孤影の城

誤魔化

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2章 呪われた魔導士

15話 ゼクトラ先輩

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 嵐の翌日。

 今日も例の小屋に足を運んだユミルは、躊躇することなく扉をあけて入室した。

 急にユミルが入ってきたことで、ソファーに座っていたゼクトラが、ギョッと驚きに目を見開いて入り口を見つめる。


「……来たのか?」

 昨日正体がバレたことで、もうユミルがここに来ることはないと思っていたのか、ゼクトラは今日人間の姿だ。

 あっと自分の身体を見下ろし、狐の方がいいのかと考えている様子を理解して、ユミルは苦笑しながら首をかく。

「もしかして今まで、俺のこと気にして狐の姿でいたのかな?…モフモフも確かに好きだけど、俺は君と話してみたいってずっと思ってたんだ。この際だし、これからは楽な姿でいてよ」

 にっこり笑いかけてみると、やはりまだ驚いているのか、頷きながらも、肩を強張らせたゼクトラが信じられないというように問いかけてくる。

「…もう、来ないと思っていた」
「え、なんで?」

 ユミルは首を傾げる。

「は?…だって昨日まで騙してた…だろ」

 狐の姿と人の姿のゼクトラ学生が、まさかの同一人物だと数ヶ月気づかなかった件か。

 気づかなかったのはユミルの未熟さゆえだ。

「騙されたつもりはないよ。嘘をつかれたわけじゃないし、人には誰しも事情がある。俺だって君に話してないことくらいあるよ?」
「…そ、…そうか」

 肩透かしを食らったかのように息を吐き出したゼクトラに、ユミルがワザとらしく口を歪めて拗ねて見せる。

「それよりも、もう俺がここに来ないって思われてたことの方が悲しいな!名前は知らなかったけど、この数ヶ月、結構仲のいい友達になれたって思ってたのは、俺だけだったかぁ」

 あーあ、悲しい悲しい、まさか歓迎されてなかったのか、と窓辺の花に向かって大げさに嘆いて見せるユミルに、オロっと立ち上がったゼクトラが頭をかく。

「いや、来てほしくなかったとかじゃない。こんな呪われた男、誰でも気味悪がるだろうと思っていただけだ。昨日は本当に助かった。…それから、数年前に魔物に追われていた時のことも、感謝している」

 ”呪い”という単語に少し引っかかるが、やっとこちらをちゃんと見てくれたので、ユミルは満面の笑みを浮かべる。

「いや、元気になったようで何よりだよ」

 昨日の夜は、寮の就寝前の点呼に間に合わせるために焦り、疲れて数時間眠ったゼクトラが起きた瞬間、じゃあまた、と言って飛んで帰ったのだ。

 たしかに言葉が足りなかったか、と少々申し訳なく思う。

「えっと、念の為ちゃんと確認するけど、ずっとここにいた黒毛の狐と君が同一人物…ってことで、間違い無いんだよね?」

 昨日実際に、交互に姿が変化していたので、間違いの可能性は限りなくゼロに近いのだろうが、確認は大事だ。

「ああ。間違いない」

 肯定が返ってきて、ユミルはひとつ頷く。

「よし。じゃあ、ゼクトラ…様?が最初の方、学園でたまに俺のことを見てたのは、3年くらい前に森で会った相手だと気づいたから?」

 ユミルが呼び方に途中で迷いつつ、ダニエルの言葉を思い返して、一応高位貴族であるゼクトラに様をつけたことで、当のゼクトラがギョッと目を剥く。

「…様はいらない」

 ならばなんだろうか。ユミルは「えっ」と首を傾げる。

「なら、ゼクトラ先輩?」

 唖然としたゼクトラが、食い気味に否定する。

「ゼクトラでいい」

 先ほどユミルの口から友達だという宣言が出たばかりなのに、今さら様付けで呼ばれてはたまらない。

 ゼクトラは友達と呼べるような友達も他にいないので慣れないが、笑って「俺のこともユミルって呼んでね」と言ってきたユミルに頷き、今まで喋らなかった時間を埋めるように、いきなり慣れない名前の呼び捨て合いになった。

 ユミルのこの行動の速さは、エリンやダニエルの社交性に触発されたものである。

「それから、学園内で見ていたのがバレているとは思わなかった。理由はその通りだ。謝る」

 殊勝に首を垂れたゼクトラに、ユミルが慌てて顔を上げろと引っ張る。

「いや、理由がわかってスッキリしたよ。それにしても、会話に相手から返答が返ってくるって、こんなに嬉しいことなんだね」

 今まではゼクトラが狐の姿だったため、ずっとユミルが喋るだけの独り言状態だった。

 今だから言えるが、当然寂しいものは寂しい。

「ゼクトラが構わないなら、俺はこれからも毎日来るから、よろしく」

 ユミルが笑って差し出した手を、ゼクトラが驚いたように暫し見つめ、ぎゅっと握り返す。

 なんか今日一日、ゼクトラがずっと驚いた顔ばかりしている気がして面白い。最初、入学式の日に見た時は、随分と大人びた美形だなという印象だったが、いや、1年生でも彼は実際に二学年分年齢が上なのだが、こうして表情がコロコロと変わると、いっきに幼い印象になって可愛らしい。


「…やっぱり。この際だから、愛称でゼクって呼んでもいい?」

 出来心で、そう尋ねてみる。

 思った通り、彼はまた驚きに目を見開いてこちらを見た。
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