メイドな悪魔のロールプレイ

ガブ

文字の大きさ
6 / 18

六話

しおりを挟む
6話



「……僕は、今は亡き〈ヴァルタニア王国〉の第1王子だ。そして、今まで数え切れないほどの転生を繰り返している」

理由は不明だが、ご主人様の身体はカタカタとまるで何かを恐れるように震えていた。

私はとりあえず、ご主人様の背中に毛布を掛けてあげた。気休め程度だが人は不安な時、身体を温めてあげるとその気持ちが少し安らぐのだ。

「……ありがとう。–––僕は死ぬたびに、おかしな空間で絶対にある人物と会っているんだ」

おそらく、その人物がご主人様に呪いを掛けた「神」なんでしょうね。

「その人物とは?」
「……そいつが、僕に呪いを掛けた張本人。自ら以外の神を悪魔と称して、神を狩る神」

ご主人様は悔しくて仕方がない、その様な表情をして、膝に爪を立てた。

……唯一神ってことかな。それにしても神を狩る神だなんて、いったいどれだけの力を持ってるんだか……。
力が強いということは、それだけ信仰度が高いという証。これは苦労することになりそうだなぁ。

「そいつがなぜ僕に呪いを掛けるのか、その理由はわからない。ただ、僕の中にあるのは果てのない憎しみだけ」

ご主人様は「彼女」へと視線を向け、吐き捨てる様に言った。

「僕に掛けられている呪いは二つ。〈死ぬたびに、記憶を持った状態で転生する〉と〈ある時期になると大切なものを喪う〉だ」

……なんともまあ、悪辣な神さまだね。つまり喪う哀しみを永遠に感じ続けろってことかな?

「つまり今回のご主人様は、大切なものである『自分の国』と『民』、そして『彼女』に『家族』を喪ったのですね?」
「……ああ」

ご主人様の瞳はまるで出会った時のように、憎しみに燃えていた。
うん、喪うことの辛さはよくわかる。だけど……、それだけ「喪う」ことを何回も繰り返しているのに、なんでご主人様は喪うことに慣れていないのだろうか。それだけは、わからない。
……まあ、すでに終わりまで定められているストーリーに疑問を持つだけ無駄なんですけどね。

「なるほど。それで、その繰り返される悲劇に終止符を打つために、そしてそれを引き起こした神に復讐するために私を呼んだのですね?」
「……ああ。お前が現れたのは嬉しい誤算だった」

ご主人様は目を瞑ってフッと笑い、椅子から立ち上がった。そして血塗れの「彼女」の側に行き、右腕に抱えるような形で「彼女」を持ち上げた。

「……おい悪魔」
「なんでしょう」
「お前、墓石はつくれるか?」
「作れますよ」
「……そうか」

それだけ言ってご主人様は、この山の崖のある方へと無言で歩き出した。私も無言で、ご主人様について歩く。

冷たい夜風がヒュオッと音を立てて、私の頬を撫でる。
私たちの喋り声が途切れた夜は静けさを増し、とてつもなく不気味だった。

『スキル〈自然影響耐性Lv1〉を獲得しました』

不意にご主人様の足が止まった。私は顔を上げてご主人様を見つめる。

……泣いていた。ご主人様は、月を見上げて涙を零していた。それを拭おうともせずに。

右腕が塞がってるから拭えないだけかもしれないけど。

「そういえば、僕が『最も大事なもの』を喪うとき…、憎らしいほどに綺麗な満月が、いつも顔を覗かせていたなあ……」

……ふむ。ご主人様のいうある時期とは、満月が関係しているんですかね?

ご主人様は再び歩き出した。私も、それに続いて再び歩き出す。

……涙で顔がクシャクシャですけど、拭かなくていいんですかね?




––––再びご主人様の足が止まったのは、月がよく見える崖に着いたときだった。
とは言っても、すでに月は沈みかけていて、その反対側では太陽がほんの少しだけ顔を出している。

「……ここにしよう」

ご主人様はポツリと呟いて、手に抱えていた「彼女」を邪魔にならない場所に降ろした。

「……悪魔、スコップをよこせ」
「……そんな土臭い仕事は私に任せてもらっても構いませんが」
「いいや、僕がやる。僕がやらないと、いけないんだ」

ご主人様はそう言って私からスコップを受け取り、地面を掘り出した。

「……硬い」
「非力ですねぇ……。仕方ありません。私も手伝いましょう」

正直言ってじっとしているのも暇なので、私はご主人様を手伝うことにした。


ザックザックと土が掘り返される音が、静けさを増す夜を侵食する。

「なあ」

ご主人様が土をスコップで掘りながら、話しかけてきた。

「なんでしょうか」
「……本当に、神は殺せるのか?」

どうやらご主人様は、神などという超越生命体が本当に殺せるかどうかが不安のようだ。

「ええ、殺せますよ。–––神とは、「信仰」によって存在することができます。それと同時に、「信仰」によって力を得ています」
「つまり、その「信仰」をやめさせれば……」
「はい。神の力は弱まり、存在出来なくなります」

