孤影の城

誤魔化

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1章 救世のユミル

10話 見られてる…?

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「ーーもう、耐えらんないから言うけどさ。ユミル、今日もゼクトラ様から見られてなかった!?」

 翌日。

 今日はきちんと授業に出席したユミルは、授業間の昼休み中に食堂に赴いていた。

 すっかり固定のメンバーと化したエリンとダニエルと並び、先に三人分のテラス席を確保してから配膳の列へと並びに行く。

 この学園では食堂での飲食は無料。だが学年や身分、クラスの序列によって食べることができるメニューは決まっており、ユミルたちの今日の食事はシンプルな定食だった。しかし、シンプルなといっても、主菜、副菜、スープ、パンと、名門の魔法学園の矜持からか半端なものが提供されるわけでもなく、普通にめちゃくちゃ美味しい。つまり、もっと上の人たちはもっと凄いものを与えられており、王族やそれに準ずる身分の学生は、個室にシェフがついて、超高級レストランさながらのビュッフェなどを楽しんでいる様子も食堂ホールから見えるのだが、そうやって差をつけて生徒の向上心を煽るのも学園の意図なのだろうか。

 だが、この日替わり定食も文句のつけようもないほど美味しいので、ユミルたち三名はさして他と比べることもなく、昨日は舌鼓を打って賞賛の嵐だった。

 話は飛んだが、そんな定食用の列に並んでの待ち時間の間、もう気になってしょうがなかったと、肩の位置で綺麗に切り揃えられた赤毛を振り乱して、面白く顔を強張らせたエリンが尋ねてきた。

「…そうかな?」

 腕を組み、首を傾げて思い返す。

 今日も一日、朝の登校中に一度、授業移動の際に廊下で二度、件の美公子からの視線を感じた気がした。自分の思い違いかとも思っていたが、エリンに加えてダニエルまで、「俺も気になってた!」というふうに首を縦に振っているので、どうやら二人も同意見であったらしい。

「本当に昔の知り合いとかじゃないのか?」
「うーん、…あんなに存在感のある顔なら忘れないと思うんだけどなぁ」
「そりゃあそうよ!あのお顔は死ぬまで脳裏に焼き付くわ」

 だったら何故?と首を傾げるユミルの横で、ダニエルがゾッと顔を青くする。

「お前…、初日になにか、無礼なことでもやったんじゃないか?」

 危ない噂もあるミステリアスな男からの怒りを買ったのでは…と震える様子に、しかし、やはり思い当たる節がないユミルは首を横に振る。

「そんな覚えはないけど。無礼って例えば?」

 思い当たる節がないとは言え、ユミルとて今の貴族社会のあれこれに明るいというわけでもない。

「え?それはほら、…例えば、ぶつかって靴を踏んで土まみれにしたとか、突然水をぶっかけたとか、…本人の前でめっちゃ悪口言ってた…とか?」

 ダニエルは例えばと例をあげつつも、ユミルは入学早々にそんなことをするタイプでもなさそうだな?と斜め上を見た。

「してないなぁ」
「だよな…」

 ユミルは基本的にのほほんと笑っていて穏やかだが、世の中の酸いも甘いも上手く見定めて飲み込む強さも持っている。年齢に似合わず達観していて、しかし周囲に向ける配慮や思いやりは、相手に嫌われず懐に入る天性の愛想の良さも相まって相当なものだと、まだ知り合って3日程度だが、ダニエルもエリンも分析して高く評価していた。

「誰か別の知り合いにでも似てるんじゃないかと思ってるんだけど」
「そうだなぁー」
「まあ、その線が濃さそうね…」

 まだ気になってはいる様子がありつつも、定食列の順番が回ってきたエリンが、ユミルの意見に同意して不承不承ながら進んでいく。

 次いでユミルとダニエルも定食の盆を受け取って、席を確保しておいたテーブルに戻ってきた。

 本日のメニューは、パンとシチューと漬物に、メインディッシュは白身魚のトマト煮込み。魚のサイズはとても立派で、丸々一匹が贅沢に入っていた。魚の運搬は希少な氷属性に長けた魔導士を雇用する必要があるため、陸地が多いほとんどの国では高級食材にあたるのだが、流石は魔導士学園。日常から格の違いを出してくる。

「今日の定食も美味しそうだね」

 場の空気をリセットしようと、笑みを浮かべてユミルが食べ始める。

「げ。この漬物、酸っぱいやつじゃない?」

 匂いを嗅ぎ、ツンと鼻にくる独特な酸味特有のものを感じたエリンが眉を寄せる。

 どうやら酸っぱい系の漬物は苦手であるらしい。ユミルは漬物をひと切れ口に入れてみてうなずいた。

「うん。これ結構酸っぱいね」

 ユミルは別に、シャキシャキとした食感とアクセントのある味も嫌いではないため、やはり上手に漬けられているな、とうなずいているのだが、このタイプの漬物が苦手な子供は多いし、大人でも相入れないという人は結構いる。ちなみに昔の仲間の中ではオストロとニーアが嫌っていた。オストロは大人になってからは食べられるようになっていたが、ニーアの分は毎回シモンが代わりに食べていたのが良い思い出だ。

「う゛ーー、…ユミル食べない?」
「ふふ、いいよ。頂戴」

 小皿ごと受け取り、ずっと黙っているダニエルの方に目を向けると、こちらもウルウルとした子犬のような目で、視線がユミルと漬物の間を行ったり来たりとしていた。

「ダニエルもこれ苦手?」

 首を傾げて訊ねてみる。

「ユミルー…、俺のも食べてくれないか?」
「勿論いいよ。この味、苦手な人多いもんね」

 なんであれ、二人とも食べ物を残さない精神は素晴らしいなと思う。

 今の時代、魔導士の家系に生まれれば、たとえ下級魔導家であろうとも、それだけで豊かな暮らしと富が約束される。非魔法族の人間と比べ、資源の貴重さや価値に縛られない魔導士が、こうした考え方をするのはとても稀なことなのだ。


 三人で改めて食事を再開していると、周りからの目を伺うようにキョロキョロと周囲を確認したエリンが、声を潜めてユミルに忠告した。

「(ゼクトラ様からの視線が、本当の理由は人違いだったにしても、周りまでそう受け取るとは限らないわ。…特に、あのファンクラブ。大勢の生徒が加入してるんだから、どこにその目があるかもわからない。中には過激な人もいるかもしれないし、変に目をつけられるのも時間の問題だと私は思う…。自分の身を守れるのは、結局自分だけなんだから、気をつけてよね)」

 エリンの言葉からは、真剣にユミルのことを心配しているのが伝わってくる。

 横でブンブンと頷くダニエルにも笑って、ユミルも首肯を返した。


「(…ありがとう。俺も気をつけるよ)」

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