眠り姫はエリート王子に恋をする

一二三

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46.王子様は眠り姫に焦らされる

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 馴染みの店で夕食をとってから自宅に戻り、冬夜は前を歩く藤堂の背中を見つめ、玄関口で大きくため息をついた。
 
「藤堂」

 冬夜が呼びかければ、なに?とやさしい微笑みを浮かべながら藤堂が振り返る。
 手を差し伸べて冬夜の鞄を受け取ってくれ、それから額にやさしいキス。
 一緒に帰ってきたのに、おかえりのキスをもらうのは変な感じだ。
 腕をひっぱられるまま靴を脱ぎ、部屋へ入る。
 リモコンを使ってあちこちの照明やら暖房やらの電源を入れる藤堂をぼんやり見ながら、冬夜はリビングの手前で立ち尽くしていた。

 もう、この部屋とも今日でお別れだ。
 遅くなってしまったから今夜はこのまま泊めてもらい、明日荷物をまとめて自宅に戻ろう。
 随分長い間お世話になってしまった。
 朝から晩までずっと冬夜と一緒にいて、きっと気づまりな思いをしていただろうと思う。
 けれど藤堂が色々よくしてくれたおかげて、冬夜はとても快適な生活を送ることができた。
 
「藤堂、今までありがとう」
 お世話になりました、と、振り向いた藤堂に向かって深く頭を下げる。
「藤堂が助けてくれたおかげで、俺、なんとか乗り切ることができた。本当にありがとう」
 顔を上げてしまうと涙が零れそうだったので、頭を下げたままそう告げる。
 藤堂が歩み寄り、冬夜をぎゅっと腕の中に閉じ込めた。
 すり、と藤堂の胸に頬をすり寄せ、それからそっと顔を上げる。
「明日、帰るね。今日はこのまま泊めて?」
 ぎこちなかっただろうが、なんとか笑顔を作ることが出来たと思う。
 けれど藤堂は、冬夜の顔を見るなり顔を歪めて、ごつん、と額をぶつけてきた。
「帰るつもり?」
「……うん。だって、もう解決しただろ?」
 もう冬夜に嫌がらせを働く相手はいない。
 これ以上ここにいられる理由を、冬夜は持っていないのだ。

「解決したら、はいさようならで俺を置いて帰るの?ひどいな」
 藤堂が眉間に皴を寄せ、冬夜の頬を長い指で引っ張る。
 置いて帰るも何も、もともとここは藤堂の家なのだし……。
 何と返して良いのかわからず、結局もごもご口を動かしただけで黙ったままでいた。
「このままここにいればいい」
 そう言う藤堂に「いられる理由がない」と答えると、少しだけ男の表情が変わった。
 そうだ。
 いたくないわけじゃない。
 いられる理由がないんだ。
「理由なんて、いくらでもある」
「……例えば?」
 俺が、ここにいなきゃいけない理由をあげてみて?と、縋る様に目で訴えると、藤堂がフッと笑って冬夜の両頬に大きな手を添えた。
 そのままぐいっと顔を持ち上げられて、顔中あちこちにキスされる。
「藤堂、くすぐったい」
「俺と離れて暮らしたら、こんなこと毎日出来ないよ?」
 冬夜さん、キス好きでしょ?と言われて、赤くなる。
「満員電車苦手でしょ?朝、起きられないでしょ?」
 それは、今まで一人でなんとかやってきたし。目覚ましを早くかけて、電車も30分早いものに乗ればいいだけだ。
「冬夜さんちのあたり、物騒だろ。あまり治安がいいとはいえない。そんな所にこんなかわいい人、野放しにできないよ」
 いつ襲われるか、気が気じゃない!と、藤堂が冬夜をぎゅっと抱き締める。
「……それから?」
 まだあるか?と首を傾げると、ニヤリと男くさい笑みを見せる。
「毎日冬夜さんに触れないと、禁断症状が出て、会社で襲い掛かっちゃうかもしれません」
 瀬川さん、好きです。と耳元で囁かれ、最近プライベートでは聞かなかった自分の名字にぞくりと体を震わせる。
 そのまま藤堂の唇が冬夜のやわらかい耳を食み、唇を滑らせて首筋まで落ちていく。
 きゅっと皮膚のやわらかい所を強く吸われて、「やっ」と声が出た。
「跡、つけないで……」
 この前、まるで変な病気にかかったみたいなキスマークをあちこちにつけられて、本当に困ったのだ。
「嫌だ。今日こそ俺のものにする」
 そのまま膝裏に腕を差し込まれ、軽々と抱き上げられてしまった。
 縋りついたらいいのか、それとも突き放したらいいのか判断がつかないまま寝室に連れ込まれ、ベッド上にゆっくりと降ろされる。
 そのまま何度もチュッと音を立ててキスをされ、慎重な手つきでネクタイをするりと外された。
 藤堂はいつもそうだ。
 大切なものを扱うように、冬夜にやさしく触れてくれる。
 シャツのボタンを外す間、何度も何度も触れるだけのキスが落ちてくる。
 胸元をはだけられ、中に着ていたTシャツの下に藤堂の手が忍び込み、冬夜の小さな乳首をきゅっとつまむ。
 びくん、と体を揺らし、驚いた拍子に開いた唇の間に、藤堂の熱い舌が差し込まれて冬夜の舌を絡めとっていった。

