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五話
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5話
『SLPを3消費して、スキル《気配察知Lv1》を獲得しました』
『SLPを2消費して、スキル《脚力強化Lv1》を獲得しました』
『隠密術のレベルが【4/10】→【5/10】に上昇しました』
面白そうなスキルは取れるもののなかには無かったので、今後必要になりそうなスキルを取った。
まず《気配察知》。これは隠密術と同じ常時発動型のスキルで、レベル1では自分を起点として半径10m以内の気配を察知することができる。
《脚力強化》は名前の通り、脚力を強化するスキルだ。これも隠密術や気配察知と同じ、常時発動型のスキルだ。
試しにそこら辺に立っていた石柱を蹴ってみたら、石柱はドオオンという大きなを立てて崩れ落ちた。……そもそもこの身体のスペックがよくわかっていないので、どれだけ強化されたのかは不明だ。
「……なんの音だ」
どうやらご主人様が起きてしまったようだ。私は声のした方へと顔を向ける。
ご主人様は寝起きだからか目をトロンとさせていて、不安そうな顔をしてこちらを見つめていた。
髪の毛はくせ毛なのかものすっごくボサボサで、表は不安げに揺れている。さらにカタカタと震えて毛布に包まっている。とても庇護欲をそそられる。
「いえ、どうやらボロボロだった石柱が自然に崩落したようです」
私は一瞬でご主人様の背後に移動し、ニッコリと笑いながら、ご主人様の髪の毛を櫛で梳かす。
「……そうか。ならいい」
ご主人様は髪を梳かしていた私の腕をぺちっと叩いて払い、椅子から立ち上がった。
「……水はあるか?顔を洗いたい」
「こちらに」
私は悪魔術で盥を創り、その中に悪魔術で創った水を注いだ。ついでに清潔なタオルも創った。
私は水の入った盥と清潔なタオルを机の上に置き、ご主人様の後ろに控えた。
パシャパシャとご主人様が顔を洗っている音が聞こえる。
その様子を、私は笑みを貼り付けて見つめる。
『スキル《作り笑い》を獲得しました』
……なにそのスキル。いやまあ、あっても困らないから別にいいんだけど……。
ご主人様は顔を洗い終えたのか、タオルで顔を拭いていた。
ああ、せっかく整えた髪がまたボサボサに……。
私が手をワナワナとさせていると、ご主人様は不思議そうに顔を傾げて
「なにをやっている?さっさと僕の髪を整えろ」
と言った。私は顔をニッコリとさせて、ご主人様の後ろに櫛を構えて立つ。
「かしこまりました」
このクソガキッ!
……おっと、こんなことで平静を乱してはダメですね。悪魔として精進せねば。
「いたっ!もっと丁寧にやれ!」
「おっとすみません。少々力加減を間違えてしまいました」
棒読みでご主人様にそう告げて、今度はちゃんと力を加減して、髪を梳かしていく。
……ご主人様の髪の毛、まるで女の子のように長いですね。しかも艶々でサラサラだし……うう、羨ましい。
髪を梳かし終えたので、私は悪魔術でリボン付きの髪ゴムを創り、それで髪の毛を纏める。
「出来ましたよ」
「……ありがとう。ってなんだこのリボンは!」
「悪魔のお茶目な悪戯でございます」
私が舌を出してニッコリと笑いかけると––所謂テヘペロ––ご主人様は顔を真っ赤に染めて、ふいっと顔を背けさせた。
……女性に対する耐性なさすぎません?このご主人様。
「……ごほんっ。––おい悪魔。何か着れるものを寄越せ。血に濡れてて気持ち悪い」
「かしこまりました」
……いったいどこのお坊ちゃんなんでしょうね。この人。
整った顔立ちは、中世ヨーロッパあたりだと貴族の証。そして血塗れだけど豪華そうな服。あとは、ご主人様が左手の人差し指に嵌めている黒色の宝石の嵌った指輪。
……まあ、あとで本人に聞けばわかることですし、特に気にする必要もないですね。
私は悪魔術で、清潔な長袖のワイシャツと灰色の長袖のズボンを創り出した。
『悪魔術のレベルが【1/10】→【2/10】に上昇しました』
「ご主人様、立ってくださいませ」
私はそれに着替えさせるため、ご主人様の前に立つ。
「……いい。自分で着替えられる」
「いえ。これは使用人である私の仕事でございます」
「……自分でできるっ!」
