シークレット・ミッション

一二三

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 北条と離れたくない。
 けれど、自らを慰める姿なんて誰かに見られたいはずはなく、相手が北条ならなおさらそう思う。
 そんな姿を見せて今よりさらに距離を置かれるぐらいなら、押し寄せる疼きを、歯を食いしばって耐えている方がまだマシのように思えた。

「健吾、おいで」

 いつの間に側まで来たのか、優しく声をかけられたにも関わらず、健吾の体は驚きでびくりと揺れた。
 北条はそれを知ってか知らずか、そっと健吾の肩に手をかけ、体を上に向かせようとする。
 今は触って欲しくない。
 今、北条に触れられたら、体の解放を求めて何を口走るかわからない。
 いやいやと首を横に振ったが、北条はそれにはかまわず、強引に体の下に手を差し入れて健吾を仰向かせた。

「や…だっ……」
 濡れそぼったスラックスを見られたくなくて体を丸めると、そのまま抱え上げられ、有無を言わさずバスルームへと連れていかれる。
 北条は随分とハイクラスの部屋を手配していたらしく、連れていかれたバスルームはかなりの広さがある上に、体を洗うためのフロア部分まであった。
 浴室に入ると、北条はシャワーをかけ流していたフロア部分へ健吾を下ろす。
 シャツとスラックスを着たままの健吾は頭から湯をかぶり、あっという間にずぶ濡れになった。
 寒くはなかったが、肌に張りつく衣服が気持ち悪い。
「服は、後で着替えを持ってきてもらうから」
 北条の体も、健吾同様シャツから水が滴るほどずぶ濡れになっている。
 けれど北条はそれにはかまうことなく浴室に膝をつき、健吾のスラックスのベルトに手をかけた。
「や……っ!蒼…馬っ!」
 北条の手を掴んで必死に阻止しようとするが、難なく躱されてしまう。
「腰が立たないだろ。自分じゃ脱げないぞ」
 健吾の手を軽く押さえると、手早くベルトを抜いて濡れて張りつくスラックスの前を開ける。
 下着ごしに形を露わにしたペニスが目の前にさらされ、それが恥ずかしくて顔を背けると、北条はそんな健吾を気遣うように静かに側を離れた。

「自分で出せるか?」
 聞かれた言葉に、必死に頷く。
「何かあったら呼べ」
 そう言うと、北条は浴室のドアを閉めて出ていった。

 今からここでする事を知られていることがみじめで、死ぬほど恥ずかしかった。
 疑う事もせず催淫剤を飲み、こんな醜態をさらす健吾を、北条は一体どう思っただろう。
 同性から何度も性暴力にさらされそうになるのは、健吾にも非があるからではないのか。
 そんな風に思われていても仕方がないと思う。
 ろくな抵抗もできずに中野にいいようにされる健吾を見て、北条はきっと軽蔑しただろう。
 そう思うと、自分が情けなくて悔しくて涙が溢れた。

 いつまでもここでこうしているわけにはいかない。 
 熱いシャワーを顔にあてがい涙を流すと、健吾は体を起こし、バスタブにもたれ掛かるように座りなおした。
 とにかくこの疼きを止めなければ、ここから出ることもかなわない。
 震える指で濡れた下着をずらすと、張り詰めたペニスが飛び出してきた。
 痛い程に反り返って充血しきったペニスを手のひらで包むと、途端に襲い掛かる快感に呻き声が漏れる。
 幸いにも、あちこちに叩きつけられるシャワーの音で、健吾の荒い息遣いと呻き声はかき消されていく。
 北条が湯を流したままにしていったのは、声や気配が外に漏れないよう配慮したためだったのだと気付いて、健吾は涙と一緒に渇いた笑いをこぼした。

 すぐに得られると思っていた解放の瞬間は、極限まで我慢していたせいか、なかなか訪れなかった。
 本能に従い必死に擦りたてたが、先走りが溢れるばかりでなかなか達することが出来ない。
 求める瞬間をすんでの所で逃してしまうことに焦れ、解放が得られない苦しさに、冷や汗をびっしょりとかいていた。