神とは大まかに分けて二つの種類がある。一つ目は、「信仰」によって生み出されたもの。
これは「信仰」されることによって存在でき、自らを信仰する……所謂信徒が増えれば増えるほど、力が増大する。

二つ目は、「進化」によって生まれたものだ。
私も詳しいことはわからないけど……、うん。なんかしらの条件を満たした生命体は、神に進化できるらしいです。

「ですが……、宗教とはなかなか厄介なものでして。たとえ教会などの建物や神の姿を模した石像を破壊し尽くしても、なくならないものなんですよね」

私はザックザックと土をスコップで掘りながら、ニヤリと笑みを浮かべた。

ちらりとご主人様の方に顔を向けると、ご主人様はちょっと引いた様子でこちらを見つめていた。

「……なんだ今の笑みは。軽く狂気を感じたぞ」
「ふふっ、気のせいでございます。ほらご主人様、手が止まってますよ」

私がそう言うと、ご主人様はなにやら慌てた様子でまた土を掘り始めた。

「–––で、話を戻すが……、その信仰を辞めさせる方法はあるのか?」

その言葉に私は、ニッコリとした笑顔でこう告げた。

「ええ。とりあえず信徒を皆殺しにしてしまえばいいのです」

それが一番手っ取り早くて、最もシンプルな方法なんだよね。それに……、経験値も得られるだろうしね。
天使に妨害されてオンラインモードでレベリングができないなら、こちらでするしかないのだ。

ご主人様は復讐相手である神の弱体化を狙える、私は経験値を得られる。まさにwin–winである。

「……は?」
「はい?」

ご主人様は唖然とした顔で、こちらを見つめていた。……私なにかおかしなこと言ったかな?

「……関係のないやつらを殺すのか?」
「関係なくありませんよ?だってその信徒は、ご主人様の怨敵である神を信仰しているのです。つまり、ご主人様や私の敵ではないですか」

私がそうやって説明するも、ご主人様は納得がいかない、みたいな表情をしている。
……甘ったれたご主人様だなあ。

「……そうですね、なら他に手はありますか?ご主人様が他の手があるの言うのならば、私もそちらに合わせますが」

ないならこっちに合わせろや、という意も込めて私はご主人様に告げた。
さて、これでも納得しないなら私の中でこいつはヘタレって認識になっちゃうけど……、どういう返答が返ってくるかな?

「……ないな。気は乗らないが、皆殺しの方針で行くか」

……このクソガキ本当に復讐する気あるんですかね?めちゃくちゃイラッとしたんですけど今。

ご主人様は仕方ねえなあ、みたいな顔をしてザックザックと土を掘っている。

……めちゃくちゃその澄ました顔を殴り飛ばしたい。私はスコップの持ち手を握り潰すことで、なんとかその気持ちを抑えることができた。

音は立てていないので、ご主人様には気づかれていないはず–––

「…………機嫌悪いのか?」

ご主人様は顔を青くさせて、折れたスコップの残骸を見つめていた。

「いえ、ちょっと力み過ぎてしまいまして。驚かしてしまいましたか?」

ええ、主に貴方のせいで機嫌が悪いです。今にも殴りたいという衝動を抑えるために、握りつぶしてしました。

「そ、そうか……。まあ、す少しは驚いた」

ご主人様はすぐさま私から顔を逸らして、「さあ~掘るぞ掘るぞ」と言って、手を動かし始めました。
私も新しいスコップを創り出し、止めていた手を再び動かしました。

それから数十分後、ようやく人一人入れそうな穴が出来上がった。
ご主人様と私は穴から出て、スコップを崖下に投げ込みました。 
崖下は川になっているようで、スコップは一瞬にして行方がわからなくなりました。

……このクソご主人様も投げ込んだらアレみたいになりますかね。
っと、いけないいけない。契約が完了していないのに殺すのはダメですね。

私は視線をご主人様がいた方へと向ける。しかしそこにはご主人様の姿は無かった。

「……まさか、私の気づかぬうちに自らあの川に……?!」
「するかアホ」

私の背後から、ご主人様の声が聞こえた。その腕には「彼女」の死体を抱えていた。

ほっチッご無事でしたか。死んでいれば良かったです良かったのに
「なんか言葉に殺気を感じるのだが……」
「気のせいでございます」

ご主人様は「そ、そうか」と言って、先程掘ったばかりの穴へと近づいていく。

「–––俺のせいで、すまない」

ご主人様はそう言葉を零してから、「彼女」の死体の手の甲に、そっとキスをした。

……死体にキスって。ご主人様死体を愛する趣味でも持っているんですかね。
どれだけ愛していても、どれだけ愛されていても、死んだらそれまでだというのに。

「……火葬はしないのですか?」

そのまま死体を穴にそっと入れようとしているご主人様に、私は疑問をぶつける。

「……火葬とはなんだ?」

どうやらこの世界には火葬の風習がないようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...