ご主人様は私の手からシャツとズボンを奪い、「こっちを見るなよ!」と私に告げてトトトッとそこら辺に立っている石柱の影へと隠れてしまった。
……まるで反抗期真っ最中の子供を見ているような気分ですね。私はふぅ、とため息を吐いて、あることを思い出した。
あ、契約の期間とか決めてない。……危ないところだった。
ご主人様が石柱の影から出てきた。着替え終わったのだろう。
石柱の影から出てきたご主人様を見て、思わず私はふっ、と嘲笑してしまった。
まずワイシャツ。ボタンが一つずつずれて止められていた。そしてズボン。後ろ前逆で履いていた。
これを見て笑わない人などいるのだろうか。
「……なんだその笑みは」
「ご主人様。ズボンが後ろ前逆で御座います。それとシャツのボタンを付け間違えてます」
「…………」
私が大きな鏡を創って、ご主人様にその惨状を見せた。
ご主人様は無言で駆け出し、再び石柱の影に隠れた。
もう、無駄に見栄張らないで私に任せればいいのに。私は大きくため息を吐いた。
それから数分後、ご主人様はちゃんと服を着て石柱の影から出てきた。
「––さて、ご主人様。お伝えしたいことが」
「……なんだ?」
「契約でとても重要な取り決めをするのを忘れていました」
ご主人様は再び椅子に座り、ジトッとした目でこちらを見てきた。
「重要なことを忘れるって、お前の頭は大丈夫なのか?」
「ご主人様が腕を捥がれたぐらいで泣き叫ぶのが悪いのです」
「……泣き叫んではない」
「では訂正を。啜り哭くのが悪いのです」
「……すすり泣いてもいない!」
ご主人様はぷくっと頰を膨らませて、ドンッと机の上を叩いた。全く迫力がないので怖くはありませんが。
「……話を戻しましょう。––ですので、今から取り決め忘れていたことを決めようと思います。よろしいですね?」
もしここに他の上位悪魔がいたら、笑われてしまうような台詞を、私はご主人様に伝えた。
「……わかった」
「ではまず、私とご主人様の"契約の期間"を決めたいと思います。一応言っておきますが、『僕が良いと言うまで』や『飽きるまで』などの不確定なものはダメですよ?」
まあ、ご主人様の回答は一つ以外あり得ないんですけどね。
「そんなものもう決まっている。僕が、"この呪いを掛けた神を殺すまで"が僕とお前の契約期間だ」
「かしこまりました。では、その契約が完了したあかつきには––」
「……待て。僕はもうすでに代償を払ったぞ?」
「いえ、あれは"願い"に対する代償です。契約とは全く別ですよ」
「……なっ!」
「それにたった一つの代償だけで三つも願いを叶えてあげているんです。これでもサービスしているんですよ?」
まったく、勘違いの多いご主人様ですね。……騙される方が悪いんですよ。
私はニヤリと笑みを浮かべて、ご主人様に告げた。
「さて、気を取り直して。––では、その契約が完了されたあかつきには––貴方の魂を頂戴致します」
さて、ご主人様はどういった反応を見せてくれるのでしょうか。
「……魂か。おい悪魔。魂を取られるのは、痛いか?」
「いえ。一瞬ですのでそこまで痛みはしないかと」
ご主人様の問いに対しそう答えると、ご主人様はあ、そう。みたいなノリで
「なら別に良いぞ。……神を殺した後、彼女がいないのに生きている理由がないからな」
と告げてきた。正直言って拍子抜けである。
「––それでは。契約の期間は"呪いを掛けた神をご主人様が殺すまで"。そしてその契約を完了したあかつきには、報酬として魂を頂戴致します」
私は新しく創り出した契約書に、それらを書き込んでいく。新しい契約書で大丈夫なのかって?……大丈夫です。私が飲み込めば前に飲み込んだ契約書と同化するので。
「契約の期間中は、私は貴方の手足となり、貴方を守り、貴方を決して裏切らない」
今度は前みたいに格好つけずに、契約書をパタリパタリと折って小さくまとめて、飲み込んだ。
「これからよろしくお願いしますね。私のご主人様」
「……よろしく頼む」
目を細めて、犬歯を剥き出しにしてご主人様に笑いかける。
相変わらずご主人様は、顔を背けさせてこちらをみてくれない。難儀なご主人様だ。
さて……これで契約に関しては問題ない。次はご主人様について、色々聞かないとね。
「契約に関してはこれで以上でございます。––さて、僭越ながらご主人様の素性と、その"呪い"についてご聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」
「……わかった」
