不倫の偽装に使われて、どうして私が隣国に嫁ぐことに?

柏木

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 さて、私は一族郎党の処刑を免れたわけだが、それは同時に元夫を助けたことにもなる。それに国王の態度や話を持ちかけてきた秘書補佐官の男にも腹が立ってしかたない。しかし、相手は軍事大国のため、変にボロを出すと、国もろとも自分も危険な立場に置かれかねない。

 あの王国よりも女性の人権など持ち合わせていないと聞く。噂だと、王族でも女性は家族内でも虐げられているそうだ。あとは、蛮族狩りと称して、女性の集落を襲い、尋問という名の拷問にかけて、いたぶって遊ぶ趣味があるんだとか。もちろん、ただの噂だから信じているわけではない。秘書補佐官の男もその噂は間違いだという。だが、そんな噂が立つくらいの野蛮さはあってもおかしくない。とはいえだ。何人もの女性と結婚しているらしく、他国の政治的な結婚相手にさほど興味があるわけでもないだろう。

 不倫される程度の女性の魅力しか持ち合わせていないと殿方には考えられているようだし、それなりに自由を謳歌できれば問題ないはずだ。名前を変えてブリジットとして生きていくことにはなるが、名前だけでも王女になれたのだとするなら、一度は家のために結婚した自分がそれ以上の成果となるはずだ。変装道具も荷物の中にあり、到着前に化粧で少し幼く見せるメイクをして、ドレスに着替えることになった。

 使用人は、王家が付けた側仕えの女性二人と護衛の男性騎士が一人だ。女性は平民上がりで教育は最低限である。それに騎士と言っても見習いだ。よするうに、侍女のサポートはまともに受けられず、見の危険を守る盾もない布陣である。入国前の処女確認は、膜を本格的に目視で確認するもので、かなり恥ずかしかった。

 軍事大国ソドルの中央に到着し、屋敷へと早速案内された。
 客間には、赤い髪の眼光が鋭い男が両手を組んで座っている。

「お前がそうか?」

「……はい、はじめまして」

「おれはスタルクだ」

「第一王女のブリジッドでございます」

「ふ~ん、綺麗な娘だ。じゃあここは好きに使ってくれ」

 そのまま、挨拶もほどほどに客間を出ていってしまった。
 
「あれ?」

 思っていたのと全然違った。
 むしろ、もはや何の価値も感じないこの処女を奪いに来るほど、複数の女性と結婚していて好色なのかと思っていたのだ。だが、まるで私には興味がない様子だ。「綺麗」というのもおべっかを使われたのだとわかる。

 ちょっと待って……。

 こういう扱いに身に覚えがあり、嫌な予感がした。

 その夜、初夜のために用意されたベッドに来ることもなく、王子のスタルクは屋敷に姿さえ見せなかった。
 さすがに初夜くらいは来るんじゃないかと寝ずに待っていたが、誰も来なかった。
 私の目は緊張と興奮で充血していた。

 今度こそはと、初夜のことも恥を忍んで話を聞いて勉強してきたにもかかわらず、不発に終わった。


 二度結婚して、処女というのは「身持ちが固い」といえば聞こえはよいが、それが「ただ相手にされないだけ」では大きく意味が異なる。周囲への印象も変わってくるだろう。
 結婚後に繰り返される『夫に相手にされない女』という肩書だけは欲しくなかった。かといって殿方を夜の相手に誘えるかというとそれも難しい。
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