 イきたい。

 それしか考えられず、健吾は動かない体をなんとかバスタブの淵に乗り上げさせると、濡れて張り付く下着とスラックスを膝まで引きずり下ろした。
 むき出しになった脚の間に手を差し込み、睾丸の後ろにあるそこを荒々しく指で探ると、その部分が物欲しそうにヒクヒクと蠢き出す。
 潤滑剤の代わりにになるようなものを探したが、役に立ちそうなものはすべて、腰の立たない今の健吾には届かない高い位置に置かれていた。
 仕方なく、探っていた指先をそのまま固く閉じた場所に突き入れる。
 爪の先が入口に擦れて鋭い痛みが走ったが、健吾は躊躇うことなくそのまま中へと差し込んだ。

 体に浴びせられる温かい湯が、ほんのわずかに体内への異物の侵入を手伝ってくれる。
 腰を突き出すようにして強引に指を潜り込ませると、強い痛みに身体が固く強張った。
 唇を噛んで痛みを押し殺し、中を探る様に指を動かす。
 ひどく痛むのに、健吾のペニスは衰えるどころかますます張りつめるばかりで、先端からはだらだらと先走りが溢れ出ていた。
 何度も指を出し入れして求める場所を探るうちに、ようやく指の腹がかすかなふくらみに触れた。
「……んっ…」
 みつけたその場所を腹側へなすりつけるように指の腹で押すと、解放を待ち望んでいた屹立が歓喜に震えるのがわかった。
 もう少し、と、健吾はその場所を指で強く押しつぶしながら、痛い程反りあがったペニスに手を伸ばし、指で作った輪でくびれの部分を擦り上げる。
「あ……ああ……」
 ばくばくと激しい心音が鼓膜に響き、快感で視界が白く霞み始める。
 欲望の証が小さな穴から吹き出すことだけをイメージして、一気にそこに昇りつめようとしたその瞬間、体に強い衝撃を感じた。
 無理な態勢を支えていた肩が滑ってバスタブの縁から外れ、濡れたフロアへ体が叩きつけられる。
 ガタン、と大きな音が、浴室内に響き渡った。

「っつぅ……」
 体を打ち付けた痛みに呻いていると、派手な音を聞きつけたらしい北条が駆け付け、勢いよく浴室のドアを開けた。
 無様に転がった健吾の姿に北条が目を見開き、入ろうか入るまいか逡巡しているのが手に取るようにわかる。

「蒼馬……、来ないで……」
 北条の顔を見ていられず、健吾はとっさに顔を伏せる。
 落ちた衝撃で後ろに潜ませていた指は抜けていたが、そこに残る淫靡な気配と体勢で、健吾が何をしていたかなど、勘の良い北条はすぐに察したことだろう。
 恥ずかしさに震える体を、身体を叩くシャワーが隠してくれた。
「お願い……部屋に……いて」
 無様に下半身をさらしたまま、健吾はその姿を取り繕う事もせず、これ以上見られたくないという願いだけを口にした。
 健吾の言葉に、一瞬立ち去るそぶりを見せた北条はしかし、踵を返して浴室に足を踏み入れると、ゆっくりと健吾の側に膝をついた。

「出せないか?」
 力強い手が、倒れていた健吾の体を抱き起こす。
 その刺激に震え、カチカチと歯を慣らす健吾を見て、北条はあきらめたようにため息をついた。
 黙って俯く健吾をバスタブに凭れかけさせ、北条が浴室を出て行く。
 健吾のペニスはガチガチに勃ち上がったままだったが、浅ましい姿を見られてしまったという衝撃で、それを解放したいという気力を失っていた。
 ぼんやりと北条が消えた先のドアを見つめていると、再びそこへ大きな影がよぎる。
 それが北条だろうが誰だろうが、どうでもよいような気がした。
 実際に現れたのは北条だったが、健吾はただ大きな男のシルエットを目で追うだけで、なんの反応を示すこともできなかった。

 健吾の側へ膝を付き、やさしく頬をひと撫ですると、その行為にすら震える健吾を抱き寄せて「大丈夫だから落ち着け、いい子だから」と囁く。
 再び溢れ出した涙が大きな手のひらで拭われ、「そんなに泣くな」と額にキスが落とされた。
 北条の体に当たった水流が逞しい体を伝って健吾の体に降り注ぐのを、「きれいだな」と子供のように目で追っていると、それを見た北条が笑って、頬にも唇を押し当ててきた。