ご主人様はしぶしぶといった様子で、ゆっくりと口を開いた。
『SLPを3消費して、スキル《気配察知Lv1》を獲得しました』
『SLPを2消費して、スキル《脚力強化Lv1》を獲得しました』
『隠密術のレベルが【4/10】→【5/10】に上昇しました』
面白そうなスキルは取れるもののなかには無かったので、今後必要になりそうなスキルを取った。
まず《気配察知》。これは隠密術と同じ常時発動型のスキルで、レベル1では自分を起点として半径10m以内の気配を察知することができる。
《脚力強化》は名前の通り、脚力を強化するスキルだ。これも隠密術や気配察知と同じ、常時発動型のスキルだ。
試しにそこら辺に立っていた石柱を蹴ってみたら、石柱はドオオンという大きなを立てて崩れ落ちた。……そもそもこの身体のスペックがよくわかっていないので、どれだけ強化されたのかは不明だ。
「……なんの音だ」
どうやらご主人様が起きてしまったようだ。私は声のした方へと顔を向ける。
ご主人様は寝起きだからか目をトロンとさせていて、不安そうな顔をしてこちらを見つめていた。
髪の毛はくせ毛なのかものすっごくボサボサで、表は不安げに揺れている。さらにカタカタと震えて毛布に包まっている。とても庇護欲をそそられる。
「いえ、どうやらボロボロだった石柱が自然に崩落したようです」
私は一瞬でご主人様の背後に移動し、ニッコリと笑いながら、ご主人様の髪の毛を櫛で梳かす。
「……そうか。ならいい」
ご主人様は髪を梳かしていた私の腕をぺちっと叩いて払い、椅子から立ち上がった。
「……水はあるか?顔を洗いたい」
「こちらに」
私は悪魔術で盥を創り、その中に悪魔術で創った水を注いだ。ついでに清潔なタオルも創った。
私は水の入った盥と清潔なタオルを机の上に置き、ご主人様の後ろに控えた。
パシャパシャとご主人様が顔を洗っている音が聞こえる。
その様子を、私は笑みを貼り付けて見つめる。
『スキル《作り笑い》を獲得しました』
……なにそのスキル。いやまあ、あっても困らないから別にいいんだけど……。
ご主人様は顔を洗い終えたのか、タオルで顔を拭いていた。
ああ、せっかく整えた髪がまたボサボサに……。
私が手をワナワナとさせていると、ご主人様は不思議そうに顔を傾げて
「なにをやっている?さっさと僕の髪を整えろ」
と言った。私は顔をニッコリとさせて、ご主人様の後ろに櫛を構えて立つ。
「かしこまりました」
このクソガキッ!
……おっと、こんなことで平静を乱してはダメですね。悪魔として精進せねば。
「いたっ!もっと丁寧にやれ!」
「おっとすみません。少々力加減を間違えてしまいました」
棒読みでご主人様にそう告げて、今度はちゃんと力を加減して、髪を梳かしていく。
……ご主人様の髪の毛、まるで女の子のように長いですね。しかも艶々でサラサラだし……うう、羨ましい。
髪を梳かし終えたので、私は悪魔術でリボン付きの髪ゴムを創り、それで髪の毛を纏める。
「出来ましたよ」
「……ありがとう。ってなんだこのリボンは!」
「悪魔のお茶目な悪戯でございます」
私が舌を出してニッコリと笑いかけると––所謂テヘペロ––ご主人様は顔を真っ赤に染めて、ふいっと顔を背けさせた。
……女性に対する耐性なさすぎません?このご主人様。
「……ごほんっ。––おい悪魔。何か着れるものを寄越せ。血に濡れてて気持ち悪い」
「かしこまりました」
……いったいどこのお坊ちゃんなんでしょうね。この人。
整った顔立ちは、中世ヨーロッパあたりだと貴族の証。そして血塗れだけど豪華そうな服。あとは、ご主人様が左手の人差し指に嵌めている黒色の宝石の嵌った指輪。
……まあ、あとで本人に聞けばわかることですし、特に気にする必要もないですね。
私は悪魔術で、清潔な長袖のワイシャツと灰色の長袖のズボンを創り出した。
『悪魔術のレベルが【1/10】→【2/10】に上昇しました』
「ご主人様、立ってくださいませ」
私はそれに着替えさせるため、ご主人様の前に立つ。
「……いい。自分で着替えられる」
「いえ。これは使用人である私の仕事でございます」
「……自分でできるっ!」
ご主人様は私の手からシャツとズボンを奪い、「こっちを見るなよ!」と私に告げてトトトッとそこら辺に立っている石柱の影へと隠れてしまった。
……まるで反抗期真っ最中の子供を見ているような気分ですね。私はふぅ、とため息を吐いて、あることを思い出した。
