぐことに?

柏木

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 離縁ができるという目の前の男に対して、私は驚きをあらわにする。
 そもそも離縁というのは、結婚の白紙化や婚姻状態の解消である。国に登録された結婚関係の書類上の解除も同じ意味である。
 だが、それができるのは本人たちの同意でしか行えない。
 普通に考えれば無理だ。

「そんなこと他者にできるのですか?」

「いいえ、普通は無理です。しかし、一人だけできる方がおられます」

 そうですよね。できないって知ってました。できるならとっくにしていたんです。

「じゃあ国王様ですか?」

 例外があるとすれば国王の命令である。国王の命令に背いたり、無視や逆らったりすることはできないため、離婚しろと言われたら、自分たちの意思でということにされて、離縁が成立するのである。

「正解です」

だが、わざわざ国王がそんな命令を出すとは思えなかった。娘が誰と不倫しようが、私と離縁することとは何の関係もないからである。となると、彼は国王に話を通させることのできる立場の人間ということだ。

「あなた、どのようなお立場の方なのですか?」

 見た感じは高官だと思うが、底まで威厳も感じない。

「直接国王に仕えることを許された秘書補佐官にございます」

「それって、国王様を除いた政治文官のトップじゃない!」
 
 どおりで見たことがあると思った。私は納得の表情を浮かべる。
 見た目だけではわからないのも確かだ。そのへんの若い高官のお坊ちゃんにしか見えない。この歳で文官トップを任されるなど、異例の大出世だろうに、その態度を外にあまり出していない。いや、だからこそ、その強かさが上に押し上げたのかもしれなかった。


「はい、国王様には話を私の方からオブラートに包んでお伝えし、あなたには交換条件を飲んでいただこうと思います」

「といいますと?」

 一体どのような条件を出されるのかと、私はゴクリと喉を鳴らした。

「あなたには、第一王女・ブリジット様の代わりに王子のもとに嫁いでほしいのです」

「はい、えっ? それって」

「お考えのとおりです」

「でも、年齢が……。六歳も私が年上ですし」

 私が二十二歳で、王女は十六歳だ。

「なんとかします。相手はまだ容姿も知りません。けど、念の為変装道具は用意します」

 見た目が知られていたら、それは骨格から入れ替えないとダメな気がするけど、返答がいちいち軽い気がした。

「王子って噂だとかなり怖いんじゃ……」

「あなたならきっと大丈夫です」

 何のフォローにもなっていない返答が来た。
 そんなフォロー程度で、なぜこれほど強気に要求してくるのか理由はわかっている。
 ここで断れば、一族郎党みな処刑だからだ。
 断る選択肢など最初からなく、離縁する方法も、罪から逃れる方法もこれしかないのだ。

「わかりました」

 私は改めて補佐官の男を見ると、策謀を巡らせて目を光らせる貴族たちと同じだ。これは間違いない。不倫の事実を知っていて、自分に最初から狙いを定めていた。
 この家に最初からいたのも変である。
 確かに改めて考えてみれば私ほど適任はいない。

 公爵家に嫁ぐ令嬢として勉強や作法に励み、王女並みの教育をこの歳で受けていた。
 家のものがその手の人材を集めさせていたのだから、国がそれを監視して知っていてもおかしくない。
 王女と代わりになる人間は私以外にはそうそういない。王家は子宝に恵まれず、正式な王女は二人だけというのも仇になっている。第二王女はすでに結婚しているため、処女ではない。
 そうなると処女の代理がいない。この国の女性の結婚は早く、十五歳で結婚・処女喪失していないと生き遅れとなるほどだ。王女くらいの年の女性で処女というのがもう稀である。
 今から一ヶ月で準備する必要がなければ、孤児を教育するなりして用立てし、私でなくても良かったかもしれない。このタイミングではそれもかなわない。
 教育に長い時間を要することなどできないのだ。

 私は世にも珍しい二十歳を超えても処女の貴族子女であったらしい。


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