 藤堂はキスが上手い。
 舌を甘やかされて、トロトロに溶けるぐらい熱を移されて、無意識に漏れる自分の悩ましい吐息が恥ずかしくて、スーツを着たままの藤堂の背中に腕を回す。
 ぎゅっと背中に爪を立てると、少しだけ手触りの違う部分があるのに気付いた。
 さっき石丸に茶器をぶつけられたところだ、と、はっとして身体を起こす。

「どうしたの?」
「藤堂、背中っ!背中どうなってるか見せて」

 濡れた所は、よってたかって鎌田と伊藤に拭かれていたのであの後すぐに乾いたが、茶器をぶつけられた背中がどうなっているのかは確認していない。
 上にのしかかっていた藤堂を強引に押しやって背中を向けさせると、引っぺがすように上着を剥ぎ取った。
 
「シャツも!シャツも脱いで!」
 せかすと、「強引だなぁ」と笑いながらネクタイを外し、シャツを脱いでくれる。
 石丸に突き飛ばされて肩を強打した時、藤堂が何故あんなにも執拗に怪我を見せろと言ったのか、ようやくその気持ちがわかった。
 藤堂が中に着ていたTシャツまで脱ぐと、広い背中が現れる。
 そっと指を這わせると、「くすぐったいって」と低く笑って、藤堂が背中を反らせた。

「なんとも、ない?」
「うん。なんともない。石丸だって、さすがに手加減したでしょ」
 大丈夫だよ、と言われてほっとする。
 そのまま広い背中にペタンと貼り付いて頬を寄せると、くすぐったかったのか、藤堂がはは、と笑った。
 回していた手を取られ、そのままくるんと向きを変えた藤堂に再び押し倒される。
「もういい?満足した?それとも、まだ我慢した方がいい?」
 色っぽく上目遣いで聞かれ、唇の端をペロリと舐められる。
「……我慢、しなくていい」
「それでは、遠慮なく」
 再び唇を塞がれて、「ん……」と鼻にかかった声が漏れる。
 こんなにも冬夜の身も心もグズグズに蕩けさせるキスはきっと、藤堂にしかできない。
 舌を絡めているだけなのに、吸いついて引き寄せられるだけなのに、どうしてこんなにも体が疼いて仕方ないのか。
 じん、としびれるような何かが、熾火のように体の中心を焦がし続ける。
 
 案外器用な手が冬夜のベルトにかかり、カチャカチャと音を立ててそれを外して引き抜いた。
 それからスラックスのボタンを緩められ、大きな手が遠慮なく中をまさぐってくる。

 ……待って。
 半勃ちになったそこを布地ごしに握られた瞬間、冬夜はあることを思い出した。

 俺、風呂はいってないじゃん!

 冬夜は藤堂を突き飛ばし、再び、勢いよく体を起こした。
「こら。今度はなに?」
 あきれる藤堂を置いて体の下から抜け出そうとすると、ダン、と顔の横に腕が降ってきて、拘束される。
「逃亡の理由を述べなさい」
 じろり、と睨まれて体を縮めるが、そんなことに怯んでいる場合ではない。
「あの……俺……」
「なに?」
「風呂……お風呂、入ってから……」

 冬夜のその声に、藤堂が一気に脱力してがっくり首を落とす。
 わかってもらえたかと、ベッドの上を這うようにして移動すると、またもや藤堂の腕がそれを邪魔した。
「冬夜さん」
「はい……」
「俺も風呂に入ってませんから、大丈夫」

 全然それ大丈夫じゃないから!という冬夜の叫びは、藤堂の唇に吸い込まれて消えてしまった。
 
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