 膝の部分で留まっていたスラックスと下着に手をかけられ全て脱がされてしまうと、痛い程に勃ち上がった屹立が足の間で物欲しげに揺れているのが視界に入り、はっと我に返る。
 その部分を隠そうと強く両手で覆って体を閉じると、腫れあがったそこが鈍い痛みを訴えた。
「おい、そんなに酷くするな。今楽にしてやるから」
 北条は、脱がせたスラックスと下着を無造作にバスタブへ投げ入れると、自らの体を跨がせるように健吾を抱きかかえ、腰を支える。
 膝に力がはいらず、思わず北条の首にしがみつくと、「そのまま捕まってろ」と低い声に命じられた。
 一体どうするのかと不安に震えていると、開いた脚の間に、北条の長い指がするりと滑り込んだ。
「な……に……?」
 なにかの液体をまとった北条の指先が、その部分の輪郭をたどる様にくるりと円を描く。
 驚いた健吾の体がひくりと痙攣すると、腰に回された腕にぐっと力がこめられた。

「心配するな、ただのベビーオイルだ」
 おそらく、備え付けられたアメニティグッズの中にでも入っていたのだろう。
 北条が、まさかそんなものを使って健吾の後ろに触れてくるとは思いもよらず、逃れようとイヤイヤと体を捩ると、腰に回された腕の力がさらに強くなった。
 下からぐっと持ち上げられて体が浮くと、先程よりも開いてしまった脚の間を北条の手が行き来する。
 ペニスを、睾丸を、会陰を、ぬるぬると撫でられて体をひくつかせていると、最初に触れていたその部分へと指先が伸びる。
 つぷり、と後孔に暖かいものが差し込まれ、その脳天を突かれるような衝撃に健吾の体がびくびくと震えた。

「やっ……やだっ!いやだっ……」
 体の中に北条の長い指を感じ、健吾の胸が激しい鼓動を打ち始める。
 想像もしなかった出来事に、健吾ははくはくと水面に顔を出す魚のように激しく喘いで、北条から逃れようと力強い腕の中でもがいた。
「暴れるな」
 北条は鋭く制すると、嫌がる健吾の後頭部を押さえ、首筋に顔を寄せる。
 急所といわれる部分に歯を当てられれば、たとえ相手が北条であっても、噛まれるかもしれないという恐怖で身体が動かなくなった。

 そして、健吾が恐怖を感じたその通りに北条は顎に力を込め、歯型がつくほど強く健吾の首筋に噛みついた。
 驚きと痛みに身体を震わせると、直後、痛みを感じた部分にやわらかい熱が押し付けられる。
 北条の舌が噛み跡をたどっているのだと感じた瞬間、背筋にぴんと強い快感が走った。
 すがりついたまま動かなくなった健吾に、「そうだ、いい子だ。おとなしくしてろ」と北条が満足気に笑う。
 逞しい体に乗り上げるように抱き上げられて、健吾は床から腰を浮かす。
 北条は片腕だけで健吾の体を支え、空いている手を使って健吾の後ろを苛んだ。

「健吾、前、自分で触れ」
 命じられるがまま、震える手を反り返った自身に伸ばすと、しびれるような快感が体を走り抜けた。
 先走りで濡れそぼっている屹立を擦り上げると、途端に甘い疼きに襲われる。
 何かを探る様な北条の指先に、健吾は無意識に、その長い指が「そこ」に当たる様に腰を蠢かした。

 ほんの一瞬だけかすめたその場所に健吾の体がぴくりと反応したのを、北条は見逃さなかった。
 噛み跡をつけた場所に唇と舌を這わせながら、揺れる健吾の腰をなだめるように、指先を深く潜り込ませる。
 引きずり出される指先がわざと強くその部分を擦っていくと、健吾は大きく悲鳴を上げた。
「んん……っ、や……いやだ……っ」
「いやじゃないだろ?」
 オイルをまとった指の本数が増やされる。
 シャワーの音でかき消されて聞こえるはずのない、くちゅくちゅといういやらしい音が脳内に響き渡り、ペニスの先端からどっと温かい体液が漏れ出るのが分かった。
 健吾の手の動きが早くなるのに合わせ、北条の指の動きも強くなる。
「……イクか?健吾」
 北条の肩に激しく額を擦り付けながら健吾が頷くと同時に、北条の指がそこを強く押しつぶしす。
「い……やぁ………っ!!!」
 びくんと激しく体が痙攣し、放出と共に、支えられた背中が強くしなった。
 二度、三度と、ほんの数秒の間に大量の精液を吐き出し、そのたびに健吾はきつく北条にすがりつく。
 噴き出した体液を溢すまいと手のひらに包み込んだはずが、指の間から迸り出たそれが、見事に北条のシャツを汚してしまった。

