メイドな悪魔のロールプレイ

ガブ

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七話

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7話



「火葬とは簡単に言えば死体を焼くことです」
「……彼女を、焼けと言うのか?」
「ええ。ただの土葬では疫病の原因となりますので」

それに–––と、私は地面に目を向ける。何度もジャリジャリと、脚で踏みつける。ついでに、鑑定も発動させる。

『鑑定のレベルが【1/10】→【2/10】に上昇しました』

「どうやらここの土は魔力を多く含んでいるようです。肉がついたままで埋めると、下手したら屍鬼グール屍肉人ゾンビになりますよ?」
「しかし……」

ご主人様は辛そうな顔をして、首を横に振った。まあご主人様にとっては異文化だろうし、理解し難いんだろうね。

「……彼女を燃やすなんて、僕にはできない」
「左様でございますか」

違った。ただ単に「彼女」に未練があるだけだった。まあ、ご主人様もこうおっしゃていることだし、別の方法にしようか。

「……それならば、こちらに『彼女』をお入れになってくださいませ」

私は自分の魔力の八割がたを使って、とある棺桶を創り、地面に置いた。

「……棺桶か?」
「はい。この棺桶は外側からの魔力……魔素の侵入を防ぐ作りになっております。ですのでこれに入れれば、魔物になる心配はございません」

ただし、なんらかの外来的要因がなければの話だけどね。
もし何者かがここで死体を見つけて、なんらかの意図を持って棺桶の蓋を開けて仕舞えば意味がない。
果たしてご主人様は、そのことに気づくのだろうか。

「そんなものがあるならあると先に言え。燃やす必要など無いではないか」

ご主人様はジトッとした目でこちらを見つめてくる。

「一番楽な方法をはじめに告げるのは当然のことでしょう?」
「……それもそうか」

いや納得しちゃうんですか。ご主人様って案外ポンコ……いえ何でもないです。

「っと……」

私の身体が、一瞬だけぐらっと揺れる。危ない危ない。魔力不足で倒れるところでした。

……魔力はまだ二割ほど残っているのに、魔力不足の体調不良って起こるんですね……。

私はご主人様に気取られないように、目眩や頭痛、立ちくらみを必死に抑え込んだ。

『スキル『苦痛耐性』を獲得しました』

「……どうした、そんなところに突っ立って。体調でも悪いのか?」

ご主人様は「彼女」の死体を棺桶に入れ終わったのか棺桶に蓋を被せて、心配そうな瞳でこちらを見つめていた。

「いえ、大丈夫です。体調不良などという事象は私の中で一切見受けられません」

私はご主人様に心配する必要はないと告げて、棺桶を片手で持ち上げた。

「それでは埋めますよ。大好きな「彼女」へのお別れはすみましたか?」
「……ああ。もう既に、すませてある」

私は先程掘った穴のなかに、死体の入った棺桶をそっと入れて土を被せた。
掘った際に出た土ではなぜか埋めきれなかったので、残り少ない魔力で土を創り、代用した。

流石にそろそろマズイので、私はインベントリから〈ゲーム配信おめでとう!ボーナス〉で貰ったマナポーションを取り出し、飲み干した。

「にっが……」
「なにか言ったか?」
「何でもありません」

私は空になったビンを無造作にインベントリに突っ込んだ。

「–––さて、埋め終わりましたよ」

私は魔力の0.5割くらいを使って、少し豪華な墓石を創った。創った墓石を棺桶を埋めた場所に置いて、ついでに花も添えておいた。

「……ありがとう」

彼は顔を伏せて、「彼女」のお墓の前に立った。そして手を合わせて、ご主人様は「また会おう」と言った。

–––それから5分ほど経っただろうか。ご主人様はようやく顔を上げて、こちらを見た。

「すまないな、時間を取らせた」
「いえ、ご主人様の気の済むまでやって貰ってもかまいませんよ」

私がそう告げるとご主人様は「そうか」と言って、ふっと笑った。

「–––それでご主人様。神に復讐をすると言っても、身を置ける安全な場所がなければ話になりません。当てはあるのですか?」

するとご主人様は顔をしかめて、

「あるにはあるのだが……」

と言った。顔を顰めるなんて、よっぽどの理由があるのかな?

「使えるものは全て使うべきです。……それとも、なにか問題でも?」
「……いや、問題はない。やつならば進んで力を貸してくれる筈だ。……住居とかもな。ただ……」
「ただ?」
「奴には借りを作りたくない」

こんな時までワガママですか……。本当に仕方のない坊ちゃんですね!