あ、契約の期間とか決めてない。……危ないところだった。
ご主人様が石柱の影から出てきた。着替え終わったのだろう。
石柱の影から出てきたご主人様を見て、思わず私はふっ、と嘲笑してしまった。
まずワイシャツ。ボタンが一つずつずれて止められていた。そしてズボン。後ろ前逆で履いていた。
これを見て笑わない人などいるのだろうか。
「……なんだその笑みは」
「ご主人様。ズボンが後ろ前逆で御座います。それとシャツのボタンを付け間違えてます」
「…………」
私が大きな鏡を創って、ご主人様にその惨状を見せた。
ご主人様は無言で駆け出し、再び石柱の影に隠れた。
もう、無駄に見栄張らないで私に任せればいいのに。私は大きくため息を吐いた。
それから数分後、ご主人様はちゃんと服を着て石柱の影から出てきた。
「––さて、ご主人様。お伝えしたいことが」
「……なんだ?」
「契約でとても重要な取り決めをするのを忘れていました」
ご主人様は再び椅子に座り、ジトッとした目でこちらを見てきた。
「重要なことを忘れるって、お前の頭は大丈夫なのか?」
「ご主人様が腕を捥がれたぐらいで泣き叫ぶのが悪いのです」
「……泣き叫んではない」
「では訂正を。啜り哭くのが悪いのです」
「……すすり泣いてもいない!」
ご主人様はぷくっと頰を膨らませて、ドンッと机の上を叩いた。全く迫力がないので怖くはありませんが。
「……話を戻しましょう。––ですので、今から取り決め忘れていたことを決めようと思います。よろしいですね?」
もしここに他の上位悪魔がいたら、笑われてしまうような台詞を、私はご主人様に伝えた。
「……わかった」
「ではまず、私とご主人様の"契約の期間"を決めたいと思います。一応言っておきますが、『僕が良いと言うまで』や『飽きるまで』などの不確定なものはダメですよ?」
まあ、ご主人様の回答は一つ以外あり得ないんですけどね。
「そんなものもう決まっている。僕が、"この呪いを掛けた神を殺すまで"が僕とお前の契約期間だ」
「かしこまりました。では、その契約が完了したあかつきには––」
「……待て。僕はもうすでに代償を払ったぞ?」
「いえ、あれは"願い"に対する代償です。契約とは全く別ですよ」
「……なっ!」
「それにたった一つの代償だけで三つも願いを叶えてあげているんです。これでもサービスしているんですよ?」
まったく、勘違いの多いご主人様ですね。……騙される方が悪いんですよ。
私はニヤリと笑みを浮かべて、ご主人様に告げた。
「さて、気を取り直して。––では、その契約が完了されたあかつきには––貴方の魂を頂戴致します」
さて、ご主人様はどういった反応を見せてくれるのでしょうか。
「……魂か。おい悪魔。魂を取られるのは、痛いか?」
「いえ。一瞬ですのでそこまで痛みはしないかと」
ご主人様の問いに対しそう答えると、ご主人様はあ、そう。みたいなノリで
「なら別に良いぞ。……神を殺した後、彼女がいないのに生きている理由がないからな」
と告げてきた。正直言って拍子抜けである。
「––それでは。契約の期間は"呪いを掛けた神をご主人様が殺すまで"。そしてその契約を完了したあかつきには、報酬として魂を頂戴致します」
私は新しく創り出した契約書に、それらを書き込んでいく。新しい契約書で大丈夫なのかって?……大丈夫です。私が飲み込めば前に飲み込んだ契約書と同化するので。
「契約の期間中は、私は貴方の手足となり、貴方を守り、貴方を決して裏切らない」
今度は前みたいに格好つけずに、契約書をパタリパタリと折って小さくまとめて、飲み込んだ。
「これからよろしくお願いしますね。私のご主人様」
「……よろしく頼む」
目を細めて、犬歯を剥き出しにしてご主人様に笑いかける。
相変わらずご主人様は、顔を背けさせてこちらをみてくれない。難儀なご主人様だ。
さて……これで契約に関しては問題ない。次はご主人様について、色々聞かないとね。
「契約に関してはこれで以上でございます。––さて、僭越ながらご主人様の素性と、その"呪い"についてご聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」
「……わかった」
ご主人様はしぶしぶといった様子で、ゆっくりと口を開いた。
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