 北条の指が抜け出ていくのと同時にペニスから残りの粘液を吐き出すと、しなる様に反り返っていた体が力を失くして、崩れ落ちた。
 脱力した健吾の体を支える北条から、ほっとしたような気配が伝わってくる。
 ペタンと北条の脚の上に座り込むと、やわらかく抱きしめられ、よくやったというように濡れそぼった背中をやさしく撫でられた。
 ペニスを握り込んでいた手が外れ、白い糸を引きながらだらりと床の上に投げ出される。

「もう一度、出すか?」
 放出の余韻に浸っていた健吾の耳に届いた北条の冷静な声に、熱に浮かされたようにかすんでいた思考が一気に現実に引き戻された。
 厚い胸板を押し、体を離してみると、あれほど大量に吐き出したにも関わらず、その場所は萎えることなく赤く腫れ上がってひくひくと物欲しげに揺れていた。
 健吾が黙っていると、北条がためらいもなくそれに手を伸ばす。
 目の前にある北条のシャツは、一目見て分かるほど健吾の精液で汚れていた。
 シャツを汚された事を怒りもせず、淡々と屹立に触れた手を動かそうとする北条の体を引きはがすように押しやると、健吾は力なく首を横に振った。

「も、いい。後は一人でする……」
 快楽に負けて、北条に甘え、その手を借りて自分を解放した。
 
「健吾?」
「シャツ、汚してごめん。新しいの、俺が買うから」
 洗って汚れが落ちたとしても、健吾の精液がついたシャツなど着られないだろう。
 そう言いながら体を押すと、引き留めるように北条が健吾の腕を強く引いた。

「何を言ってる?」
 北条が眉を顰め、問いただすように健吾の俯いた顔を覗き込む。
「もう、もういいから!一人にしてくれって言ってる!」
 激しく首を振れば、シャワーにあたりつづけていた髪が飛沫を飛ばす。
「健吾?」
「同情とか、責任とか、そういうので触って欲しくない!処置するみたいに、冷静な蒼馬になんかにっ……!」
 激しく頭を振り、北条の腕の中から逃れようとすると、さらに強く引き寄せられて、暴れる体を羽交い絞めにされる。
「健吾、落ち着け」
 身体を揺さぶられ、力の入らない膝が崩れ落ちて倒れ込むのを、引き上げるように北条が支えた。
「どうした?何をそんなに怒ってるんだ」
 北条の言葉にカッとなり、閉じ込められた腕の中から整った顔を睨み上げる。

「警護士って大変だよな!依頼人が媚薬飲まされて苦しんでたら、性欲処理も手伝わなきゃならないんだもんな!」
 泣きながらそう叫ぶと、北条が瞠目する。
「本当は気持ち悪いだろ?無理して触ってなんてくれなくていい!義務感で触るぐらいなら、ほっといてくれた方がマシだった!」
「健吾」
 はあはあと荒い健吾の息遣いが、浴室に漂う蒸気を揺らしている。

「俺の気持ち、知ってるくせに……。知ってて、距離おいてたくせに」
「健吾、待て」
「いいからあっちいけよ!同情されるぐらいなら、一人でほっとかれたほうがいい!」

 違う。本当はそんなことが言いたいんじゃないのに。
 触ってもらえて、本当は嬉しかったくせに。
 健吾は卑怯だ。
 北条が今日のことで距離を置くことがわかっているから。もう二度と触れてもらえないことがわかっているから、だから自分から離れようとしている。
 これ以上はもう、辛いから。もう期待したくないから。
 一緒にいられないのなら、自分から離れたほうが傷つかないですむから。
 
「蒼馬なんか、大嫌いだ……」
 
 北条に向けてそう言い放ちながら、健吾の心は「違う」と叫び続けていた。
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