「もう一度言いますが使えるものはなんでも使うべきです。ご主人様のワガママなんて聞いている暇なんてないんですよ」

私がため息をつきながらご主人様に言うと、ご主人様はしぶしぶ首を縦に振った。

『気配察知のレベルが【1/10】→【2/10】に上昇しました』
『脚力上昇のレベルが【1/10】→【2/10】に上昇しました』

「–––ご主人様」

私はインベントリから【魔銀のテーブルナイフ】を取り出して、右手に構えた。

「なんだ?」
「失礼します」

私はご主人様を片手で持ち上げて、その場から後方へと跳ぶ。
その直後–––なにかが空より飛来し、先ほどまで私たちがいた場所を抉りとった。

「なっ……!」

ご主人様は顔を唖然とさせて、抉り取られた地面を見つめている。先ほど作ったお墓はギリギリ直撃を逃れ、無事だった。

私はご主人様を抱えて後方に生えている木に跳び乗り、空にいる敵影を確認する。

「まさか……」

ご主人様はそれを見て、顔を青くさせた。どうやらご主人様はそれの正体を知っているようだ。

–––それはまるでコモドドラゴンを数十倍にして、体表を赤く染めたような姿をしていた。

うん、ドラゴンである。体表が赤いし、レッドドラゴンかな?
私はそのドラゴンらしき生命体をレッドドラゴンと仮称することにした。

「……おい、悪魔。逃げるぞ」
「……なぜ?」

私の鑑定によるとあのドラゴンはまだ人間でいう成人したてのようで、HPは35000、つまり私の2.5倍しかなく、あまり強くなさそうだった。

「なぜって、見てわからんのか?!あれは〈クリムゾンブラッドドラゴン〉だ!勝てるわけがない!」

ご主人様は声を荒げさせて、私の足を叩いた。痛くも痒くもありませんが、そんなに大声で叫ばれては……。

ご主人様の声に反応したのか、レッドドラゴン(仮称)改め〈クリムゾンブラッドドラゴン〉は、ぎょろりと瞳をこちらに向けました。

ほら、言わんこっちゃない。

「ひっ」

ご主人様はまるで女の子のような可愛らしい声で悲鳴を上げた。全身をカタカタと震わせて、もうダメだ……。と譫言のように呟いている。

「……くすっ」

ダメだ。もう笑いを堪え切れない。

「あははははは!!!」

あまりにもご主人様が面白くて、私は笑い叫んでしまった。
その様子にご主人様も、況してや攻撃してきたはずの〈クリムゾンブラッドドラゴン〉さえ、呆然と私を見つめていた。

「ご主人様、私とあなたはどのような契約を結びましたか?」

私は笑いすぎて出てきた涙を手で拭いながら、ご主人様に聞いた。

「……僕を絶対に裏切らない、あとは、僕をありとあらゆるものから守る、だよね」
「はい、よくできました。そうです。私は貴方を決して裏切らず、貴方を絶対に守る、貴方の忠実なる下僕です」

私はスキル〈威圧〉を発動させる。

「ですからご命令下さい。貴方の声で、アレを殺せ、と」

犬歯を剥き出しにさせて、私はご主人様に獰猛に笑いかける。
ご主人様は口をポカーンとさせて、目をまんまるとさせていた。
しかしすぐに顔をハッとさせて、コクリと頷きた。

「……イア」

ご主人様はゆっくりと口を開いた。

「なんでしょう?」

私はわざとらしく彼に問いかけた。彼はクリムゾンブラッドドラゴンを見据えて言い放った。

「クリムゾンブラッドドラゴンを、殺せ!!」
かしこまりましたYes私のご主人様My lord

私は先程からこちらを見つめて動かないクリムゾンブラッドドラゴンの大きな瞳に向かって、魔銀のテーブルナイフを投擲した。

不意を突かれたのか、〈クリムゾンブラッドドラゴン〉は反応出来ずにその瞳を失った。

「GOAAAAAAAAA!!!!!!」
「うるさいトカゲですね」

悲痛な叫び声をあげたドラゴンは、こちらをギロリと睨み、「GOAAAAAAAAA!!!!!!」と吠えてきた。

私はそれを嘲笑して、指をくいっくいっと動かして挑発した。

私はわざとそれに背を向けて、木から飛び降りて走り出した。

クリムゾンブラッドドラゴンはそれを見てニヤリと笑い、私たちを追いかけてきた。

「っておい。あれだけ言っておいて逃げるのか?!」
「あなたはバカなのですか?ご主人様。あそこで戦えば「彼女」の墓は埋めた死体ごと消滅しますよ?」

私はご主人様の言葉で鼻で笑う。

「それと、少し黙っていて下さい。舌を噛みますよ」

バギィと、地面にヒビが入る音が聞こえた。

………
…………
……………

「ここら辺でいいですね」

いま私たちがいるのは、私が「彼女」の魂を代償に呼び出された場所。

私はご主人様をそっと地面に降ろした。そして、今走ってきた真逆の方向を指差して言った。

「あの雑木林を抜ければ獣道があります。それを辿っていけばこの山から出られます」
「……僕に逃げろと?」
「はい。足手纏いです」

ご主人様は「わかった」と頷き、雑木林へと駆けて行った。

「さて–––」

クリムゾンブラッドドラゴン–––もう名前が長いからレッドドラゴンでいいや–––レッドドラゴンがここに来るまで、おおよそ1分ほどというところか。

「……そういえば。〈回帰〉」

すると私の手元に、血塗れのテーブルナイフが戻ってきた。それと同時に、あのドラゴンの悲痛な叫び声がまた聞こえた。

「さて、子供とはいえドラゴンです。気を抜かずに狩りましょうか」
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